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そんなフラグはへし折ってしまえ  作者: 耀
死亡フラグ
2/7

02


「――メディア!」


金属音がする。すぐ近くで敵兵の剣を交わして突き刺したマークの姿が見えた。

此方も余り他に視線を配っている暇は無く、これで最後なのだからと力も魔力も惜しむことなく戦闘につぎ込む。片手に魔法を発動しながら片手の剣で剣や矢を防ぐ。

視界の端に、後方部隊の方へと走り抜けていく敵兵の姿が見えた。少し行った後方には、でかい魔法を使うために準備をしている魔法兵が居る。――魔法発動までは後、五分。

此処で彼らを逃したら明らかに作戦は失敗になる。数は此方の方が押しているのに二年間引かなかっただけある。敵兵は強い。

――どうするべきか。慌てて魔力を腕に溜めるがこの短時間じゃ後方へと走っていった敵兵をしとめる事は出来ないだろう。敵を斬り付けながら迷っていたら、マークが意を決したように此方へと駆けつけてくる。


「――此処は、俺に任せて行け!」


吃驚して、メディアはマークを凝視した。魔法を発動する為に溜めていた魔力が思わず分散する。魔法発動条件の集中すること、が欠けてしまったようだ。

その隙を狙おうとばかりに攻撃を仕掛けてきた敵兵を返り討ちにしながら、思わず感情が爆発する。

先日といい、今といい。この男は――っ!


「貴様が行って来い!!」


敵を斬り付けた反動を駆使して、思いっきりマークの背中を後方へと蹴りつける。「え」と間抜けな声が妙に耳に残った。



「――死亡フラグを何回どころか何重に立てられて溜まるか!!」


序に、近くで戦っていた部下へと数人マークと共に敵兵を追いかけるよう命じながら。

――これでフラグを回避できた、だなんて思ったら甘いんだろうなあ。

と小さく胸の中で呟いた。早く戦終わっちまえ。









最後の戦は、少々長引いた。

だが兵の数的にも、補給の残りを考えても十分我らの国の勝利は確信していた。

かといってだらだらと続く消耗戦は此方の王も、敵国の王も本意ではない。かの王も愚王ではない。決定的な"負け"が決まれば敵国はすぐに降伏するだろう。

ならば、徹底的な負けを認めさせるにはどうするべきか。


――結果的に、作戦は敵の補給部隊を狙う事になった。

密偵を送り出し、補給部隊の場所を探る。地図からその位置を照らし合せて後方の魔術部隊が其処を精密に狙う。

狙っているぞと悟られないように、各突撃部隊は三つに別れ敵の部隊への陽動を行う。密偵によると敵兵は各隊ごとに指定のポイントで警戒をしているようで、そのまま敵兵の戦力を分散したまま確実に作戦を遂行できるように、ということで三つに分けた。

魔術部隊が居ないことを悟られないよう、主力が居ると思われる場所には接近を得意とし、魔法も使える人間を中心にした。

その結果、メディアと将軍職に就く上官を中心に固められ其処にはマークとメディアの部下も加えられた。



だが、敵に作戦を悟られたらしい。

順調に進んでいたと思われる作戦は、少しずつ此方の部隊が押されるようになってきた。

あちらも補給部隊が潰されたら終わりだと分かっているのか、出来るだけ此方には目もくれず後方部隊へ向かって一直線に進むようになったのだ。その結果、部隊を三つに分けたのが裏目と出てきて、今は後方に魔術部隊が居るメディア達の部隊に一番負担がかかってくる結果となった。


「後何分だっ!」

思い切り敵兵を斬り捨てて、剣についた血を振り払いながら片手の魔法を相手にぶつける。

「失敗していなければ、後三分だ!」

近くに居た将軍が声を上げる。後三分。後方部隊を仕留めに行くように言ったマーク達は大丈夫だろうか。妙に不安が残る。

これさえ終われば、勝ちなのだ。――そう、勝てる。

幸いながら怪我は殆どない。肉を絶つ事に少々疲れた腕に力を込めて目の前の敵さえ逃さなければと唇を噛む。



――刹那、馬に乗って素晴らしいスピードで駆けてくる敵兵が居た。


それを早めに発見できたのは幸いだったのだろう。馬の勢いに薙ぎ倒された味方兵を案じながら瞬時に魔力を込める。この馬を此処で止められなければこの勢いだと、後方部隊まで行ってしまうだろう。

ぐ、と腹に力を超めて、手にこめた魔法を敵兵に向かって放つ。

狙うのは馬だ。馬さえ止めれば、良い。敵兵は自分の手で止める。

魔法が直撃したのか、馬は駆けてきた勢いのまま思い切り崩れ落ちる。それに驚くこともなく、敵兵は地面にぶつかる前に緋色の髪を揺らして軽やかに跳んだ。


――最後の最後で実力のある兵士が来たらしい。


メディアは舌打ちをしながら剣を構えた。

敵兵も剣を構え、真っ直ぐにメディアに向かって走ってきた。

一撃を剣で受ける。――ひどく重い一撃だ。腕が一瞬痺れて、顔を顰めながらメディアはそれを薙ぎ払う。

男女の差が出るのだろう。メディアより身長も高く、体格も平均男性よりは断然良い。まともに攻撃を受けていたらすぐに負けるだろう。後ろに跳んだ後で、魔力を溜める。


さっき、後三分だった。

なら今は後何分だ?

――いや、作戦が成功しても目の前の兵が引くとも限らない。どうしたものかと迷って。一番良いのは確実に首を取ることだろうと確信する。


だが、メディアにそれが出来るか?

これが万全な状態なら出来たかもしれなかった。――が、今の彼女にそれが出来るかどうかは賭けだった。ならばどうするか。

兵の剣を意識して上手く受け流す。まともに食らわないように意識を研ぎ澄まして、後何分とかくだらないことを考えないように集中する。後、後なんて考えていたらその瞬間にうっかり殺されそうだ。

「――やるな!」

相手が吼える。そんなこと言い合える余裕は全く無いのでメディアは僅かに口端を吊り上げるまでに留めた。だが相手にはそれでも十分余裕に見えたのだろう。小さく笑った相手の兵は剣を握りなおした。



――どう考えても、一般兵の強さじゃないよなあ。

元々灰の色をしていた筈の鎧は赤く黒ずんでいる。それは多分本人の血ではなく全て返り血で出来ている筈だ、とメディアは推測する。赤く染まる鎧。緋色の靡く長い髪。

まるで――


「……将軍とお見受けする!」


まるで、敵国の将軍の容姿じゃないか。

自嘲気味に笑えば相手の兵はそっと肯定をして――


「――貴様も、名のある兵と見た。我が名はグランベル国将軍!ヴィオラ=クライス!」


名乗り上げろ、ということらしい。メディアはごくり、と唾を飲み込んで将軍と名乗った男の目をしっかりと見つめる。名乗り上げることに抵抗は無いのだが、将軍と名乗った目の前の彼ほど素晴らしい肩書きは持っていないのが何ともいえない。――けれど、痺れてきた腕を密かに庇いながら小さな時間稼ぎだな、と心の中で苦笑しながら口を開いた。


「メディア=リーン。突撃部隊、隊長だ」





その瞬間、何処か遠くから大きな破裂音がその場に響いた。












「……なん、だ」


目の前の兵士が呆然としたように呟く。

メディアは唇を舐めた。どうやら成功したらしい。遠くから聞こえる、混乱したような声と視界に僅かに映る燃え上がる炎。補給部隊を潰すという魔術部隊の作戦は成功したらしく、辺りが騒がしくなる。敵兵が混乱しながら、補給部隊のほうへと向かっていく。こちらの兵は、ほっとしたように息をついていた。

――補給部隊を潰したら即効で撤退し、後方部隊と合流する段取りになっている。

乱れる息を整えて、将軍の方へと視線を向けて指示を仰ぐ。これで、終わるのだ。どくん、と心臓が跳ねた。

それを実感して、手が震えて。握っていた剣を持つ手を緩めて――



その時だ。目の前で、剣を交えていた敵兵が剣を構えて此方に向かってきたのは。



「っ!」

油断した。思わず変な体制で相手の剣を受け止めて、その衝撃で剣が手から離れる。――拾い上げようにも、剣はカランと音を立てて少し離れた場所へと落ちていった。


「このまま、何も出来ないまま終われるか!」


将軍だと名乗った目の前の男は目をぎらぎらと光らせてメディアの方へとその剣を構えた。背中を汗がつう、と流れていくのが分かって思わず頬が引きつるのを感じた。やはり――諦めないか。

その将軍の声に背を押されるように戦意を失っていた敵兵の目に光が宿る。これはやばいと、慌てて皆が獲物を握った。

メディアは視界の端に写る己の獲物を見た。取りに行くのを易々と許してくれるほど目の前の男は優しくないらしい。

地を蹴って、ものすごい血相で斬りかかってくるのをギリギリの場所でかわす。せめて剣の場所まで上手く移動できれば――



そんなことを、考えていたからだろう。


思いっきり地を蹴って、相手と距離をとろうとした。誤算があったのはその先に敵兵だか味方だか分からない死骸が倒れていたことだ。

「――しまったっ」

ずるり、と足が滑る。体勢を立て直そうにも、疲れがあった身体は上手く反応をしてくれない。

ずべ、と情けなくメディアはその場に尻餅を付いた。


――死亡フラグが立っていたのは私だっただろうか。


なんて、情けないことを考えて。逃すかとばかりに体勢を整えて、男が突っ込んで来ようとしてきた。

――万事休すかなあ。クツ、と喉の奥で笑って相手を見据えた時


「メディア!」


声と共に、突っ込んでくる見覚えのある姿が見えた。





「――なっ」


息が詰まる。見覚えのある姿――マークは真っ直ぐに、メディアの前に突っ込んできて背を向けた。両手を広げて、彼女を庇うように前を見据えて。

「シュリーに、よろしく」


小さく零れたマークの声に、メディアは真ん丸く目を見開いて。

マークは、迫りくる剣を最後に見てそっと目を閉じた。





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