素直に…
セイジへの気持ちの変化を認めないまま、私は2年生になった。
この学校はクラス替えがない。
私は新しい教室で、代わり映えのしないクラスメイト達を見ながら、ぼぉっと席に着いていた。
出席番号順の座席。
また、セイジの隣…。
『おっはよ〜』
ヒナに後ろから肩を叩かれる。
『おはよ』
振り向くと、ヒナは満面の笑みでカバンの中から何かを取り出した。
『見て見て』
『プリクラ?』
それは、ヒナと男の子、2人で写っているプリクラだった。
『まさか…?』
『春休みに彼氏出来ちゃいましたぁっっっ』
幸せそうな笑顔を見せながら、ヒナがそう叫ぶ。
『ズル〜い!』
『あはっ。美波も素直になれば、すぐ出来るよ』
『え?』
思わず聞き返すと、ヒナは私の隣の席を指差す。
『セイジくん。好きなんでしょぉ〜?』
『んなっ…!ないって、そんなの!ありえない!』
思い切り否定する。
確かに認めたくないだけで、私はセイジが好きなのかもしれない。
だけど、セイジは?
私のことどう思ってる?
友達。ならまだいい。
クラスメイト。でもまだ望みはあるかもしれない。
だけど嫌な奴。って思われてたら?
私はセイジへの恋心を認めた瞬間、失恋することになる。
だったら今のままでいい。
軽口叩き合える、今のままがいい。
……そんな事を思ってる時点で、セイジが好きだと認めてしまっているのかもしれないけど。
『セイジくんは絶対美波の事好きだと思うんだけどなぁ』
『それこそありえないっ!』
力一杯否定する。
『ほら、好きだからいじめちゃうとかあるじゃん』
ヒナのその言葉にますます激しく首を振る。
『そんな、小学生じゃないんだから……』
『でも美波は好きなんでしょ?素直に言ってみ?』
その時ちょうど1時間目の開始を告げるチャイムが鳴った。
ヒナの追求から逃げ出すように席に着く。
『おはよ、セイジくん』
どうやらセイジが教室に入ってきたらしい。
ヒナが声をかけるのが聞こえてきた。
『ん?あぁ…。…おはよ』
短くそう返してセイジが席に着く。
『……どうしたの?』
あまりにテンションの低いセイジに、思わず声をかけてしまった。
『何が?』
『元気…ないじゃん』
『そ?普通だよ』
そう言って机に突っ伏した。
具合悪いのかな?
そう思い、それ以上声をかけることをやめた。
そして、昼休み。
いつもなら真っ先に購買に駆けていくセイジが顔をあげる気配すら見せない。
『美波ッ、購買行こ』
いつものようにヒナが声をかけてくる。
『ん…』
セイジの事が気になって仕方ない。
『具合悪そうだね』
『え?私?』
購買に向かう途中、ヒナがそんな事を言ってきた。
『違うよ、セイジくん』
ヒナも気付いてたんだ…。
やっぱ具合悪いのかなぁ。
『うん。……あのさ…』
『コンビニでしょ?いいよ?』
分かってたよ。とでも言うようにヒナが優しく微笑み、玄関へ向かって歩きだした。
購買は、お世辞にも品揃えがいいとは言えない。
コンビニに着いた私は、真っ先にインスタントのお粥を手に取った。
それから、セイジがいつも飲んでるパックのコーヒー牛乳と、ペットボトルのお茶を取ってレジに向かう。
『美波、自分の分はいいの?』
『え?っあ、忘れてた』
慌てて自分の分を選び、再びレジに並ぶ。
『ったく…いくらセイジくんが心配だからって、ボケすぎっ』
『べっ…べつに心配なんか…っ』
『へぇ?じゃあそのお粥とコーヒー牛乳は誰の分?美波が嫌いなハズのお茶は?ねぇ、誰の?』
『………セイジ…です』
ヒナはニヤニヤしながら、からかうように聞いてくる。
私の答えを聞いて満足したようにニコッと笑うと、朝と同じ質問を投げ掛けてきた。
『セイジくんの事好き?』
『好きじゃない』
間髪入れずに否定すると、ヒナはわざとらしく大きなため息をついた。
『今なら素直に言ってくれると思ったのにィ』
『あはっ。私はいつも素直だよ?』
会計を済ませると、レジの脇にあるポットからお粥にお湯を注ぐ。
こぼさないように気を付けて持ちながら、学校に戻る。
教室には、さっきと同じままの体勢のセイジがいた。
『セイジ』
出来るだけ優しくセイジの体を揺すって起こす。
ただそれだけで、ドキドキしている自分がいた。
『ん…何?』
ダルそうに顔を上げたセイジの前にお粥を差し出す。
『何、コレ?』
『お粥』
『買ってきてくれたん?』
セイジが不思議そうに私を見上げる。
『き…去年、体育祭で足怪我した時買ってきてくれたから…お返し!!』
何となく恥ずかしくて、ぶっきらぼうにそう言う。
『ありがと』
セイジも照れ臭そうにそう言って、私の差し出したお粥を受け取った。
……怪我とか病気とかって、人を素直にさせる力があるのかな…?
無意識のうちにそんな事を考えていた。
『あと、コレ』
コーヒー牛乳とお茶を、セイジの机に置く。
『何で2コあんの?』
『ご飯とコーヒー牛乳は合わない気がしたから…』
そう言った瞬間、いつものようにセイジが笑った。
『そっか、マジサンキューな。美波』
不意打ちの笑顔。
反則だよ…。
顔が赤くなったのが自分でもわかる。
慌てて後ろを振り向いた。
『おい?』
『い…いつか恩返ししてよね』
『去年のお返しだって言わなかったか?お前』
セイジが笑いながらそう言ってくる。
それを背中で聞きながら、出来るだけ平常心を装って、廊下に出た。
後ろからヒナが着いてきているのがわかる。
『どうしたの、美波?』
『…私…セ…イジの事…す…好きかも…』
『…うん』
いつのまにか、私の気持ちはごまかしのきかないところまできてしまっていたらしい……。




