木更津吉斗の怠惰な日常
これまでBLや王道について色々述べてきたが、結局のところBLはファンタジーに過ぎないと俺は思う。
山奥の金持ち全寮制男子校、いわゆる王道学園だが、本当に存在するかと聞かれたら答えに詰まる。
他にも、『世間を騒がしている怪盗と刑事の禁断の恋物語』や『社長と秘書の恋愛話』など、BLだけに関わらず、数多ある恋愛小説の殆どがファンタジーに過ぎないのだ。
『転生』『チート』『異世界』など常識を逸脱した話は基より、我々にとって、二次元の全てがファンタジーと言っても過言はないだろう。
しかし絶対にあり得ないか、と聞かれるとこれは否だろう。
俺はそれを知っている。何故ならば、その全てを知覚しているからだ。
チャラ男風紀副委員長と言われる宇佐岐茶基。
不良風紀委員長扱いされている月詠千歳。
超理師の称号をもつ亜門土夏。
腐男子会計の猫知恵八白。
彼等は全員、俺の職場であるこの十三夜学園カウンセリングルームの常連である。
ラビは未来が読めるが故のいわゆる『強くてニューゲーム』をどうにかしたい、と。
千歳は嘘が臭うが故の呼吸困難や精神的苦痛の軽減に。
夏さんは超越した味覚が故の超味覚障害をどうにかしたい、と。
八白はサイコメトラー故の脳への過剰な情報量の苦痛の軽減に。
……俺にどうしろと?
超能力も一種の才能だ。それぞれに目覚めたオーバースペックは俺にもどうしようもない。「天才故の苦悩」というやつだ。いや、この場合は「天災故の苦悩」の方か?
俺はしがないカウンセラーだ。確かに学園内での悩みや相談事は生徒会か風紀委員会に、生徒に相談できない事は俺に、だろうけどな。そんなプライベートなこと相談されても俺が困る。
一応話は聞くぞ?お茶やお茶うけも出すぞ?だがそれ以外にどうしろというんだ。
『先生の未来はぁ、何故か視えないんだよなぁ』
『先生からは何も臭わないんだ』
『吉斗だけなんだよな、私の料理に「美味い」って言ったことないの』
『先生、何で触っても読めないんだろう』
……何て聴こえない。聞こえないったら聞こえない。何故なら口に出してないから。
俺は木更津 吉斗。ただ他人の心の声が聴こえるだけのしがないカウンセラーだ。そんな俺にそんなハードで真剣な悩みを持ってくるな。俺はのんべんだらりと過ごしたいんだ。カウンセリングルーム過ごしやすいんだからな。ただ居座るだけで給料が入るんだぞ?こんな仕事は他にない。
ちなみに我が十三夜学園は全寮制だが男子校ではなく共学だ。なのに同姓愛が蔓延っている。ホモゲイ薔薇百合エトセトラ。腐女子に腐男子も大勢いる。何故なんだ。お前らそんなに青春を棄てたいのか?性春の方がいいのか?
……ちなみに教職員も例外ではない。俺は文字どおり危機に直面している。主に後ろの。
はあ、転校したい。でも給料バカ高いんだよな、ここ。
――そんな俺だが、来春入学式から始まる波乱に満ちた学園生活をまだ知らなかった。知っていたら絶対に転校していたのに。




