私の名前はイーグル
泣き止まない彼女を持て余していると、一ノ瀬三尉からメールが届く。抱きしめられる中右手でスマホを取り出し、画面を横目で見た。
{後ろにいます}
早!抱きしめられつつ体を持ち上げると、抱きしめたままのイーグルまで持ち上がってきて、首が痛くなる。
「イーグル、離せ。首が折れる!」
「え?あれ、一ノ瀬さんだ」
ようやくイーグルも一ノ瀬三尉に気づいたのか首の拘束が離れると、ふんわりとした匂いも離れていく。
「2人して涙浮かべて抱き合うの、恥ずかしくないですか?」
「一ノ瀬三尉、早く止めてくれ」
首を抑えられ、ついていた膝を払いながら立ち上がるとイーグルから腕を差し出される。掴んで立ち上がると、一ノ瀬三尉もこっちに向かって歩いてきた。
「騒ぎにならなくてよかったです。帰りましょう」
「ラジャー」
「おう」
そのまま車に乗ると、イーグルが開口一番謝ってきた。
「すみませんでした」
「もう気にすんなよ。見つかったんだからよ」
「見つからなかったらどうするんですかって言いたいところですが、しかしてどうやって見つけたんですか?」
厭味ったらしくハンドルを握りつつ喋る一ノ瀬三尉が問うてきた。そんな質問簡単だ。俺が099号機との思い出があっただけだ。それをちょっとだけ遡っただけ。そのパズルを解いたピースは2つ、夕日と場所。たったそれだけのピースで記憶の海を辿ったのだ。まさか俺も当たるとは思ってもいなかった、三割程度の当たりを狙っていたが当たるとは、と終わったばかりの今も思っている。
車の窓に肘をつきつつ、スマートウォッチの時間を見ると丁度8時だ。発進した車の中に街灯の光が入ってくる。
「昔、099号機でリゾートウォークの夕日が綺麗だと言ったんだ」
「まさかそれだけで?」
「半分ヤケでしたけどね」
「でも見つけてもらえるなんて思いませんでした」
感慨深げに言ったイーグルの横顔を見ながら、ため息をつく。
「お前が言ったんだろ?099号機はアテネの相棒だって」
「ゲホゲホっ」
そうして咳き込むイーグルが俺の肩をバシンバシンと叩きながら、煙に巻きたそうに喋る。
「もう!恥ずかしいからやめてください!」
「つきましたよ、2人とも」
そうしていると基地のゲートをくぐっていて、女性官舎に到着した。イーグルの座っていた席を外から待ち受けていた女性隊員たちが出迎える。荷物も持ってもらいながら出ていく彼女の背中を見ながら大きく深呼吸した。
長い長い一日が終わったのだと。そう自覚するとずっと若干上がっていた心拍数が落ち着いた気がする。この後はシャワー浴びて寝ちまおう。もう疲れた、明日までこの疲れが残ってなければいいのだが。
「アテネさん!」
車のドアが閉まる寸前、イーグルが声を出した。周りの女性隊員たちも注目する中彼女は大声で叫ぶ。
「私の名前はイーグル!です・・・」
▽




