表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

嫌いな思い出

作者: Baby-G

 

 わたしは、大人の顔色ばかり窺っている子どもだった。そうして、計算高く立ち回ったつもりが、魂胆が見え見えで、かえってあざとい嫌な子どもとして大人を白けさせてしまうような、愛されにくい子どもだった。今こうして書いていても嫌になる。


 幼稚園のお遊戯会で隣に並んでいた杏奈ちゃんは、小柄で可愛らしい子だった。保護者が見ているその場所で、私たちは(まだ5歳にもならないのに)「しょうらいのゆめ」を語らされるのだが、彼女はそのとき

「わたしは、おはなやさんになりたいです」

と言って、母親たちの顔を緩ませ、好意的なさざめきを親たちの間に巻き起こした。先生も、彼女の後ろから愛おしそうな視線を投げていた。


 将来の夢なんて思いつかず、それでも「夢なんてありません」と言えるほど口達者ではなかったので、私は「杏奈ちゃんの真似をすれば、みんな笑って喜んでくれる」と短絡的に信じた。そうして

「わたしも、おはなやさんになりたいです」


 会場は、一瞬シンとした。

 私の言葉にもなんの反応もないまま、先生は次の順番の子を促した。それで終わりだった。


 『人間失格』に、笑われることばかりする主人公が「わざとやっただろう、お前は」と道化を看破され、真っ青になるシーンがあった。……あんな感じだ。


 愛しにくい子どもだった、と思う。ただでさえ愛されているのを信じようとしないで、愛されようとする姿が醜かったのだと思う。いま思い出しても、ひたすら気恥ずかしくて哀しい。


 この世で自分が一番憎むものがあるとしたら、それは哀れな醜さだ。そればっかりは、本当に体験したくない。置いてきぼりにされたような気恥ずかしさも。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ