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「……ねえ、葛城さん」
「なにかしら」
「その…………どうやったら、彼らから離れられると思う?」
「彼らって、《守護者》のことよね。うーん……それはちょっと難しいんじゃないかしら」
「ずっとスルーしてきたけど言わせて。あの人たち《守護者》って呼ばれているの!?」
やはりそう驚くのが正常な感情か。妙に納得しながらも「私は今日、本堂君からそう聞いたわ」と説明してやれば、「本堂くんが……」と落胆した様子。彼らとの関係をそう見られていたことに対してなのかはたまた本堂と会話した愛乃を羨んでのことか。どちらか測りかねるがどちらも含んでいそうだと愛乃は思った。
「それで、離れる方法だわね。まぁ、ないわけじゃあないけれど……」
「教えて、何でもする!」
「《守護者》に対して冷たくし、本堂君にアタックする……とか」
「それができたら早々にやってるし、本堂君にアタックしたら絶対彼に迷惑かけちゃうよおおおっ」
がばっとテーブルに伏せ「うぅぅぅ」と嘆く姿に普段見られるヒロインらしさは欠片も感じられない。この女、作っていたな。直観的にそう感じながらもそれは口にしない。《守護者》は兎も角、本堂にこんなところを見られたくないというのが乙女心だろう。
それに彼女が嘆く理由はわからないでもない。だからこそ桔梗のそんな姿に何かを言ってやるつもりはないのだが……愛乃は彼女にばれぬようそっと溜息を吐く。
さすがは桔梗にご執心な《守護者》たちね。吃驚するぐらい一般性がみられない行動を予測できそうだわ
慰めるようにぽんぽんっと桔梗の肩を叩いてやれば、顔をくしゃくしゃにして「葛城……ううん、愛乃さああん」と泣き出してしまった。相当《守護者》に付き纏われることが彼女のストレスになっていたようだ。
「頑張ったわね、桔梗さん」
優しく頭を撫でてやれば桔梗の涙は収まることなくむしろ増していった。
だが愛乃はそれを嫌がることなく、頑張ってわねと励ましてやるのだった。
桔梗が泣き止むころにはずいぶん時間が経っており、そろそろ喫茶店を占めたいから、と店員に声をかけられてしまった。素早く会計をすまし店の前に出れば、すっきりしたような表情で桔梗がこちらを向く。
「今日は、本当にありがとう。愛乃さんが私とおんなじで転生していたことにはすっごく驚いたけど、でも同じくらい嬉しかった」
「残念ながら解決策は見つからなかったけどね」
「それは追々考えていくことにするよ。これでまだ頑張れそうだし」
「ゲームのストーリーでわからないことがあったらいつでも聞いて頂戴。貴女にその気がないのに攻略が進んで行ってしまうなんて可哀想で見ていられないわ」
「よ、よしのさん……っ」
またも泣き出しそうになった桔梗に「ほらほら泣かないで」と頭を撫でてやればぎゅっと唇を真一文字に結び一つ首肯した。それでよしと愛乃が満足そうな表情を見せたところで、スマホの着信音が鳴り響いた。
桔梗と愛乃とで二人同時にバッグをごそごそと漁り――二人ともプリセット着信音のままだったためにどちらのスマホがなっているのかわからなかったのである――取り出せば、どうやら着信は愛乃のほうだったらしく「失礼」と一言桔梗に断り電話に出た。
「もしもし……あら、どうかしたの? ……ええ、今から帰るわ。…………本当? 楽しみにしてる。私が料理しなくていいだなんて久しぶりね、ありがとう。それじゃあね」
通話を切りバッグにしまったところで、桔梗が「ご家族から?」と尋ねた。だが愛乃はそれに
「彼氏よ」
と即答。驚愕の表情を見てた桔梗だったが、どうやら愛乃の一言に「それなら本堂君を狙わないって話に合点がいくね」と納得した様子である。
そういうことよ、ときれいに笑みを浮かべると、二人はどちらからともなく「それじゃあね」と其々の帰路に着いた。
「ただいまぁ」
明かりのついていることににんまり笑いながら愛乃がマンションの扉を開ければ、「おかえりぃ」と返ってくる低い声。
この世界に転生して、転勤族でワーカーホリック気味な両親のもとに生まれた愛乃は、高校に入学する少し前から一人暮らしをしていたのだが、時折恋人である男が泊りに来て甲斐甲斐しく愛乃の世話をしているのだった。精神的に愛乃はいい年をしていたのでトータル的には自分よりも年下の両親と暮らすことがストレスになりかけていたので、一人で暮らすことに不満を抱くことはなかったが、こうやって恋人が泊りに来てくれるのはとても嬉しい。『何もない』ということが分かっていたとしても。
「今日は何作ったの?」
「シチュー。愛乃さん好きでしょう?」
「好きだけど……恵一、貴方今七月だってことわかっている?」
ははっと誤魔化したような笑いを浮かべる恋人・恵一に呆れながらも、愛乃は「着替えてくるね」と自室へ引き上げた。だがその直前、ふっと思ったことを口にする。
「一緒に寝る?」
「寝るだけね。それ以上は勘弁して」
意気地なし、と唇を尖らせれば恵一は困ったように笑うばかりで。仕方ないか、と肩を竦めると、今度こそ自室へ引き上げた。
翌日も愛乃はヒロイン観察を続ける。ばれぬよう騒がしいなと思った時だけそちらを見るようにしていたのだが、それでも本堂は目敏くそれに気付き、「今日も芦屋は大変そうだな」と声をかけてきた。
本堂の気持ちは測りかねるが、念のためと愛乃はある日彼にこう告げる。
「私、恋人がいるの。……本堂君は?」
付け加えたような後者の一言は、突然の恋人がいる発言を誤魔化すためと、頻繁に話しかけてくるようになった桔梗を想っての言葉。大変そうにしているしこれぐらいは協力してやるか、ということ。
本堂は愛乃の言葉に驚いた様子は見せず「俺は今のところ誰もいないなー。葛城彼氏いるとかくうっ、リア充め!」と肩を拳でぐりぐりと押されてしまった。それをばっちり見てしまった桔梗には後程説明するとして。
自分を狙って、桔梗の話をしにこちらへ来ていたのではないとすると……
愛乃の中で、とある仮設が成り立ってしまった。だがそれはそっと愛乃自身の心の中に留めておく。ぬか喜びさせるのも悪いしね、と。あとちゃんと説明してあげるから頼むから顔色悪くして慌てるのはやめなさい。周りの《守護者》が心配して大騒ぎするから。
次話は29日19時更新です




