月詠千歳の微王道的展開
さて、引き続き王道展開の説明だ。
まず転校してきた少年――仮にXとしよう――は、校門の前で副会長に会う。ニッコリと擬音がつきそうな位の笑顔なのだが、実はその表情はただのガードなのだ。
人は笑顔に弱い。それこそ笑顔で自分の気持ちを偽る人も多いだろう。副会長はまさにそうだ。学園中の皆からは「笑った顔が素敵」などと言われるが、その笑顔は本人にとっては偽物の表情でしかないのだ。
しかしそんなある日に転校してきたXに、
「そんな顔すんなよ!似合わないぞ!」
と言われたらどうだろうか。
今まで誰一人として気付いてくれなかった自分に、初めて気付いてくれた、と考えても不思議はないだろう。……まあ、本当に学園中の全員が彼の偽物の表情に気付いていなかったか、と聞かれたら答えは不明だ。
さて、副会長を落としたら次は同室者だ。
理事長への挨拶もすませ、もらったカードキーで寮の自室に。そこで出逢うのは――学園内きっての一匹狼と言われる不良。
自分からは決して喧嘩を売らないが、買った喧嘩の勝率は百パーセント。大概染めた髪やその強さから二つ名をつけられていることが多い。……数十年後には黒歴史になっているだろうが、な。
不良はいきなり現れた同室者のXに殴りかかる――が、あっさり避けられ、逆に自分が殴られる。そこで初めて自分が負け、自分を倒したXになつく……のだ。要約すると、殴られる→なつく、だ。……ヤバイ。要約しなきゃよかった。気持ち悪い。
気をとり直して転校初日。職員室に自分のクラスの担任を探しに来たら、そこにいたのはホストに見える大人のフェロモンがムンムンの美形。どうやら彼が自分の担任だ、と気付いたXは、
「お前かっこいいな!俺、X!なあなあ、名前は!?」
と元気に自己紹介する。初めて会った人種に戸惑う教師だが、やがてXが純粋無垢な少年と知り守ってあげたくなる……そうだ。
あらためて簡潔に述べると、Xはイケメンホイホイである。
そんなXだが、生徒会の役員たちと仲良くなるにつれて、気分が悪くなるのが『風紀委員会』だ。
生徒会が学園の頂点だとしたら、風紀は学園の支配者だ。表立って学園を改革する生徒会に対し、学園内での厄介事を処理する役職。それが風紀委員会である。
生徒会と対立するだけあって風紀委員会にも美形が多い。風紀委員長は、ワイルドフェロモン系の美形だ。腕っぷしも強く、多対一でも相手を捩じ伏せる力量がなければ務まらない。
そんな知り合いの紹介だ。月詠 千歳という。
身長二メートル〇六センチという巨漢で、髪をオールバックにした美形。耳元から覗くピアスが野生的な雰囲気を醸し出し、近付く事すらためらう見た目をした男、それが千歳だ。
基本無口な彼だが、そんな見た目が役立つのが取り調べだ。……こう書くと刑事っぽいな。見た目はヤのつく自由業か、はたまた裏社会に両足どっぷり突っ込んでいる顔だが。
その見た目から、彼と一対一になって自白しなかった者はいないそうだ。言い訳してみたが、
「そうか……で?」
と繰り返されて心が折られた、と知り合いが嘆いていた。まあアイツの場合関係ないものを持ってくるからたまにある持ち物検査で悲惨な目にあうんだ。
どんなに嘘をついても彼の前には無意味だ。その理由を彼は「臭うから」だと言っていた。刑事のカンみたいで格好いいが凄くダサい。
……まあ実際に千歳には嘘が臭うらしいが。
月詠千歳の鼻はおかしいのだ。彼には嘘が「臭い」として残る。
風紀委員長にふさわしい鼻だな。現在の所、嘘発見率百パーセントを誇っている。




