第八話
「だからいいって。別に今すぐ王都へ行きたいわけじゃないし」
「そんな事言わずに」
私は荷物を片付けながら言う。その隣でにっこり笑いながらしつこく誘うアレス。笑顔が似合うイケメン騎士で、世の乙女ならばホイホイ付いて行きそうだが私は行かぬ。異世界ライフを楽しみたいのだ。そしてお前は執念深いセールスマンか。さっきまでの紳士ぶりはどこ行った。
あまりにしつこいので無視。【桜花】を携えてバルクさんに近付く。
「バルクさん、お世話になりました。一宿一飯のお礼は忘れません」
「……いい。俺の方こそ、朝飯と薪割りの礼を言う」
「いえいえ。親切にしてくれて、ありがとうございました」
といってぺこりと礼をする。また会える時があったら会いたいな。
頭を上げると、バルクさんは私をじっと見つめる。首を傾げると、バルクさんは家の奥に行ってしまった。何だろう?
待っていると、何か入ってる袋を持って戻ってきた。
「……やる」
「え。……良いんですか?」
聞いてみると頷いた。袋を受け取って中身を見ると何やら青い鈴蘭のような花が五束ほど入っている。何これ?と思っていると、横から中身を見て驚いたアレスが教えてくれた。
「おや、満月花ではないですか」
「満月花?」
「知らないのですか?花の蜜と清めの水を調合するとポーションになり、花とエリクス茸を調合するとエーテルになる優れものですよ。野草でもあまり繁殖出来ず、養殖は不可能で、確か希少価値が高い物だったはず」
「えっ!?い、いいよバルクさん。バルクさんが使って」
すぐ様返そうとしたが、バルクさんは受け取ろうとはしなかった。
そこまでしてくれなくても良いのに。こんな物まで。
「いや……。リオが使え」
「でも」
バルクさんは尚も食い下がろうとする私の頭を撫で、驚く私に不器用な笑顔を見せた。
「……お前が、使ってくれた方が、嬉しい」
「――!」
こんなに親切な人初めてだよ。今まであまり女の子扱いされてこなかったので、不覚にもキュンときちゃいました。あれ、私オジサマ好きとかそんなんじゃなかったのにな。
頬を赤くして挙動不審になっている私に少し首を傾げながらもまだ頭を撫でてくれるバルクさん。やばい、好きになっちゃいそうです。
横で私の反応を見て、少しムッとしているアレス。それに勿論気付かない璃桜。
バルクに村への行き先を聞いてから、4人の騎士と璃桜は、バルクに別れを告げてそこから離れた。
スタスタ。
カッポカッポ。
私の足音と、後ろの4人の足音にユニコーンの足音が響く。どうしてこうなった。
私は当然歩きなのだが、3m離れて付いてくる4人の騎士(正確には一人が私に付いてきているのだが、3人の騎士はその一人に付いてきている形だ)は何故かユニコーンには乗らずに歩いている。
まあ、大体の要因は分かってるけど。でも私が話しかけるとまたループになるので無視。
昼が過ぎた。確か日が暮れる前に村に着くとバルクさんが言っていた。ムガン、話が違う。と思ったが、まあムガンは自分の歩調を基本で言ったんだろうな、と勝手に解釈して許す。
昼ご飯はどうしようか。周りは……草原と森しかないので、やっぱ森で調達するしかないか。弓矢でもあったらなー……あ。
「ねえ」
「はい?何ですか?」
私が話しかけてくるのを待ってたのか、アレスはにっこりと微笑んだ。
だが私が用があるのはアレスではない。
「違う違う。貴方に言ってるの」
「は……えっ、私ですか?」
アレスの後ろにいた3人の騎士の内、アレスと同じ騎士服の一人に声をかけた。薄緑の髪色と目。頬に雀斑が浮いている。顔立ちが幼いように見えるが声はちゃんと大人の男性のものだ。私と同じか年下かな?アレスが何故か少し恨めしそうにこちらを見ているが、無視。
驚いている雀斑君に近付いて用事を言う。
「貴方の弓矢、貸してくれる?」
「え、で、ですが、これは女性が扱えるような物では……」
「いいからいいから」
と強引に弓矢を強奪。ふむ。やっぱり和弓とは少し違うが、まあなんとかなるだろう。弦の具合を確認。押手かけがないけど、うん、大丈夫だろう。
騎士達から離れ、森の方に向き合う。そして、綺麗に御辞儀をする。
私が今からやることは、一つの生命を奪うこと。それをやることに抵抗はない。幼い頃のサバイバル生活で世の中弱肉強食だと徹底的に叩き込まれたからだ。生きるために。自然に感謝をする。
足踏みをして、息合いをする。弓矢を手に1.5の視力で狙いを定め、弓を引く。ギリギリまで弓を引き、相手が油断した瞬間に矢を放つ。中りだ。
構えを解いて獲物を獲りに行く。よしよし。矢一本で絶命したようだ。獲物を片手にさっきの場所まで戻ると、一同ぽかんとしていた。何ぞ。
弓矢を強引に奪われた雀斑君が呆気にとられながらも獲物に指差す。
「そ、それは……」
「え、昼ご飯だけど?」
とかる~く答えると、まだぽかんとしていた。お~い君達、帰ってこい。
と思っていると何やら不気味な笑い声が聞こえてきた。
「クックッ……アッハハハハハハ!」
何故かアレスが爆笑している。今度は私が口を開いて呆気に取られていた。
と同時に3人の騎士もまたぽかんとしていた。笑える要素あったか?
「クックックッ……リオは本当に並外れてますね」
とアレスは涙を浮かべながら言う。おい、それは褒め言葉か?褒め言葉じゃないだろう。じとっ、と目を向けるとまあまあ、と苦笑いされた。
常識外れで悪かったな。とぷいっとアレスから顔を背ける。
「本当に……ですね」
「? 何か言った?」
「いえ、何でも」
「……?」
何か言ったように聞こえたのだが、声が小さすぎて聴き取れなかった。まあ良いか。
その後は、アレスと3人の騎士達にも手伝ってもらって漸く昼ご飯にありつけた。毛皮を剥ぐ時に、アレスから王都の毛皮屋に売った方が良いと言われたのだが、3人の騎士達からは羨ましげな瞳を向けられた。
何だ。高く売れるのかな?これ。でもそのまま持ってると腐りそう。あ、マジックボックスに入れれば良いか。でもマジックボックスをこの4人の前に出すのはなー……。ってそういえば。すっかり忘れてた。
『状態固定』
魔法を掛ける。あ、そうだバルクさんから貰った満月花にも掛けないと。これで良し。そのまま持っていけるぞー、と思っていると、アレスにじっと見られる。凝視するのが好きだね。もう慣れたわ。
「なに?」
「リオの魔法は……変わっていますね」
「ん?何が?」
「このような魔法は見たことが無い、という意味です」
「そう、なの?」
「ええ」
「……扱いは簡単だけど、私説明下手だから分からないと思うよ」
これは、ヤバい、かなー。『状態固定』はただ単に真空の膜で包んでるだけなんだけど、この世界では原理がまだ解明されてないっぽいな。
……下手したらお偉いさん方やらの上層部に閉じ込められて利用されそうだ。それは避けなければいけない。再びアレスから訝しむように目を向けられたが、なんとか説明づけて回避した。
取り敢えず村に着かないといけないよね、と結論付けてアレス達から離れる。
私は後ろからの視線に逃れるように前へ進んだ。
次は多分アレス視点で書いていきます。