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朝日が来るまでに

作者: 藤林さつき

午前0時。

一日が終わり、新しくなる時間。


それはそのまま私の仕事が終わる時間でもある。



普段は明るい店内も、閉店させたのは一時間前。

売り上げの計算をするため、レジ前だけがぼんやり明るい。


繁華街近くのお菓子屋とあって終電やバスの出る直前までは賑わっていたものの、週明けの夜中というタイミングからか外には人の姿がほとんど見当たらなかった。

たまに道路をタクシーが通過していく音以外も聞こえない。


片付けはとうに終わり、つい先ほど私以外のスタッフは退勤していった。

このレジの計算が本日最後の業務である。



売り上げと釣り銭を確認し、日報のチェックを終えたところでため息が漏れた。ほぼ定時、上手くいったほうだろう。

それでもなんとなく気が晴れない。


パソコンをシャットダウンさせ、戸締まりを再度確認して店舗の明かりを完全に消した。





私が就職しようと思ったきっかけはなんだったのだろう。

お金欲しさもあったのだが、あまりよく覚えていない。

その時は無我夢中だったこと、入ってみたら予想よりも近い年齢の人が多くて安心したことはよく覚えている。


きちんとしたブラウス、黒のズボンにパンプス。

真新しいものに包まれ、新しい知識や接客のいろはを頭に叩き込んでいくのはとても楽しい。

いや、楽しかった、というべきだろう。


既に3年。

私も一人前として認められたところまではよかった。


後輩ができ、指導するようになるとその繰り返しに段々と疲れを感じてきた。

最初こそ心地よい疲れだと感じていたそれは、段々と自分のなにかを蝕んでいたようだ。


制服をハンガーにかけ、ロッカーにいれる。

私服の基本はジーンズにTシャツ、スニーカー、そしてショルダーバッグだ。

深夜知り合いの誰にも会うこともないから、というよりはお洒落をして歩けばたちまち酔っぱらいに声を掛けられるので自衛のためが理由だ。これは1年目の最初に身をもって経験した。


着替えも終え、店舗の鍵とシャッターを閉め、駐車場へ向かう。私の持っている交通手段はバイクだ。

メットインからヘルメットと一緒にたたんでいれていた上着を取り出した。

昼は日差しが暑くとも、夜の風はまだひんやりしている。

上着の前をきちんとしめたところでエンジンをかけた。



普段は20分もあれば帰れる道のりだが、今日はあえて遠回りをする。

気が晴れない日の気分転換だ。


しん、とした暗い街を、心地よい風を感じながら進んでいく。

行き先は特にない。

頭をまっさらにするために必要だと思っているだけなのだから。


朝日が昇るまでに家に着いて、眠りに着く。

自分のなかでそんな小さなルールを決めて走っていく。



ふと、街を見下ろしてみたいと思った。

街の隙間、大地と空の境目から昇る明かりが街を満たしていく様子を、ただ一人眺める、そんなイメージが浮かんだ。


そうすればしんとしたこの街に、このもやもやに柔らかな明かりが注ぎ込まれて全てが許される気がする。何故かは分からないが、それはとても魅力的なことだった。


途中のコンビニで温かいお茶を買い、家とは逆の山側を目指す。

そんなに高くない山だか、車で行ける展望台があったはずだからバイクでも行けるだろう。

なんとなくの思いつきではあったものの、胸は弾んでいた。



それからしばらくバイクで進み、迷いながらもなんとか目的地にたどり着いた。

展望台は当然の如く先客はおらず、駐車場にも車の一台もなかった。

上着を着てはいるものの、ひんやりと寒い。

温かいお茶にしておいてよかったと内心ほっとしつつ、今の街を見下ろしてみる。


普段仕事をしている時にはキラキラしている街には明かりがなく、住宅街側も真っ暗だった。

星と、月明かり、道路の街灯だけが今生きているものだ。


「…こんなに寂しい場所だったんだ…」


私が眠る、その時にはいつも既に街は眠り、起きた時には動き出している。

寝ている街を見て、一人佇んでいる今の私が変なのだ。



ベンチに腰掛け、ぼんやりと眺める。


時計もなく、どれくらいたったかも分からない。


ひんやりと寒いのに、こんなに暗い場所に一人きりなのに、何故か何も怖くはなかった。


ただ目や頭はしっかりと冴えていて、今か今かと一点を見つめている。



あともう少し。


暗闇が段々と青さを取り戻し、薄紫色が見えてきたら。

そんな情景を胸に描きながら、静かに街を見つめていた。


ここまで見ていただきましてありがとうございます。

テスト投稿を兼ねて、日々感じる事、思うことを「私」に重ねて書いてみました。

夜勤って色々と感じることが多いんですよね。

もし続きがあるならば、きっと誰も居ないと思っていた街で誰かに会えるといいな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 【今か今かと一点を見つめている】 なんとなく自分が自分でないようにも感じられるようになったモノクロームの生活の中に、一筋の紅を差したいという、ある意味無邪気な期待があるように感じられました。…
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