第三話
右は草原。左は森。目の前は車道の跡。かれこれ30分はずっと歩いているのだが、全く景色が変わった様子がないように感じるのは気のせいか?
……ループじゃないことを祈ろう。
と、また暫く歩いていると、左の森からガサガサッと音がした。
「……?」
立ち止まると、急に黒い物体が目の前に飛んできた。慌てて捕まえるとそれは、
「……猫?」
のような生き物だった。全体的に猫に見えるけど、猫じゃない。何故ならば――翼が生えていたからだ。
呆けていると、またガサガサッと音がした。先程の比ではない大きな音。
黒い生き物を下ろして【桜花】を構えると、今度は大きな生き物が突進してきた。
それを難無く避けると、相手は10mさきで急ブレーキし、私に向き合った。
猪のような生き物。けれど、普通の猪よりも10~12倍大きい。
ここで便利なステータスの出番だ。
『 ??? ????
体力 ?????/?????
魔力 ????/????
種族 ???
属性 ???
状態 ???
スキル・技 ???
称号 ??? 』
やっぱ分かんないよねーそうだよねーって、体力5桁もある!?
でも見た目は……何だろう、ジ○リの森の主みたいだ。そう思っているとこちらに突進してきた。
猪は、本来は非常に神経質で警戒心の強い動物だ。普段より見慣れないものなどを見かけると、それをできるだけ避けようとする習性があるはず。
しかしこの猪のような生き物は、とても怒っている。
何故か私に攻撃を仕掛けてくるのだが、よく見ると私の足にさっきの黒い生き物がしがみ付いていた。これが原因か?
取り敢えず、この猪?(もう猪で良いか)をなんとかしなければ。最悪私が死ぬ。
理由なく無闇に殺したくはない(食料が無くなった場合は考えを改めるが)。あ、そうだ。魔法で気絶させることって出来るのか?まあ試してみないと分からないか。
体勢を整えて手を前に掲げる。
『氷結』
氷を猪の体全体まで覆わせて、動きを止めた。この状態を固定させる。
猪は先程よりかは落ち着いてはきたがまだ怒ってる。
次は別の魔法を使う。
『迅雷』
ドォンと激しい音と共に雷を猪に向かわせて感電させた。煙は少し上がったが死んではいないし、気絶もしてない。大丈夫。てか丈夫だな。
暫くして、猪は落ち着いたようだ。少し呼吸が乱れてる。もう大丈夫かな?もう怒ってるようには見えないし。
近付きながら氷の魔法を解除すると、猪はぺたんと座った。
よくよく見ると、猪は傷だらけだ。多分私と出会う前から怪我していたのだろう。
「大丈夫?ごめんね、魔法使っちゃって」
「……非はこちらにある。謝らずとも良い」
「……!?喋った!?」
思わず後ずさるが、猪は何もしてこなかった。というか、この世界って動物も喋るのか?と首を傾げると、猪がフシュウ、と鼻息を荒くした。
「我はこの森の主。喋れるのは我のような主と名乗る者だけだ」
「そ、そうなんだ」
シュール。動物と話してる私達ってとてもシュールだと思うんだが。しかし会話は続ける。
「そういえば、どうしてあんなに怒っていたの?」
「……忘れた」
「わ、忘れた?」
「我は怒るとその原因の記憶が吹き飛ぶのがしょっちゅうなのでな。憶えておらぬ」
「は、はぁ」
と、呆気に取られていると、足にしがみ付いていた黒い生き物(これも猫で良いか)が漸く離した。
ひょいっと抱き上げたが、首を傾げた。翼が無くなっている。まあいいか。
というかこれが原因で私は巻き込まれたのだ。ぷるぷると震えてはいたが、猪に猫を見せて告げた。
「……いや、こやつが原因というわけではない」
フシュウとまた鼻息を荒くする。じゃあ何が原因かと聞いたが、どうやらここ最近の記憶がないそうだ。この様子じゃ思い出すのはダメだな。
そういえば、この猪怪我してたんだった。回復魔法は使ったことはないが試してみるか。
『ヒール』
手を前に出して言葉を紡いだ瞬間、猪にあった全ての傷が消えた。これで良し。ヒール便利。全ての組織を再生する、と考えただけで治るとは。
「……これは驚いた。其方回復魔法が使えるのか」
「え、珍しいことなの?」
「珍しいかといえば珍しいことだ。そもそも特定の魔法属性を3つ持っていないと出来る事ではない。それに属性を3つも持つことも珍しいことだ」
驚いた。この猪の口振りだと、魔法属性3つも持つ者はあまりいないらしい。
何とも人間じみた猪。主って知識とか豊富なのか?
というか私、6つも属性持ってるんですが。ヤバいのかなこれ。
と考えてると、猪が体を起こして立った。
「回復魔法までさせてすまぬな。世話になった」
「あぁ、良いのよ別に。あんまり記憶無くさないようにね」
「礼をしたいのだが……」
「しなくてもいいわよ、成り行きだし」
「しかしこちらの気も済まぬ。何か願いはないか」
「えぇ?そうねぇ」
う~ん、と頭を悩ませる。正直礼とかしなくても良いんだけど、有耶無耶にしたら気にしそうだ。願い……願いねぇ……あ。
「じゃあ、この世界のことを教えてくれる?」
「……そんなもので良いのか?」
「えぇ、私異世界から来たからこの世界の事分からないのよね」
さらっと暴露。まあ人間相手にはこの話はあまりしない方が良いだろうなー。すると猪の目が驚いたように見開いた。
「成程、だからこの世界の常識も知らなかったのか」
「そう。だから、教えてくれる?それだけで良いわ」
「……よかろう」
猪はそう言うと、森の方へズシンズシンと歩く。それに付いていく私。どこまで行くのかなーと歩いていると、猪は立ち止まって腰を下ろした。
「そこの石に座るが良い」
「あ、これ」
猪の目の前には座るのに丁度良い大きな石。どうやらここで教鞭を取るようだ。そういえば猫も一緒に連れてきてしまった。
下ろしたが、何処にも行く様子はない。どころか、目をきゅるんとさせながら私の方をじーっと見てた。可愛い。この猫も喋ったりするのかな、と考えていると猪が喋り出した。
そうして、少し長い話が始まった。
主人公のキャラブレブレです(白目)