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第九話

アレス視点です。





5月初旬、この国、オルカディンで生まれた男なら誰もが憧れる王立騎士の白騎士団第一師団団長に勅令が下された。


《あらゆる場所で暴走を起こしている精霊の主の原因を調査せよ》


とのこと。精霊と共存が出来る今の世は、戦争もなく日々平和なものだ。少々小競り合いも多いが、白騎士と相対する黒騎士が治めている。

だがここ最近では、精霊の活動が不穏だ。場所によって違う精霊の主達が、原因不明の騒動を起こしている。

普段は穏やかで、自分のテリトリーからは出ない彼等だが、その近くの村や町に被害を出している。


多分あいつもこの勅令を下されただろう。精霊が関係しているのなら尚更だ。私は足早に黒騎士団第一師団団長の部屋へ行く中、侍女や他の白騎士に道を譲られる。

黒騎士団(省略)団長室のドアに着き、ノックもせずに荒々しくドアを開けた。これはこいつの部屋しかやらないことだが。


「入りますよ」

「……お前は普通に入れないのか」


呆れるように答えたのは黒騎士団第一師団団長、カヌイ・ヘカ・プロメウスだ。紺色の髪色に瞳。凛々しい眉、綺麗な鼻梁、薄い唇。この男も顔はとても整っているが、瞳がこの世の全て興味無しとでも言っているかのようだ。


王国で二大勢力と言われる白と黒の騎士団。性格は真逆なのだが、仲はまあまあ良好。白騎士は大体体力が強い者が集まるのだが、黒騎士は魔力が高い者が集まる。喧嘩しそうだと思うだろうが、実際はお互い助け合う心配りが出来る者が多かったのでそこまでいくことはなかった。


私は執務机の前にあるソファに座って、用件を出していく。


「カヌイ、貴方もあの勅令を下されましたか?」

「ああ。貴方「も」ということはお前もか」

「ええ。精霊が関わるとあまり良くない気がするのですが」

「仕方ない。それに、黒騎士が関わらないわけにはいかない」


と、平坦に言う。黒騎士は魔力が高い故に精霊の関わりは深い。

なので、黒騎士と組まなくては、あまり精霊についての知識がない白騎士にこの勅令は分が悪い。だから黒騎士団長も勅令を下されたのだが。

カヌイと相談し、白騎士を4人、黒騎士を2人組ませて調査隊を編成する。

一番被害の多い場所へ行く調査隊には私が入り、二番目に多い場所にカヌイが入る。

私が行く場所はかなりの辺境地で、精霊の主が住んでいるところはユニコーンの速さで4日程で着ける所だ。さて、どれ程の被害を受けているか。


翌日の早朝に私とカヌイは出発した。





2日後の朝、被害に遭っている村に着いた。そこには、村があったと思われる残骸が残されていた。何軒かは無事に残ってはいたが、残りは半分から粉々に破壊された瓦礫の山だ。

村の人々に聞いてみると、一日で破壊されたとのこと。怪我人は多かったが、生死に関わる人はいなかったので安堵する。既に治療が始まっていた。

普段は人間に関わらない大人しい彼等が何故こんなことを?疑問は益々大きくなる。


森に一番近いところで住人がいるという。名前を聞いてみると、なんと5年前まで白騎士に所属していたバルク殿だった。こんなところに居たのか。

前に腕に重傷を負い、剣が握れなくなってしまって自ら白騎士を辞めてしまったのだが、元気にしているのだろうか。

だがまずは森の調査だ。同じ調査隊の者と覚悟を入れ替えてバルクのところまで向かった。


まさかそこで不審人物に会うとは思わなかったが。



◇◇◇◇◇



事態が悪化する前に片付けた方が良い、ということで早朝、バルク殿の家に着いた。ユニコーンから降りてドアにノックする。


「バルク殿、居ませんか?」


暫くするとドアが開いた。5年ぶりに見る厳めしい顔に猛々しい巨躯。顔はあまり変化はないが、驚いたように少しだけ目を見開く。だがすぐにまた元の顔に戻った。

挨拶と、朝早くに来てしまったことを謝る。


「何か、お話でも?」


さて、どう話すか。と思っているとバルク殿の腰あたりに綺麗な黒い糸束が見えた。目を向けてみると、そこには女性が口元を抑えて立っていた。

と、女性が視線に気付いたようにこちらを見る。瞳も髪色と同じく黒だ。

黒とは珍しい。その人の魔力の色が表面に出てくるものだが、完全な黒色は初めて見た。

武骨なバルク殿の家に女性。誰だろう。奥方だろうか。それにしては年が離れていると思うのだが。

無意識に疑問を口にする。


「……そちらは?」


女性に目を向けたままバルク殿にそう問うと、女性は口元に抑えていた手を下ろし、すぅっと目を細める。


「……。失礼ですが、相手に名を聞くときはまずご自分から名乗っては?」


とちょっとだけ怒ったように言うが、心地よい鶯舌だ。

バルク殿で少し隠れてはいるが、純黒の長い髪を後頭部の高い位置に留めて腰より下まで下ろし、服装は絹のような白い長袖を着込み、下半身は普通の女性が着るようなスカートではなく、足の細さが分かるようなぴっちりとした青い衣(後ろの調査隊の者が目を逸らした気配がしたので後でシメる)、靴は薄茶色の物を履いていた。あまり見たこともない服装だ。


柳眉を少し怒ったように曲げ、繊細なつくりをした鼻梁、ぷっくりとし潤ませた形のよい桜唇、長く量の多い黒い睫毛、少しだけ猫を思わせるようなぱっちりとした目元。柘榴のような双眸は、見る者の意識を吸い込むようだ。

静粛とした雰囲気を醸し出し、無防備のように見えるが隙を全く見せない。鋭くこちらを見る様は、凛々しくも美しく咲く蘭のようだ。


それに、この魔力――。


膨大な魔力を完全にその身体に封じられずに、微々たるものだが醸し出されていた。何もしていないはずなのに気圧されているように感じる。

長い時間この女性を見つめていたように見えるが、実際は短い。

なんとか笑顔を浮かべて自己紹介をする。


「これは失礼した。私の名はアレス・ファルク・ヴァンガルフと申します」


すると女性は、威圧が消えたと同時に華が綻ぶ様に微笑んだ。


「リオ・カルザークです」


これから先、この女性と自分の人生に何かが起こるような気がした。





多分一目ぼれです。アレス君。

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