迷い道
俺は、私は、僕は、あたしは、あなたは……。
人生の分かれ道に立っていた。来た道は一本の癖して、その道はいくつもあった。
一つの道は余りにも狭すぎる小路。周りを進む人達はその道の先に何があるかを知っているようで、お互いに押しつ押されあうことで出来た血に汚れていた。その先と同じくらい綺麗な壁だったものは、見るからに汚らしくなっていく。
一つの道は壁すらない獣道。誰かが通った跡は辛うじて分かる。だが、何年も何十年も通った人などいないようで、その先に何が待ち受けているかは誰にも分からない。運が良ければどこかに辿り着きそうだが。
一つの道は出来立てほやほやの舗装された道路。制服を着た人達が歩いていく。しかし、新しき道の先には何かがあるようには見えない。これから彼らが何かを作っていくのだろうか。
一つの道は歓楽街への道。ここからでもそこから楽しそうな音楽が聞こえてくる。が、それに混じった声は悲痛なものばかりだった。道の入り口には見るからにいい服を着た男が優しくこちらを呼んでいる。それに応えてはいけないのだと、本能が知っていた。
一つの道は草木一本すら見えない荒道。ばきゅーんと、銃声が何度も聞こえる。何かが爆発する音がする。何人もの声で出来た悲鳴が轟く。そこには助けを求める人がいた。怪我で苦しんでいる人がいた。だが、そこに行くには勇気も知識も、お金もない。
一つの道は道ではなかった。そこはいつもの自分の部屋。部屋には漫画や本、ゲームが散乱している。ここにいると安心する反面、不安にも襲われる。道を進むことを放棄してしまった現実に、殺されるのではないかとビクビクしてしまう。
一つの道は道ではなかった。それはただの草原であった。誰も訪れたことのない道になる前の道である。進み続けることさえできれば、どの道よりも楽しいのかもしれない。ただし、運がいる。覚悟も、勇気も。
歩くためには、まず立ち上がる必要がある。
歩くためには、一歩を踏み出す必要がある。
歩くためには、歩き続ける必要がある。
これらがどれだけ上手く出来ようが、実はそれだけでは意味がない。なんせそれはただ歩いているだけで、数多ある道を選択したとは言えないのだから。道を歩いているわけではないから。
一つの道はあなたの道。無限とも言える道の中から選んだ道である。選んだ理由を忘れるな。選んだ勇気を忘れるな。選んだ覚悟を忘れるな。
分かれ道はこれからもあるだろう。だからこそ、忘れるな。
そうすればあなたはきっと前に進めるだろう。