眠いから寝させてくれ
旋回を終えると、バジャーがバンクを振りながら速度を上げていく。こちらも追随するように速度を上げるが、元々の速度をバジャーに合わせて減速していたので6000ft、気象隊からの報告で偏西風が吹くといわれていた天気では機首が風に押し込まれるように下を向く。エンジンは止まっていないし、機首が下振れするだけだが操作は難しい。だがこの楔を打ち込まれたような操縦をすることからもあと少しで解放される。
「無事進路が変わった。日本空軍機の協力に感謝する」
「グッドラック、それとセルフディフェンスを忘れるな」
バジャーの操縦士と隊長が軽口を交わす中、俺もバンクを振った後離脱して上昇した後、後ろを飛んでいた隊長と合流し、ぎりぎりの操縦を終えることができたがまだ息をつくことはできない。
上に旋回しながら合流すると、隊長はゆっくりとバジャーの横に回りつつ、速度を落とした。
「グッドラック」そう呟いて無線チャンネルを切り替え、編隊内無線に耳を傾ける。
「アテネ、ご苦労。このまま見送るだけだ、お前は7500ftまで先に上昇してカバー&通信の補助」
「コピー」
通信の補助、というのは簡単な話で地球は水平線がある。電波には多少は曲がるが大きくは曲がらない、そのため高度が低いままだとアンテナサイトとの通信が途切れる可能性があった。そこでもう1機を上昇させCCPとの連絡要員にすることでそれを解消しなおかつリスクの排除を行うのだ。
「CCPよりデスティニー2、バジャーは領空を出るか?」
「はい、このままの進路であと2分で出ます」
「デスティニーリーダーの存在に留意せよ。現在リーダーはこちらの無線網から外れている」
「ラジャー、留意したうえで見送ります」
本来ならば那覇基地にはAWACS(早期警戒管制機)ことE767が、浜松基地から飛行してきて警戒するか、警戒飛行隊のAEW(早期警戒機)E2Cが飛んできて警戒をしているが今回はその警戒網の網の隙間を偶然操縦装置の故障したバジャーが入り込んでしまったのだろう。
そのまま2機の機影を確認したまま、無線で定期報告を入れているうちに領空から飛び出し、防空識別圏の外まで近づいてきた。バジャーは高度を上げないまま巡航すると言っている、否定する理由もないし、民間機飛び交う高い空をフライトプランを提出していない故障機であるこのバジャーを飛行させるわけにもいかないのだ。
「ギブリよりアテネ、バジャーは識別圏を離脱。燃料と計算してみてもこちらに振り返る可能性はない」
「ラジャー、報告します。デスティニー2よりCCP、バジャーは離脱燃料はビンゴのため再びの侵犯の可能性は極めて低い。指示を乞う」
「CCPよりデスティニーフライトへ、RTB、以後の指示を那覇管制に移せ、以上」
「コピー」
無線機のサイクルを弄り、周波数を那覇管制に変える。
RTBの指示が下りたということはスクランブルのメインの目的は終わりということ、ようやく一息をつくことができた。隊長機も高度を上げて合流し、メインタンクとほぼ同量の増槽内燃料を使い切ったところで空域を離脱する。
那覇基地の空域までの時間島間が流れるように続く。雲も偏西風によって吹き飛ばされ、機体もまた流される。出力を気持ち高めで、という隊長の指示に従い燃料計の残燃料と相談しつつ出せる速度出して早めに帰還することにしたのだ。
この後、無事に帰還して任務をこなしたんだよな。
思い返せばとんでもない初陣だったな、初っ端からホット(即時離陸)がかかって、領空侵犯は故障機で無線にも応答しないし、燃料もたくさん使ったし、まぁこれでORとして正式に認めてもらえたのだから結果オーライか?
意識が再び薄れていく。
今までのはレム睡眠で見ていた夢なのだろう。レム睡眠とノンレム睡眠を繰り返すことにより睡眠が完成される。疲れたから、もうぐっすり眠らせてくれ。
そうボヤボヤと思いながら寝返りを打ち、再び睡眠に移行した。




