踏み出す一歩
「大空の義賊、私を、この国を救ってくれてありがとう。これは私達からのお礼の品である」
ミレイズ達との戦闘の数時間後、ライトはここ、玉座の間にいた。そこには傀儡から解放されて良い人に戻った王様が玉座に座っている。その横には以前はミレイズがいたが、今はジークスが横に立っている。そして目の前にはライトだけがいる。
リラとマクレーモとモルは3人で王国を散策している。マクレーモとモルは王国の外で魔物を狩ったあと、王国に来ている。
そしてナギは怪我をリラに治してもらった後、1人城のバルコニーで黄昏ている。よって大空の義賊を代表してライトだけが国王を謁見しているのだ。
「まずは10億エルを貰ってくれ」
エル、それはカプターの通貨である。
1エル=1円、つまり、大空の義賊は10億円を貰ったということだ。
「ありがとうございます」
ライトは素直に感謝する。
「お前には2度もこの国を救ってもらった。7年前、お前をあんな形で除隊させてしまった私を許してくれ」
「私は大丈夫です。私は自分の判断で行動してます。全ては自己責任です。国王様が謝らないでください」
「…そう言ってくれると助かる。今後フーデル王国は大空の義賊が何か困った時、いつでも助ける。だからなんでも言ってくれ」
「はい」
ライトは短く答える。
「俺からも礼を言わせてくれ、今度はしっかりこの国を守ってみせるから、親父を守ってみせるから、見ててくれ」
ジークスがそう言った。それにライトはこう答える。
「王子ならきっと出来ます。もしまた何かあったら、我々を頼ってください。ナギも喜ぶでしょう」
「ああ!」
ジークスが答える。その瞳にはもっと強くなるという、まるで稲妻が迸るような力強さをライトは感じた。
(この方はまだ強くなる。ナギ、お前も負けてられないな)
ライトは心の中でナギにゲキを飛ばした。
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僕は城のバルコニーで1人黄昏ている。
(勝てなかった、手も足も出なかった。このままじゃあ、また大切なものを失ってしまう。でもどうしたらいいんだ?)
戦っていたときは無かった悔しさが込み上げて来たのだ。圧倒されたのだ。このままではいけない。でもどうしたらいいかわからない。そんな考えが頭の中をグルグル回る。僕が悩んでいると、後ろから女性が声をかけてきた。
「あの、シノノメ・ナギさんですね?」
「はい、そうですが、あなたは?」
金髪で艶のある長い髪、そしてキリッとした目の奥に何か芯の強さを窺わせるようなオーラ、僕はそれと似た雰囲気を持っている人物に心当たりがある。
「はじめまして、私はローズ・フーデルです。貴方のよく知るジークスの母です。」
「やっぱり、ジークスの…、ところで、僕に何か?」
目の奥に感じる、稲妻のような瞳がよくジークスに似ている。
いや、ジークスがこの人に似ている。
「いえ、ジークスのお友達へ挨拶に伺おうと思いまして、そしたら、何かを迷っている貴方を見つけたのです」
「僕が、迷ってる?」
「違うんですか?私には自分には守りたいものがあるのにそれには力が足りなくてもがき苦しんでいるようにも見えますが」
ローズ妃は微笑みながらそう言う。この人は僕の心中をズバリ言い当てた。
「すごいですね、何で分かるんですか?」
「貴方の顔に書いてありますよ」
ローズ妃は優しい声だ。もっと聞いていたいと思ってしまうほどである。
「僕は弱いんです。もしライトさんが居なかったらと思うと…悔しくて堪らないんです。」
(僕は初対面の方に何を言っているのだろう。)
ローズ妃は優しい声だ。きっと性格も本当におおらかな方なのだろう。僕はその優しさに甘えてしまったのだ。
「ジークスも、そう悩んでましたよ。自分の父が操られておきながら、何も出来ない自分が情け無いと。そう言って国を出て行き旅を始めました。貴方の目はあの日のジークスの目に似ている。だから今から言う事はただの独り言、もし、貴方がジークスだったらと仮定します。その時私がジークスに向かって言うであろう言葉です」
「えっ」
僕はよく分からなかった。ローズ妃が何を言おうとしているのかを。ローズ妃は大きく息を吸い込む。そして言葉を放った。
「迷うな!お前の目は何を見ている!横を見ろ!隣には誰がいる⁉︎これまで一緒に支え合ってきた仲間達がいるでしょ⁉︎後ろを振り返りなさい!そこから何が見える⁉︎そこに今まで貴方が歩んできた軌跡があるでしょう?それは確かに敗北だったかもしれない、でもそれだけじゃないはず、貴方はこの国を救ってみせた!貴方は何万人という人の命を救ってみせた!この事を誇りに思いなさい!一度の敗北でそれを見失ってしまうようでは守りたいものも守れません!」
体が、熱くなる。自分の体が奮い立っているということがよく分かる。
「最後に前を見ろ!そこにはどんな景色が見える⁉︎それは遠くてまだはっきりと見えないかもしれない。だったら1歩前へ踏み出しなさい!それでもまだ見えないのならもう1歩踏み出しなさい!そうやって貴方は強くなりなさい!」
言葉の1つ1つが心に響く。僕は仲間達のおかげで今ここにいる。僕はこの国を救ったのだ。そして前を向く。もっと強くなる。
そして瑠夏を見つけ出す。もう、迷わない。
ああ、初対面の人に何励まされてるんだろう。
「ありがとうございます。目が覚めました」
「いいえ、貴方はこの先何かを成し遂げる。私は確信しています。期待、してますよ?」
ローズ妃が微笑む。この方は本当に優しい人だ。それだけではない。真っ直ぐで常に物事の本質を見抜く。初対面の僕にここまで言ってくれたのだ。期待に応えない訳にはいかない。
「では、私はこれで」
ローズ妃がバルコニーから去る。その後ろ姿に僕はお辞儀をした。すると、バルコニーの前でローズ妃は今きたばかりと思われるライトとすれ違った。ライトは敬礼している。
「貴方の役割、取ってしまいましたね」
「ローズ様にはいつまでも敵う気がしません」
「貴方は充分私を超えてますよ、立派になりましたね、ヴェンティス王女」
「やはりローズ様には敵いませんよ」
ローズ妃とライトさんの会話は聞き取れなかった。しかしローズ妃がなんだか嬉しそうに去っていくのが分かった。
「ここにいたか、ナギ」
ライトは僕の方へ来てそう言った。
「ライトさん、僕は強くなりたいです」
「…ああ」
「ライトさんみたいに強くなりたい。だからこれからもよろしくお願いします!」
「ああ!」
ライトさんが力強く返事する。
「帰るか!」
「はい!」
僕は強く返事する。見上げた空は遠く遠く、どこまでも青かった。
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「ライトさん、ナギ、遅いですよ!」
リラが僕達を叱る。
ここはフーデル王国の城門、僕達はこれからベルンの町へ帰る。
「リラ、この荷物はなんだ?私とナギが座れないじゃないか」
「あっこれ、マクレーモさんの荷物ですよ?私は止めたんですけどねー」
「おいリラ裏切る気か⁉︎こん中にお前の買った荷物も入ってるだろ⁉︎」
「なんのことか私はわかりませーん」
リラが適当に答える。
「マクレーモ、集合だ。お前はベルンの町まで走れ、その自慢の脚でな」
「そ、それは本当に勘弁してくれー」
みんなが笑顔に包まれる。
そんな光景をフーデル王国の建物の上から眺めている者がいたが、誰も気づかなかった。
「来ちゃったんだね、凪」
「えっ」
僕はふと王国の建物の屋根を見る。が、そこには誰もいない。
「どうしたの?」
リラが僕に尋ねる。
「いや、誰かに名前を呼ばれた気がしたんだけど」
「ふーん、ま、気のせいでしょ!」
「…そうかな?…そうだな!」
風が王国を吹き抜ける。僕達はその風を受けながらベルンの町へ馬車で帰っていく。そしてまた新たな冒険をそこで待ち受ける事にした。
1歩踏み出す為の冒険を。
今回も読んでいただきありがとうございます。次回もよろしくお願いします!




