腹の上に寝るイーグル
腹部に重みを感じて唸りながら目を開く、手を伸ばすと天井の方に腕が伸び、空を切った。
スマホがけたたましい音をがなり立て、目を覚まそうと必死にベルを奏でている。起床時間か、もう少し寝ていたいが今日も勤務はある、文句は言ってられない。
「起きるか」
そう呟けば脳に血が巡りふらっとするような感覚で目が覚めていく。やけに腹部が重いと思い、体を起こす前に目で確認すると・・・
「イーグル?」
「おはようございます風見三尉」
「一ノ瀬三尉?」
腹の上で眠っていたのはイーグルだった。そしてベッドの隣の椅子には一ノ瀬三尉が座っている。そして静かな声で挨拶をしてきた。
なんで朝っぱらかこの2人と顔を合わしてるんだ?昨日は買い物に行って別れたはず。っていうと、イーグルが寂しくなったってところか、まったく。
「しっ、眠られているんですから大声出さないでください」
そう小声で憤る一ノ瀬三尉は、毛布をイーグルの背中の上に掛けなおす。
「俺この後勤務あるから起きたいんだけど」
「じゃあ自分で起こしてください。今日はお2人同時行動です」
「顔合わせ?」
「そうです」
そうだよなぁ、イーグルは099号機なんだもんな。あまりにも昨日の涙が人間らしすぎてすっかり忘れていたが彼女は戸籍どころか人権があるのかすら不明な謎の生命体。
俺としては完全に人間扱いをしているが、彼女が他の人間に受け入れられるかどうかでいったら正直微妙だ。上層部はあの機械と099号機の因果関係を調べているが、正直099号機をどう処分するのかも分からない状態で他の機体も同様のケースに陥った場合の対応法も検討しなければならなくて、イーグルは嫌われているといっても仕方ない。
そんな現状を見て宇月一佐が099号機は309の機材だからと顔合わせを挟んでくれたのだという。
「イーグル、起きろー?」
「・・・んーアテネさん?おはよーございましゅー」
ベッドの上で猫のように転がったままだったイーグルの肩を叩くと蕩けた様子で目を覚ましたイーグルが目の周りを擦っている。
「おはよーさん」
「おはようございます」
「はっ、そうだ!部屋に忍び込んだのに先に起きられてる!」
思い返したようにそう呟いたイーグルの頭にチョップを叩き込みつつ、着替えを持って部屋の外へ出ていく用意をする。
「あれ、もう行くんですかー?」
「着替えですよ」
「イーグル」
服を抱えたままドアの枠に手を掛け、後ろに振り返って言葉を開く。
「なんですか?」
「部屋に忍び込んだの、飯ん時に説教だかんな」
「え?」
「んじゃ、一ノ瀬三尉、イーグルが逃げないように説教しといて」そこまで言うと後ろ手に手を振り部屋のドアを閉める。
「ふふふ、了解です」珍しくお淑やかに口に手を当てながら笑った一ノ瀬三尉がベッドから立ち上がろうとするイーグルの肩に手を置いて座らせる。
「え、ちょっと待ってアテネさん、ていうか一ノ瀬さんもなんでそんな怒ってるんですか普段そんな声出さないですよね、いやちょっと待って、というか話せば分かるというか」部屋の中から大層慌てた様子のイーグルの声がするが無視、自業自得だっての。女同士ならともかく一ノ瀬三尉の手を借りたとはいえ入っていいわけないだろう。自分の立場鑑みろよ。
それに言い出したらキリがない。人の上で寝るな、寝起きドッキリを仕掛けるな、男の寮舎に入るな、服装は昨日買った服から選べ、なんでよりによってダイバースーツのままなんだ、いやこれだけでも言い足りないな。後でしっかり説教しとかないと。
インナーシャツを着ながらスマホの電源を立ち上げる。すぐさま指紋認証して画面が開かれた。勝手に設定されていた一ノ瀬三尉のメールアドレスをタップして文章を打ち込んでいく。
{食事は幹部食堂、先に行ってる。着替えさせといて}
文面はこんなもんでいいだろう。送信のボタンを押すと少しのロードと共に送信されましたの合図である振動が鳴った。
寮舎にある更衣室でフライトスーツを持ち上げると足から履いていく。つなぎ状になったスーツが肌を包み込んでいくうちに那覇のカラッとした朝の空気が窓の外から入り込んできた。
腕を通すと右腕には309のパッチが見える。俺はパイロットだそれは変わらない。昨日の査問でも隊長はそう言ってくれた。ただし、部隊内に新設される部屋の室長といった閑職に回されるかもしれないなんて冗談で言っていたけれど。
服を身に着け終え、寝間着を畳み終えると更衣室の扉を閉めた。




