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イグ恋!-愛機のF-15が美人になっていてー  作者: 室内あるみ
第二話「俺はイーグルドライバー」
19/50

バジャー

 雲を渦にするように2機のF15Jが割る。

 コクピット内のレーダースコープに目を移すと、民間機のシグナルの間に大型機の表示が映った。無線に声を入れると一瞬しか口を開いていないのにコンプレッサーから送り出される空気で一気に口が乾く。

「ボギーコンタクト」

「リーダーラジャー」

 そうだ、この時の隊長の機体は未改修機体、俺の方が先に探知したんだ。極度にレーダーを見ていたということもあったけれど、この時は両者どちらも探知できる位置にH6Kは居た。スロットルを押し込み、加速する隊長の機体を追いかけつつ、操縦桿を倒し背面飛行に移る。

「タリホー」

「2」

「よし、見送るぞ。このまま3分で領空だ」

「ラジャー」

 俺にも見えた、空中に浮かぶ大きな凶鳥。

 H6KはTu16バジャーを中国が独自改修し、現用機とした魔改造機だ。その改造は原型が残らないほどで形こそバジャーだが機体内システムは新しいもので、中国の海上阻止作戦の要を担う。旧ソ連の飽和海上ミサイル攻撃戦術を実施するために設計されたバジャーを基にしただけに、大量の対艦ミサイルを搭載するH6Kはいざ有事となれば本土や前進基地から発進して戦闘するように訓練されている。

 その有事において防衛線とされているのは第一大陸線とも呼ばれる沖縄、台湾すらも含むラインで、その訓練の都合上や定期飛行に日本の決めた防空識別圏に入ってくることがあるのだ。

 だから毎回のようにテレビドラマや映画など見られる発砲や警告はなくて、ただ見送ることも少なくない。領空に入る前に示し合わせたように旋回するのを見送るのだ。

 不用意に緊張を高める必要はないし、今は政治も日中融和モード、今までの対立モードから民間融和の雰囲気が高まっている今、こっちも負担をしたくないのだ。

 だから俺たち現場は、本当に領空侵犯するかどうかの判断を防空指揮所からの命令で無線に話しかけたりしなかったりするのだ。そして今回横田のCCP(中央指揮所)からの命令は、「南に掠る程度なので領空侵犯するようであれば警告、そうでなければ識別圏を離れるまでエスコートせよ」だった。それに則り、隊長は見送ると命令する。僚機である俺はそれに従うだけだ。

「ギブリよりアテネ、編隊を再集合させバジャーの前に陣取る。着いてこい」

「2」

 無線に返答すると4マイル先を飛ぶ隊長と扇の反対方向、右側に飛ぶバジャーの姿が見えた。左側、つまり沖縄側から太平洋側に前進して領空侵犯の警告を行動で示そうというのだ。

 だが、そうは問屋が卸してくれなかった。

 バジャーは機首を下に下げると急速に加速し、弾道飛行で8000ftフィートから6000ftまで高度を下げ始める。上からかぶせるようにではなく下から持ち上がるように旋回していた隊長がそれに気づくと俺にこう命令する。

「アテネ、下に潜り込んで停止させろ!」

 その命令を待っていた!命令を聞いた瞬間体は跳ねるように反応し、スロットルを押し込み操縦稈を押し倒していた。機体はすぐさまに加速に入り、どろどろとしたエンジン音が空に鳴り響き、F-15Jの獰猛なラインが空中に一瞬浮かぶようにもた上がり、機首から下に突っ込んでいく。

 機体を操作しながらも頭は冷静で無線に声を入れていた。

 国際緊急周波数に無線機のスイッチを押し込み、無線に声を入れる。

「バジャーへこちら日本国航空自衛隊、貴機は我が国の領空を侵犯しようとしている。すぐさま降下を停止し、水平飛行に移ったのちに、右旋回せよ。繰り返す、バジャーへ」

 英語での警告を区切れ区切れに呼吸をはさんで喋りつつ、Gスーツの右足に挟んである中国語警告シートを取り出した。

「轟炸6型に告ぐ。貴方は我が国の領空を侵犯しようとしている。すぐに右旋回せよ」

 中国語の警告を入れたところでようやく降下をやめたが、それでももうあと1分で領空だ。そうだそうだ、この時まだ中国語の発音悪くてまともに喋れなかったんだよな。だから少し怒鳴るように警告したら止まってくれた。この時の発音も注意されたんだ。

 だが未だ右旋回はしない。むしろ左に滑るような進路を取っている。もしかして操縦装置系が壊れたのか?

「ギブリ、バジャーは機体を左に滑らしています。操縦装置の異常かもしれません」

「ラジャー」

 一応報告だけは入れておいて、機体を旋回させつつ横に接近する。

「CCPよりデスティニーフライト、バジャーに対し警告を持続せよ。ただしそのまま領空侵犯しても警告を持続せよ」

「デスティニーリーダー、コピー」

「2」

 防空指揮所からの命令は警告を持続せよ、でも前側で煽っても問題はないよな。

「デスティニー2よりCCP、バジャーは操縦機系統に問題を抱えている可能性があります。前方に接近しコクピット内を確認させてください」

「CCP、ラジャー。バジャーの前方に飛び出て警告を持続しつつ現場の判断でバジャーの異常を確認せよ」

「デスティニーリーダーラジャー。アテネ、加速したまま前で煽れ。俺は後ろからバックアップする」

「ラジャー」

 隊長からの無線に応答すると減速していくバジャーに合わせてエアブレーキスイッチを入れると空気の切れる音とともに雲が流れていく。

 操縦桿を押す筋肉の力がほぐれると同時に、息を吐く。

「バジャーへ、貴機は我が国の領空を侵犯している。ただちに進路を変更せよ」

 バブルキャノピーの先を見ても島は遠くにあるだけで進路上には入らないから、このまま警告を続ければいい。

 バジャーの前に飛び出すと後ろをミラーで確認しながらバンクを振る。

「バジャー、貴機は操縦系統に異常があるか?」

「ディスイズ、PLAエアフォース対艦攻撃第1部隊6番機、無線機故障及び操縦系統の異常により流されていた。現在問題は解消し通常飛行が可能になった。エスコートに感謝する」

「ラジャー、ただちに右旋回して領空を離れろ。デスティニー2は先に右旋回して誘導」

 隊長が返答し、指示を出した。その間に俺はCCPへの簡易報告を済ませ、カメラでバジャーの機影を撮影する。

「バジャー、フォローミー。ライトターン、レディ、ナウ」

「フォロー」

 操縦桿を押すと機体が緩やかに右に曲がり、旋回していく。バジャーの旋回率に合わせながら、失速ぎりぎりまで速度を削りながら旋回すると、バジャーが追いかけてくるのが見えた。

 ラダーを合わせつつ失速しないように調整して、機体を加速させる。

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