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2番目の魔法少女[2]予定にない嵐  作者: 秋乃 透歌
第二章 雪の宝石を探して

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「やはり、私も水着になるべきだと思われますか?」

 滝沢さんは、僕に向かってそう言った。

 ふむ。

 なるほど。

 ――何が、相談に乗って欲しい、だ。

「いえ。海岸だろうが山奥だろうが、仕事は仕事です。暑いでしょうが、その黒いスーツが妥当でしょう」

 僕の返答は、珊瑚あたりには『話が違う』と怒られそうなものだ。

「ちょっと、玖郎くんっ。滝沢さんも水着で良いですよ。一緒に遊びましょうよ」

 瑠璃の意見は、思いやりにあふれる、優しいものだ。

「きわどいビキニでお願いしますが模範解答じゃないの? ね、滝沢さん」

 常盤の答えもある意味では正しい。

 だが、小学五年生に対して妙な期待をするな。

 ともあれ。

 この場合の、滝沢さんの質問。それが意図するところは――字面とは多分に違う。

「皆さん、ありがとうこざいます。では、後ほどお嬢様にも相談してみますね」

 笑顔で言葉を返す彼女の真の意図はこうだ。

『下手な企みは全てお見通しですよ』

 盗聴器――いや、指向性の高性能マイクで十分か。武者小路家全体が綾乃をサポートする体制であれば、人材も資材も潤沢だ。下手に証拠が残らないような手段はいくらでもある。

 たかが小学生を相手にするには大袈裟だが、王位継承試験の関係者全員が、同じようにマークされているとすれば納得もできる。

 海水浴に珊瑚を参加させるために、僕が一芝居打ったことも筒抜け。

 その狙いも推測されている、ということだ。

 その上で、あえて『狙いは分かっているぞ』と伝えることで僕の動きを牽制するつもりなのだ。

 滝沢さん、なかなか食えない大人だ。

 盗聴や監視、あるいは武者小路家の暗躍に対して、僕に可能な対策はない。

 いや、あるにはある。

 悪い魔女――地球全部を敵に回せる凶悪なハッカーである、僕の母親を頼るという方法である。しかし、この最終手段は、コスト的に見合わない悪手だ。武者小路家をなんとかする『程度』で切るには、強すぎる切り札だろう。

 という現状を踏まえ、僕にできることは――。

 せいぜい意趣返しである。

 真夏の海岸で黒いスーツを着て、子ども達が遊ぶ所を眺めていたらどうですか? と提言する程度だ。

「参考までに、小泉様はワンピースとビキニ、どちらの水着がお好みですか?」

「んっ? おおっ?」

「え、まさか、滝沢さんまで玖郎くんを……」

 常盤の野次馬的興味も、瑠璃の杞憂も、全くの的外れである。

 滝沢さんのサングラスの奥の瞳は、笑顔の形の癖に、相当温度が低い。

 ふん。

 その程度で。

 その程度のことで、気迫敗けをする訳にはいかない。

 瑠璃の歩む道は――僕の、瑠璃を助けたいという願いは――もっとずっと険しい道程である。

 その程度では問題にもしない。

「黒いスーツ、とても似合っていると思いますよ?」

 笑顔で返す僕の答えに、滝沢さんはにっこりと笑って見せた。

 それから、彼女はすっ、と立ち上がると応接室の扉の横――その壁際に立った。

 と、まるで示し合わせたように、普段着に着替えた綾乃が部屋に入ってきた。

 いや、逆か。綾乃の気配を察知して、部屋の端に控えたのだ。

「さて、お待たせいたしました。さっそく本題に入りますわね。頼みと言うのは――」

「――と、その前に、私から良いかな?」

 ようやく本題に入るかと思った矢先、それを遮ったのは常盤だった。

「実は、ちょっと前から気になってたことがあって――正確には、気に入らないことなんだけど」

 ふむ。

 この切り出し、僕が〈契約〉(コントラクト)していない――瑠璃の〈騎士〉(ナイト)ではなく、ただの協力者であることを責める流れか。

 あえて〈騎士〉(ナイト)にはならず、地球世界の人間を守る魔法――〈保護魔法〉(プロテクト)を利用するために協力者でいるという戦略も、使い続けて長い。

 〈騎士〉(ナイト)と偽り続けるのも限界。気付かれても仕方のない時期だとは思っていた。

 僕は瞬時に思考を切り替え、常盤との舌戦に備える。

「先日の、三つ巴の〈試練〉(トライアル)。あの決着が気に入らないんだよね」

 は。

 なんだ、そんな話か。

 僕は、幾分拍子抜けしてしまった。

「小泉の卑怯な騙し討ち込みで考えれば、瑠璃たちの勝ちで間違いないよ。でも、純粋に魔法少女の実力としてはどうなんだろうね? 私は、瑠璃に負けているつもりはないよ?」

 やれやれ。

 どうやら常盤は、三つ巴の〈試練〉(トライアル)の結果に、未だ納得していない――こだわっているらしい。

「僕達の戦略は卑怯、ですか。魔法だけが〈試練〉(トライアル)で試されている、と? 初耳ですが?」

 常盤は、僕の言葉に表情を険しくした。

「私が気に入らない、って言ってるの」

 ふむ。

 そういう話か。

 存外に体育会系なんだな。

「では、どうします?」

 そこで、常盤は瑠璃を真っ直ぐに見て行った。

「瑠璃。一対一で勝負しよう」



【瑠璃】


 私は、常盤さんと数歩の距離をあけて、向かい合って立ちました。

 綾乃さんの家は、豪邸というだけではなく、広い敷地にいくつものお庭を持っています。

 草木が綺麗に手入れされた中庭、まるでお寺のような枯山水のある石庭、小さな滝が流れ込む池を備えた日本庭園、季節が良ければ色とりどりの花を楽しめるバラ園。

 そんな屋外の施設の一つとして、簡単なティーパーティができるような、開けた一角があります。

 そこが、私と常盤さんの――水の〈魔法少女〉(プリンセス)と風の〈魔法少女〉(プリンセス)の、一対一の対決の舞台なのです。

 相変わらず夏の暑さが押し寄せて来ますが、不思議とあまり気になりません。

 どこからか涼しげな滝の水音が聞こえるから、かもしれません。あるいは、単純にこの状況に集中しているから、かもしれません。

「さて。小泉の狡猾さはナシで、瑠璃の実力を見せてもらうよ」

 常磐さんが言いました。

 ええ。

 そうですね。

 玖郎くんの得意とする戦略や策略は、ルールの隙間を潜り抜けたり、普通の思考より一段高いレベルで勝敗を左右するようなものです。

 三つ巴の〈試練〉(トライアル)の時の、終了時刻を錯覚させて目標を手中に納め勝利するという策略は、まさにその例と言えるでしょう。

 私では――おそらく今現在の全ての〈魔法少女〉(プリンセス)〈騎士〉(ナイト)では、手の届かない高みです。

 確実な勝利に向けて、あるいは、わずかでも勝率を上げるために、妥協なく思考を続けるからこそ到達できる領域なのです。

 もちろん勝敗がそれだけで決まるわけもなく、私達の競争型〈試練〉(トライアル)における勝率は、さほど高くありません。

 とは言え、その策略によって負ける方にとっては、ズルいと感じることもあるでしょう。

 ――それでも。

 それでも、です。

 私は、例えズルいと言われようと、例え大好きな常盤さんに睨まれようと、例え地平世界に帰った時に拍手で迎えられないことになろうとも――。

 勝ちたい。

 この王位継承試験に、勝ちたいのです。

 勝って、次の女王になりたい。

 女王になって、地平世界を優しくできる国にしたい。

 例え女王であっても、目の前の一人のために手を差し出すことができる。助けることが許される――そんな国を、私は作りたい。

 だから――。

「玖郎くんの力がなくても、負けるつもりはありません」

 私は、決然と答えました。

「上等。ジャッ爺、いるよね?」

 私の言葉を受け止め、それから常盤さんは空中に向かって声をかけました。

「もちろん。話は聞いていましたぞ?」

 ポン、という音とともに、ジャッ爺が現れました。

 常盤さんと私のちょうど真ん中に、ふわふわと浮かびなから私達を見回しました。

「常盤姫に瑠璃姫、それに綾乃殿も、お変わりないようで何より。ふぉっふぉっふぉ」

 ジャッ爺は、〈精霊〉達と地平世界の人間との交渉役をしている、とっても偉い〈精霊〉です。そして、ジャッ爺は王位継承試験の審判なのです。

 ジャッ爺の見た目は、私の頭くらいの大きさの緑の毛玉です。同じく緑色の小さな毛玉のような手足が、頭に直接くっついています。可愛い目が毛の間から見えていて、シルクハットをかぶり、ステッキを握っています。喋っても、緑の毛のせいで口は見えません。

「競争型の〈試練〉(トライアル)を提案したい。私と瑠璃の、〈魔法少女〉(プリンセス)としての実力を比べられるものを頼むよ」

 え?

 〈試練〉(トライアル)を、提案――?

「承知しました。瑠璃姫もよろしいですかな?」

 ジャッ爺の言葉に、私は反射的に頷きました。

 そのタイミングで――。

「驚きました。〈試練〉(トライアル)をこちらから提案できるんですね」

 玖郎くんが、そう声をかけてきました。

 私達の対決を観戦するため、少し離れた場所に綾乃さんと並んで立っています。

 口出し無用と離れていたのですが、思わず、といった調子の声色でした。

 それです。私も、そんなことができるとは思っても見ませんでした。

「どんな提案でも通る訳ではないぞい。不公平にならない範囲で、しかも試験として有効だと判断すれば、〈試練〉(トライアル)をすることもある。そういうことじゃよ」

 ジャッ爺はそう応えました。

「小泉、またいつもの策略? この対決の間は余計な手出しはナシで頼みたいんだけど?」

 常盤さんの言葉は、トゲを含んでいます。

「まあむあ、そうカリカリしないでください。しかし、良いことを聞きました。これだけで今日ここへ来た価値がありました」

 玖郎くんは何やら嬉しそうです。

 と言うか、いつものニヤリ笑いが出ています。何か企んでいる時の顔です。

「良いことを聞かせてもらったお礼です。――瑠璃、必要な状況になれば、先週特訓したアレを使っていいぞ。限定なし、手加減なしで実力を見せろ」

 玖郎くんの言葉の後半は、私に向けたものでした。

 アレですか。

 効果的な場面が訪れるまでは、温存しておこうと相談していたはずですが。

 ええ。

 そうですね、全力でやらないと、常盤さんに失礼でしょう。

「なんだか知らないが――ジャッ爺、頼むよ」

「それっ!」

 常盤さんの言葉を受けて、ジャッ爺が声を上げました。

 すると、ジャッ爺のそばに、二体の〈精霊〉が現れました。

 赤茶色のレンガでできた、大きな人の形。その身長は二メートルを超え、両手が長く、その大きな拳は地面に着きそうです。同じくレンガと思われる材質でできた西洋風の簡易的な甲冑姿――レンガゴレムです。

 向日葵ちゃんが〈開門〉(オープンゲート)で召喚したものを見たことがあります。

 二体のレンガゴレムが、同時に両手をあげ、声なき雄叫びを上げました。

「今回の〈試練〉(トライアル)は、常盤姫の提案経緯を考慮して、シンプルなルールじゃ」

 ジャッ爺は続けます。

「順番にそれぞれ一体のレンガゴレムと戦闘を行い、行動不能にするまでの時間を競うのじゃ。時間が短かい方が勝ちじゃよ」

 なるほど、確かにこれ以上ないほどシンプルです。

 重要なのは戦術――魔法をどう使うかに限定されていて、玖郎くんが得意とするような、戦略の介入する余地はありません。

 ――などと、思考を停止してはいけません。

 玖郎くんに何度も教えてもらいました。

 思考を止めるな。

 目的を見失うな。

 そうです。

 私の願いのため、その一歩にするために、この〈試練〉(トライアル)に勝利する必要があります。

「どうすれば行動不能と判定されますか? 私は、できることなら、〈精霊〉であっても命を奪ったり、傷つけたりしたくないのですが」

 私は、ジャッ爺に尋ねました。

 その判定基準を曖昧にしておくと、傷つけたくないという私の甘さが邪魔をして、時間がかかってしまう可能性があります。

 そうですね、玖郎くんの許可も出ていることですし――。

「例えば、十秒以上身動きが取れなければ行動不能と言うのはどうでしょう? それなら、拘束するつもりで動けますし、気絶させても良いですよね」

「相変わらずだね、瑠璃。私はその考えは甘いと思うけど――まあ、その判定基準でかまわないよ」

 私の提案に、常盤さんは渋い表情を見せながらも同意してくれました。

「確かに優しいところは相変わらずですな。もっとも、最近は小童(こわっぱ)の悪影響か、理屈っぽくなって心配じゃな」

 小童というのは玖郎くんのことです。

 実際にはただの協力者であり、〈契約〉(コントラクト)を結んだ〈騎士〉(ナイト)ではないので、ジャッ爺の玖郎くんに対する扱いは適当なのです。

「しかし、レンガゴレムは力が強い〈精霊〉じゃ。拘束はなかなか難しいと思いますがの。では、十秒以上身動きが取れない状態にするまでの時間を競ってもらうとするかの」

 わざわざジャッ爺がアドバイスを付けて、私の提案した条件を飲んでくれました。

 ええ。

 玖郎くん風に言えば――条件は全て整いました。

 あとは、思考通りに実行するだけです。

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