春を探しに
トムは寒いのがとても苦手。それなのに、今年は春がなかなかやって来ません。昨日も、一昨日も、春の気配すらないのです。トムは待ちくたびれて、春を探しに行くことにしました。きっと、山の向こうにいるはずです。だって、お日さまはあの山の向こうへ沈むのですもの。
トムはポケットにビスケット。水とうにホットミルクを入れて、お気に入りのラッパを首から下げると、てくてく歩きはじめました。真っ白い雪のじゅうたんを踏みしめていると楽しくなってきて、ラッパを鳴らします。
「ねぇねぇ、トム君。一体ぜんたい何してるのさ。こんな寒い中で歩いたりしてさ」
たのしそうに歩いていたトムを、真っ白い毛をしたウサギが呼び止めました。トムは答えます。
「春を探しに行くんだよ」
「それはいい考えだね。ぼくも連れてっておくれよ。ぼくも早く柔らかい葉っぱのご飯が食べたいんだ」
「いいよ」
うさぎはよろこんで、ぴょーんぴょん。
トムとウサギは雪のじゅうたんの上。ギュっギュっと踏みしめ歩きます。トムはラッパを吹きながら、ウサギはタップを踏みながら。
ぷっぷく、ぎゅっぎゅ、たっぷったっぷ。
「ねぇねぇ。トム君。一体全体何してるのさ。こんなに寒い中で歩いたりしてさ」
そこは、真っ白になった牧場。声を掛けてきたのは黒と白模様のウシでした。
「春を探しに行くんだよ」
トムとウサギは答えます。
「そうかい。それはいい考えだね。わたしも連れてっておくれ。こんなに寒くちゃ、ミルクも出ない」
牛はよろこんで、もーもー。
トムとウサギとウシは雪のじゅうたんの上。トムはラッパを吹きながら、ウサギはタップを踏みながら、牛は首の鈴を鳴らしながら。
ぷっぷく、ぎゅっぎゅ、たっぷたっぷ、からーんからん。
「ねぇねぇ。トム君。一体ぜんたい何してるのさ。こんなに寒い中、歩いたりしてさ」
頭の上から声が聞こえてきます。声を掛けてきたのは、真っ白の帽子を被った木の穴から覗く、小さなリス。
「春を探しに行くんだよ」
トムとウサギとウシは答えます。
「それはいい。おいらも連れて行っておくれよ。ためておいたどんぐりが無くなりそうなんだ」
リスは空っぽのどんぐりを太鼓にして喜びます。
トムとウサギとウシとリスは雪のじゅうたんの上。トムはラッパを吹きながら、ウサギはタップを踏みながら、ウシは鈴をならし、リスはどんぐりの太鼓をたたきます。
ぷっぷく、ぎゅっぎゅ、たっぷったっぷ、からーんからん、ぽこぽこぽぽぽん。
にぎやかな行列がつづきます。
ぷっぷく、ぎゅっぎゅ、たっぷったっぷ、からーんからん、ぽこぽこぽぽぽん。
山の向こうに沈むお日さまなら、知っているかもしれません。行列は雪のマントを着こんでいる山を登ります。
ぷっぷく、ぎゅっぎゅ、たっぷったっぷ、からーんからん、ぽこぽこぽぽぽん。
「おやおや、トム君、こんなに寒い中こんなとこまで、どうしたんだい?」
深い穴倉の中から太い声。
「春を探しに行くんだよ」
トムも大きな声で返します。
「そりゃあ、いい。おれも連れて行っておくれよ」
のっそのっそと出て来たのは、大きな黒いクマ。
「お腹がすいて困っていたんだよ」
「それは、かわいそう」
トム君はポケットのビスケットをクマにあげました。クマは喜んで、にこにこにこ。
トムとウサギとウシとリスとクマは雪のじゅうたんの上。
トムはラッパを吹きながら、ウサギはタップを踏みながら、ウシは鈴を鳴らし、リスは太鼓をたたきます。そして、クマは大きな胸の太鼓でどーんどん。
ぷっぷく、ぎゅっぎゅ、たっぷったっぷ、からーんからん、ぽんぽこぽぽぽん、どーんどん。
ぷっぷく、ぎゅっぎゅ、たっぷったっぷ、からーんからん、ぽんぽこぽぽぽん、どーんどん。
ぷっぷく、ぎゅっぎゅ、たっぷったっぷ、からーんからん、ぽんぽこぽぽぽん、どーんどん。
にぎやかな行列は山を越え、お日さま眠る山向こう。トムはラッパを吹きながら、ウサギはタップを踏みながら、ウシは鈴を鳴らし、リスは太鼓を、クマは大きな太鼓を鳴らします。
「おやまぁ、こんなところまで。いったい全体、どうしたんだい?」
お日さまは眠たそうに尋ねます。
「春を探しに来たんです」
「それはいい」
お日さまがグーンと伸びをします。
「私も一緒に探しに行くかね」
ぷっぷく、たっぷったっぷ、からーんからん、ぽんぽこぽぽぽん、どーんどん。きらきらきら。
トムとウサギとウシとリスとクマは雪のじゅうたんの上。お日さまはグーンと雲をぬけてった。
きらきらきらきら。お日さまが雪のじゅうたん溶かしてく。トムの足下には小さく大地。グーンと伸びてきた物は、黄色いつぼみの花でした。
ぷっぷく、たっぷったっぷ、からーんからん、ぽんぽこぽぽぽん、どーんどん。きらきらきら。
黄色い花が開きます。トムは花にあいさつします。
「やぁ、こんにちは」
「あらあら、にぎやかなおまつりね」
花の中から、きれいな女の子。花の冠がチョンと頭に乗っています。
「一体全体何をしているの?」
「春を探しに来たんだよ」
トムとウサギとウシとリス、それからクマは声をそろえて答えます。
ぷっぷく、たっぷったっぷ、からーんからん、ぽんぽこぽぽぽん、どーんどん。
「こんなに楽しい日々ならば、起きてしまうのもいいかもね」
女の子がにっこりします。花のはじける笑顔のあとに、雪のじゅうたんなくなって、緑のじゅうたん広がった。
女の子がうたいます。ららら、ららら。 らららと歌うと花開く。
春の声を聞いた冬が大きなあくびをしています。なんて気持ちのいいぬくもりでしょう。雪を作るのもつかれたし、そろそろ、お昼寝してもいいかもね。
トムとウサギとウシとリス、それからクマは緑のじゅうたんの上。ウサギは白い毛皮を脱ぎました。
トムと茶色くなったウサギとウシとリス、それからクマと女の子は帰り道。
みんなで行列作ります。
ぷっぷく、たっぷったっぷ、からーんからん、ぽんぽこぽぽぽん、どーんどん。ららら、ららら。
行列歩くその下は、色とりどりの花が咲く。
ぷっぷく、たっぷったっぷ、からーんからん、ぽんぽこぽぽぽん、どーんどん。ららら、ららら。
家の中にいた人たちが飛び出して、トムの後についていく。みんな笑顔で踊りだし、とうとう、みんなでお祭りさわぎ。
ららら、ららら。ららら、ららら。
春はにこにこ歌います。飛び出した人たち家の中、取ってきたのはテーブルにクロス。おかみさんは大なべ抱えて飛び出して、だんなさんはその火をおこします。ぐつぐつぐつぐつ、いい匂い。春が来たよと踊り出す。みんなでておいでと扉を叩けば、またまた料理が増えてくる。
トムとウサギとウシとリス、それからクマも参加して、たくさんモリモリ食べたなら、一緒になって、踊り出す。みんなでほっぺをくっつけて、再会のあいさつ交わします。
踊りつづける人、緑のじゅうたんの上。みんなの笑顔がはじけると、たくさんの花が開きます。それを見ていたお空のお日さま。そろそろ、ねむる時間だよ。みんなにそっと伝えます。心配しないで、あしたもくるから。みんなの耳元でささやくと、ぽっとほほが赤くなり、そのまますっと山の向こうへと沈みます。
トムはみんなに「またあしたね」と手を振って、みんなも家へと戻ります。
クマは山へとリスは木へと。ウシは牧場へと、ウサギは野原へ。
ホットミルクを飲んだトム。大きなあくびをした後に、ベッドの布団を一枚はがし押入れの奥へとしまいます。また来年もよろしくね。
トムはぐっすり眠ります。明日は何をしようかな。
春が来ました。トムの大好きなあたたかな春です。
明日は何をしようかな。たくさん考えながら、ねむります。きっと楽しいことがいっぱいです。
春は明日も君のそば。明日はどんな楽しいことがあるのだろう。期待にむねをふくらませ、にこにこにこにこ、うたいます。
「ららら、ららら。ららら、ららら。ららららら」
イラスト:猫じゃらし様
みなさまにも期待に胸を膨らませる春が訪れますように
追記:2020/10/03 猫じゃらし様からイラストを頂きました。
2021/01/01 デジタル化されてイラストに差し替えさせて頂きました。