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村にて①

 体中が痒い。

 蚊にでも刺されたのだろう、体で痒くないところが答えられないほど酷い痒さだ。

 あぁクソ。世界中の虫という虫は滅んでしまえばいい。そんなことをしたら絹が作れなくなるが構いはしない。どうせ俺に着る機会なんてないんだし、貴族の奴らも困るだろうし万々歳だ。でも蝶が見れなくなるのは寂しいものだな……

「というかここはどこだ」痒さに耐えかねてついに目を開ける。眼前にはまるで落ちてしまうと錯覚するほど雲一つない蒼穹が

「ん?」なんで俺は外で寝ているんだ? 体を起こして回りを見回す。視界の青空が半分消えて、代わりに緑色が目に入る。どうやらここは草原らしい、昼寝でもしていたのだろうか。

 いや、昼寝にしては太陽の位置が低い。今は朝だろう、気温も若干低く草には朝露が少し残っている。

 じゃあなんで俺はこんなところで? こんな所でテントも張らずに一人で野宿と言うのは自殺行為としか思えない。ただでさえ一人旅は危険と言うのに……

「とりあえず、人を探すか」人間一人でいると独り言が増えるみたいだ、とくに異常事態だと自分自身を落ち着かせるために。

 小高い丘に登り辺りを見回す。北は山がちで麓に集落もあるだろうが遠すぎる。西には森がある。南の川の向こう岸には村があるが船がないと無理そうだ。そして東には平原と丘陵が続いている。

「? あれは……」視界の隅に煙が立ち上っている。東側、そう遠くない丘の裏からだ。

「とりあえず、そこに向かうか」火事のあった家は災難だっただろうがお蔭で人にありつける。



 父によく怒られてた私は、地獄がどんなものかをその度聞かされた。曰く、

 炎にその身を焼かれ

 体を引き裂かれ

 目は抉られ

 耳は千切られ

 口は縫われ

 骨は砕かれ

 舌は抜かれ

 皮膚は切り刻まれる。

 死ぬことは許されず、眠れず、気絶することすらできない。

 叱られる度そんなことを言われ、幼少の私はしょっちゅう泣いていた。その度に母が現れ私を包み込むように抱きしめてくれたのを覚えている。

 それで、この惨状はなんだ。

 まるで地獄そのものじゃないか。

 昨日まで笑いあった友は腕を縛られ馬に引きずられ体中ボロボロだ。

 よく食材を分け合ったおばさんはゴブリンの使う棍棒で足がぐしゃぐしゃになっている。

 一人の青年が果敢にも立ち向かおうとするがこの村には碌な武器はなく多勢に無勢。囲まれて袋叩きにあっている。

 多くの家には火が放たれ、轟々と燃えている。

 それほどの地獄絵図であるのに誰一人として死んでない。ゴブリンやオーク共はこちらが叫び苦しむのを聴いては笑い、私達をもてあそぶ。

 死ぬことを許されず苦しみは続いていく、聖職者が教えを説くわけだ。こんなとこには行きたくない。

 私はおそらく天国に行くだろうがそれまでが地獄だ、ならいっそここで自ら命を絶ってしまおうか。

 扉が壊される前に。火を点けられる前に。

 食器棚を私は半ば茫然としながらナイフを探す。切れ味は足りないが死ねないことはないだろう。

 遺書でも書こうかと思ったが扉を叩く音が強くなっていたからやめた。

 ……思えば短くも良い人生だった。私は外が騒がしいのにも関わらずとても穏やかな気分になっていた。

 後から来る皆にどんな言葉をかけてあげようか? まぁ、死んでから考えればいいだろう。私は喉にナイフを


 ドガッ!!


 わたしのすぐうしろで、とびらがこわされた。

 

 ひた ひた 


 ないふさせない、からだ、うまくうごかない。

 こわい……こわいよ……

 たすけて……お父さん……おかあさん……



 十数分前


「これはどんな状況だ?」

 村の様子は一言で凄惨そのものだった。いたる所から煙があがり血の跡が点々と見られる。

「あれは……ゴブリンか」村の正門側に馬が数匹見える。馬に掛けられてる装備からみて盗賊だろう。村狙いの盗賊なんて珍しいものではない。

 加えてゴブリン達のほとんど血の気が多い、村人は助からないだろう。

「嫌ぁ! 放してぇ!!」少女が馬に引きずられてるのが見える。破けた服の隙間から見える肌は真っ赤に裂けている、どうやらこの村の少女のようだ。

「うぅむ、どうも困った」可愛そうだが正直な所この村の面倒事には巻き込まれたくない。こんなひらけた場所で馬に乗ってる奴相手に挑むのは無謀もいい所だし、俺はこの村の者ではない。俺一人で助けに行ける保障もまずない。

 村を見下ろすと火の点いてない家もある。

 ……まぁ、救える人だけ選んで救ってもバチは当たらんだろう。


 村の丘に面している方からこっそりと侵入することには成功した。ちょうど目の前にはまだ無事な民家がる、が

「うーん……これは行くべきか?」家の扉の前には一体のゴブリン。手には棍棒。もしかしなくても家の中に入ろうとしているようだ。

 ――流石にこれは見捨てるワケにはいかないよな――

 すぐ傍に落ちていた斧を手に持ち隙を伺う。

 

 ドガッ!!


 扉が壊された。

 ――――今だっ!!

 ゴブリンに向けて一目散に駆ける、もうゴブリンは家に入っている。

 だから隙だらけだ 

「ふんっ!!」グシャア、と背中に斧が突き刺さる。体中に血が飛び散る。

 声も上げずに倒れてくれて助かった、余計な声を上げられていたら俺の身が危なかった。

 念の為にゴブリンに止めを刺しておき、中にいた少女に声をかける。

「おーい、大丈夫かー」

「……」

「おーい。ありゃ、気ぃ失ってるよ」まぁ、仕方ないか。すぐ後ろに死の危険が迫ってる中正気を保ってろってのが無理ってもんだ。

「とりあえず、どこか安全な場所に」


 ギィィィィィイイイイイイイイ!!!!!!


 全身の毛穴が開いて冷や汗が体中を湿らせる。

 ――しまった! 背中に気を配るのを忘れていた。

 あと数分で仲間がやってくるだろう、その前にアイツだけでも仕留められるか!?

 振り向きざまに斧を引き抜き家屋を飛び出す。相手方はもう迎撃準備ができているようだ、さっきから目を離してくれない。

 ――手に持ってるあれはメイスか……さっきのゴブリンもメイスが武器だったな――

 ――短めに作られてようだから距離をとれば避けられるか?――

 数瞬の思考の間にも敵はもう目と鼻の先だ。

 ゴブリンはメイスを大上段に鎌てて俺の頭目掛けて振りかぶる。

 ――錬度自体は低いらしいな――

 一歩下がってメイスをかわす。

 単純な動き、短い射程、それに加えてただ力任せに振っているから動きを読むのは簡単だった。

 相手のメイスを踏みつけ、斧を頭蓋に叩きつける。

 これで二匹……一匹づつならそれほど強くないが相手は馬の数から考えて最大18。

 全ての馬に二匹づつ乗ってくるのは流石にありえないが多く見積もっておいて損はないだろう。

 それより問題はここに何匹来るかだ。

 二、三匹なら問題ないが四匹以上になるとキツイぞ……

 とりあえず、さっきの家に戻って様子を見るか。


 

 私はどうなったのだろう……

 ここはどこだろう……?

 天国にしては暗い……

 地獄にしては安らかだ……

 ならここは……?


 どうやら私は床に寝ていたらしい。

 体を起こして目を凝らすと、どうやら私はまだ自分の家にいるらしい。


「気が付いたか。怪我はないか?」後ろから声が聞こえる。きっと彼が助けてくれたのだろう。

「あ、ありがとうございま」裸だ

 すっぽんぽんで筋肉で全裸で日光に照らされて裸体で窓のまえですっぱだかで



「はだかだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!?」

 


「わっちょっと黙れ」とか聞こえるけど気にしない


 お父さん、やはりここは地獄でした……

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