どうしてここが分かったの
寂しげな背中は震えている。その背中を今すぐにでも抱きしめてあげたくて、自分には迷惑じゃないよと伝えたくて。
思わず走り出すと、自動ドアが開き切らずに思い切り肩をぶつけた。
「イーグル!」
痛む肩も気にせず、ただその一言を伝えるために。
「あて・・・ね・・・さん?」
「ごめん!」
1階から屋上まで走ってきて完全に息が上がり、肩で息をしているがそれでもこの気持ちを伝えられた。
腕を膝につきながら前傾姿勢のまま、立ち眩みも抑えて、顔だけは正面を向ける。
イーグルは焦るように両手で顔を抑えた後、走ってきた。それを見ていると嫌われたわけではなく、彼女にも事情があったんだということに気づき、涙が出そうになる。俺はこうやって早とちりして、勘違いをして、彼女を傷つけたんだ。それを謝れただけでも十分だった。
ただ、繰り返して伝える。
呼吸が早くて心臓の動きも早くて、胸はドキドキしたままだけれど、伝えなくちゃならない。それだけは、誰にも止められたくない。
「ごめん、イーグル。許されようたって思わない、だけど聞いてくれ、ごめん」
「卑怯ですよぉ、アテネさんのばかぁ」
涙声でそう言うイーグルの顔を見上げようと、顔を上に向けると近づいてきた彼女はどういうことか。抱きしめてきた。ギューとお腹のあたりのぷっくらとしたしなやかな体に頭を丸ごと抱きしめられ、足で顔をロックされる。
「私だって迷惑じゃないかって!不安だった、なのに、見つけてくれて!それなのに、私が謝らないといけないのに、そっちが謝るのはズルいです!」
「ず、ズルいって?」
涙が溢れて止まらないといった様子で語っていく彼女の言葉に耳を貸しながら、思わず聞き返してしまう。
「私が悪いのに、先に謝ってくるのとか!走って追いかけてきてくれたこととか!私を見つけてくれたこととか!」
「そりゃ、当然だろ?」
何を馬鹿なこと言ってるんだ、お前は俺の、愛機なんだから。それぐらい分かって当たり前ってお前自身が言ってたことじゃないかよ。なのに忘れやがって。
「イーグルが俺の相棒だったんだから、例え人になっていたとしても、俺にかかれば簡単に求めてることは分かるよ」
「それが、ズルいって言うんですよぉ」
抑えていたのだろう涙声を、彼女はもう隠すことなく、思いきり表面に出した。
「何もズルくねぇよ」
いや、ズルいか。相手の痛いところを正確に突き破ったのに謝って許してもらおうとする俺の態度は確かにズルい。でもそれ以外に俺は思いつかなかったんだ。
「どうしてここが分かったんですかぁ」
涙の合間に震わされた声で紡がれた言葉に返していく。
俺は一度だけ、099号機のいるところで、いやコクピット内で見た夕日を思い返したのだ。あれはアラートハンガーでスクランブル待機早々にスタンバイがかかった時だった。スタンバイで待たされること2時間、暇を持て余した機内で僚機の上官に先日見たリゾートウォークの屋上からの夕日が綺麗だという言葉。もしかしたら、彼女がその言葉を無意識に覚えていて登っていないか考えてしまったのだ。そしてその予想は見事に当たっていた。




