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第四話




話が始まった――。かと思いきやの自己紹介。緊張してたのに拍子抜けだ。


「我はムガンという。この森の中では一番力が強く、知能が高いと自負している。人間からは森の主と言われるがな」

「……ムガン、ね。私は神咲璃桜よ。リオって呼んで」

「リオか。分かった」

「あ、そういえば貴方も名前、ある?」


私はそう言って猫に向き合った。猫は相変わらずじーっと私の方を見ていたが、何の反応もない。言葉が分からないのかな?

そう思っていると、猪から言われる。


「そやつは名前はないと言っているぞ」

「え、分かるの?」

「我と同じ何処かの(ぬし)ならば人間と言葉が交わせられるが、主以外は契約をせねば不可能だぞ」

「へ~契約ねぇ……。あ、そこまでしないから安心して?」


どうやらこの猫は私の言葉は分かるらしいが、喋ることは出来ないようだ。

現に契約と口にした瞬間、少し眉根を寄せながら後退りした。なにこの人間みたいな表情。否定したらすぐに解いて元の場所に戻ったが。何だろう、懐かれてはいない?けど警戒はされてない。

そういえば。


「この子ってこの森に棲んでるんじゃないの?」

「いいや。この森全ての生き物の存在を知っている我が知らぬのだ。こやつは何処からか来たのだろう」

「ということは……貴方、迷子?」


そう言ったら何故かムッとされた。猫ってこんなに感情表現豊かだっけ?


「……散策をしていただけだ、と言っている」

「そ、そう」


ムガンの訳で迷子ではないことに頷くと、ムフーとドヤ顔された。なにこいつバかわいい。と和んでいるとこの猫にも傷が見えた。お前も怪我してたのか。掌を猫の前に出す。


『ヒール』


傷を消す。猫は驚いたように傷があった場所に顔を向けて、再び私をまたじぃーっと見る。


「……礼を言う、と言っている」

「どういたしまして」


なんか慣れた。うん。


「さて、何処から話せば良いか」

「……じゃあ、ここはどこなのか教えてくれる?」

「ここはオルカディンと呼ばれる国で、リシュナと呼ばれる地域だ」

「おるかでぃん……」


それからは結構(少しじゃない)長い話だった。途中眠たくなったけど、この世界で暮らす(かもしれない)んだし久々に授業みたいな感覚で楽しかった。


ムガンの授業の大事なところを纏めると、ここはオルカディンという国で私がいる場所はリシュナという辺境地らしい。

この世界は人間、魔獣、魔族、精霊がいるらしく、人間と魔族はそれぞれの国を持っており、人間の国はオルカディン国以外にもあるが、魔族の国は一つしかないらしい。

昔は人間同士の戦争が絶えなかったようだが、今は協定を組んで平和とのこと。よく知ってるなそんなこと。

そして魔族が戦争に関わらなかったのは単に力の差が歴然だと。力の差で言ったら魔族>精霊>魔獣>人間らしい。よっわ!人間よっわ!!ちなみに知能の差だと魔族、精霊>人間>>>>>魔獣とのこと。知能のおかげで今まで生き残ったのか。やっぱり人間って知能高い方なのかな。というか魔族めっちゃ強いな。

それからムガンは魔獣ではなく、精霊に属するとのこと。だから頭良かったのか。

そして、一番耳に残ったのはこの言葉。


「この世界では実力が全て」


ということは?弱肉強食ということ?なんて都合の良い。私に合った世界!

喧嘩とか試合では負けたことはない私。私は居合以外に柔道、合気道、弓術を極め、たとえ攻撃されても遠距離近距離どちらも対応出来る(今は弓は無いが)。さらに念願だった魔法も使える。私の実力だと(相手にされた場合だが)、まあ新人の兵士とか?(いるか分からないけど)には負ける気がしない。


ムガンに大体のことを教えて貰い、さらにこの近くの村への近道を教えて貰った。日が暮れる前には着けるとか。私はムガンに礼を言った。


「礼を言われるほどではない。それに、我の方が助けて貰ったしな。其方が止めなければ、最悪森が全て破壊されていた」

「気にしなくていいよ。私も助けてもらったし、おあいこ」

「……迷ったらここに来い。いつでも歓迎だ」

「ありがとう。それじゃあ、またね」


ムガンに背を向けて歩く。今は……17時くらいか。結構長く居たな。早く村に着かなければ。

サクサクと森を出ると、空は少し陰っていた。足早になる。


…………。


後ろに何か付いてきている。また少し足早になる。それでも必死に付いてきているようだ。暫く無視して歩いていたが観念して足を止め、振り向くと先程の黒猫だった。


「どうかした?」


一応問うが、何の反応もない。耳がピクピクと動いただけだ。

じぃーっとにらみっこして、クルリと振り返って歩く。すると黒猫も付いてくる。溜息を吐いて、また振り向いてしゃがむ。


「……一緒に行く?」


と問うが、また反応なし。かと思いきや尻尾をふりふりと動かした。

これは……行くと言ってるのか?


「えーと、肯定なら頭を縦に、否定なら横に振ってくれる?」


すると猫は、頭を縦に振った。やっぱり私の言葉が分かるんだ。そこで急に、元の世界での弟を思い出した。

私が5歳の時に拾った、小さな黒猫。目の前の黒猫ほど長毛ではないが、綺麗な黒毛だった。


頭が良くて、私が問いかけるとよく鳴いた。朝には私が眠そうだと顔を舐めてくれて、昼は私が家にいると構ってくれとちょっかいを出し、夜には寝る時におやすみ、と言うと同じようにおやすみと言ってくれるようにニャーと鳴いた。弟同然だったそれが、去年の春時、寿命で死んだ。穏やかに。眠っているように。朝目が覚めたら必ず起こしてくれる存在は、永遠の眠りについた。


重なったのだ。この目の前にいる黒猫の瞳と元の世界にいた黒猫の瞳の色が同じで。瞳を見つめたまま黒猫の名前を呟いた。


「シエル」


すると、目の前の黒猫の体が真っ白に輝き出した。眩しくて目を瞑る。





ようやくの自己紹介。

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