修行を超えて
僕が大空の義賊に入団した次の日の早朝、僕たちはアジトの裏にある少し大きめの広場に来ていた。
「さて、早速修行に取り掛かろうと思う」
「よ、よろしくお願いします」
ついに、始まった。マクレーモさんいわく、地獄よりも地獄の特訓が。
「修業の内容だが、ひたすら私と戦ってもらう。そしてひたすら死に目にあってもらう」
すでに聞き流したい何かが聞こえた。
「ど、どいうことですか?」
思わず顔を引きつる。聞き間違いだと信じたいが、どうやら僕の耳は正しかったらしい。
「言葉の通りだ。戦闘において強くなるためには、魔法の熟練度を上げる他ない。熟練度を最も効率的に上げる方法、それは死に目にあうことだ。死に目にあえば、二度と死に目にあわないように体は己を強くしようとする。その結果、魔法の熟練度が上がるというわけだ。それに戦い方も身につく」
「なるほど、マクレーモさんが言っていた事はこういう事ですか…」
僕は今自分が置かれている状況をやっと理解した。
「本来、魔法の熟練度は一般市民が1〜2、
戦闘を生業とする冒険者や賊、王国の騎士団などは3〜5だ」
なるほど、では熟練度10のマクレーモさんは充分化け物の域にいるということか。
「なら熟練度10オーバーのライトさんより強い人っていないんじゃないですか?」
「ああ、この世界では敵なしだろう、と言いたいところだが、魔法にも相性がある。例えば、熟練度3の火魔法は熟練度1の水魔法に負けたりするんだよ」
なるほど、では相性次第で力の差をひっくり返すこともできるわけか。
「話はこれくらいだ。始めるぞ。魔法の出し方は、お前の場合、武器を召喚する自分をイメージしてみろ」
「はい!」
僕はイメージしてみた。右手に剣を持つ自分を。
(それにしても剣を出す魔法って、もはや魔法を名乗ることすら許されない最弱魔法だろ…)
そんな事を思っていると、僕の手が光り出した。光が消えると、僕は右手に剣を持っていた。それと同時に体が一瞬、気だるさを感じた。
「今お前は身体の中の魔力を使って武器を召喚した。気だるさを感じる原因はそれだ。熟練度が上がれば今よりも沢山の武器の種類を召喚できるだろう」
「なるほど、熟練度を上げれば剣以外にも召喚出来るって事ですね!じゃあさっさと始めましょう!」
「ああ、気合いは充分だな。どこからでもかかってこい」
こうして僕の地獄の修行は幕をあげた。
そして僕はこの特訓で何回も死んだ。
〜1週間後〜
僕は早速自分部屋のベッドに横たわった。
「やっとおわったー!」
「おめでとうございます。ナギ殿。」
僕に声をかけてくれたのは、モルさんというおじいさんで、大空の義賊のNO.3だ。
僕のお世話がかりをやってくれている方だ。
修業の3日目に任務から帰ってきたらしく、それ以来仲良くしてもらっている。
どうやらどこかの島へ斥候に行っていたようだ。
因みにステータスはこんな感じだ。
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モル・レスター(男)熟練度10
魔法:シャドウブーツ
感知、潜伏が優れる。
熟練度上昇で、性能上昇
スキル:矢道強化
弓の威力を大幅に上昇させる。
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大国の騎士団長でも熟練度は5、6程度らしいから多分、大空の義賊は世界最強の集団である。みんな熟練度10オーバーなのだ。まったく大変なチームに入ってしまったものだ。
「誰も修業は終わったとはいってないぞ」
僕の部屋に、少し怒ってそうな、ライトさんが入ってきた。
「で、でもいつもならここで終わりじゃないですかー」
「いつもならな。だが今日は最終日だからな、サービスしてやる」
いつもあんまり笑わないライトさんが微笑んでる。
(くそ、かわいいな!)
怖い、でも可愛い。
「これでここから海を覗いてみろ」
ライトさんはそう言って僕に双眼鏡を渡した。僕は自分の部屋の窓から海を覗いた。するとそこには小さく島が見えた。
「そこに島があるだろう?そこまで泳いで帰ってこい」
「ラ、ライトさん、一体何キロくらいあるのでしょう?」
「安心しろ、たったの5キロだ」
僕は気を失いそうになった。
(何回も死にかけて身体も精神もボロボロだっつーの)
「嫌がるなら、もう1週間修業追加だ」
「喜んで行かせて貰います!いやー嬉しいなー海で泳げるなんてー」
後半はもう棒読みだった。それを見たライトさんはまた微笑みながら言った。
「大丈夫、お前は強くなった。以前と比べると顔つきも体つきもだいぶ違う。この先何があってももう大丈夫だ。もし心が疲れても大丈夫だ。お前には帰る場所がある。私達を頼れ」
「今そんなこと言うなんて、反則じゃないですか?」
「ふふ、たまには優しいのもいいだろう?」
厳しくて、思い出せば泣いてしまいそうになる修行だったけど、ライトさんの言葉で僕は救われた。
(僕は、強くなったんだ)
「あ、ありがとうございます!」
「まだ礼は早い。最後の隣の島まで泳いで修業の終わりだ。まぁ、自分が強くなった事を実感してもらうために、ここで今の力を見てみるとしよう」
そう言ってライトさんは身鏡の紙を取り出して、僕に渡した。身鏡の紙に手をあてると文字が浮かび上がってきた。そこにはこう書いてあった。
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東雲凪(男)
魔法:武器召喚(剣、ブーメラン)熟練度7
武器を召喚できる。
熟練度上昇により、武器の能力、召喚で
きる武器の種類が向上。
スキル:絶対志願
思いの強さにより、不可能を可能に
する。
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本当に強くなってる。熟練度も7まで上がっている。きっと強そうな武器を召喚できるに違いない。まさに、努力が報われた瞬間だった。
「やりましたな、ナギ殿」
「はい!ありがとうございます!」
「よし、では、存分に泳いで来い!」
「はい、行ってきます!」
僕は浮かれるまま、部屋を飛び出し海岸へ向かった。後から思えば僕はライトさんにうまく乗せられていただけなのかもしれないが…
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ライトとモルは凪が部屋を出た後も凪の部屋に残っていた。
「それで、モル、ナギの向かったカカオ島の様子を聞かせてくれ」
「はい、やはりライト様の見立ての通り、島は海賊達に乗っ取られておりました。すでに島半分は壊滅状態でございます。船の出入りは禁止されており、一切の人の出入りを海賊達が監視しております」
「やはりそうだったか、このことはまだ王国は知られてないな?」
「おそらくまだ知らないはずでございます。今マクレーモ殿が王国にて情報を集めておりますが、そのような情報は出回ってないようです。しかし、よく分かりましたな、あの島が海賊達に占拠されていると」
「ああ、島の方から嫌な風が吹いていたからな」
ライトは島の方を見ながら言った。
「これは、名を挙げるチャンスだ。ナギ、最後の修行は島を占拠している海賊達を倒し、島を救え!」
ライトはもう凪のいない部屋で高らかにそう命じた。
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