俺は彼女がどこにいるか分かった
「ちょっと何を言っているんですか風見三尉!」
「す、すまん」
驚いて固まっていた俺は人の波に押されながら、ゆらゆらと揺れつつ冷や汗をかいていた。ガンガンにかかっている冷房が即座に冷やしてきて気持ちが悪い。
俺は、なんてことを言ってしまったのだろうか。未だ不安定な彼女に向かって、嫌味ったらしい口調を聞いてしまったこと、それに彼女が大きく傷ついたこと。それが分かった瞬間俺の心は止まってしまった。俺が追いかけて行っていいのだろうか、果たして更に彼女を傷つけないという確証を持って行動できる自信がなかった。
一ノ瀬三尉は人波をかけるようにモール施設を走っていく。途中で声を掛けられるが止まることなく探し人をしているという言葉を叫びながら走っていく。
本当なら、俺がそれをやるべきなんじゃないか?
思い出すのは、査問から帰ってきた時に寂しげに待っていたイーグルの顔、楽しそうに唐揚げをうどんに浸す彼女の笑顔、様々な表情がフラッシュバックして、俺の心を直接痛みつけてくる。
本当なら、あの背中を俺が見るのはいけないことなんじゃないか?
命令でも上官の指示でもなく、さっき語った、命を救われたものとしての気持ち。
俺は恩を嫌味で返してしまった。
その事実が嫌に冷めた頭にかけられ、風邪を引いたように顔が熱くなっていく。
「あの、大丈夫ですか?」
見知らぬ人が声を掛けて、俺の肩を叩いた。
そうだ、俺はこんなところで止まってていいわけがない。追いかけて謝らないといけないだろう?
でも果たしてあんな口を聞いてしまった俺が許してもらえるだろうか。いいや!そんなことは今は考えなくていい、今はどこかに消えて行ってしまった相棒のイーグルを探さないといけないだろう、それが俺にできる最大限の誠意だ。
「大丈夫です、すみません」
流されるように立っていた俺は足を踏み込み立ちふさがり、足を前に進めていく。確固たる意志を抱えたまま、イーグルという相棒を探すため。俺にできることと言えばそれぐらいしかないんだ。
人波をかき分けて、スマホを弄り、電話帳を見る。無機質なフォントで書かれている何時の間にか登録されていた一ノ瀬玲子の欄をタップした。
ワンコール、ツーコール、繋がらない。
6回目を超えたあたりだろう、繋がった。
あちらも人混みにいるのだろう、雑音が入ってくる。
「なんですか?」
「俺、イーグルのいる位置分かったわ」
一度だけ099号機の前でこのリゾートウォークについてコブラと語ったことがある。その記憶が確かなら彼女はそこにいるはずだ。
そして答えを呟いた。しっかり伝わったようで、一ノ瀬からは短くこう返ってくる。
「了解です、すぐに向かいます」
そして俺は足を踏み出し始めた。




