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体育祭

2学期が始まって1週間。

早くも体育祭の当日がやってきた。

B組には祭り好きが多いらしく、クラス全員が優勝をめざして一致団結していた。

……にも関わらず、そんなクラスの輪を乱す男が1人。

            『セイジっ!!』

『うぉッ!何?怖ぇ〜顔しちゃって。俺の出番まだだろ?』

            どうやら大分お気に入りらしい体育館脇のベンチで惰眠を貪るセイジを叩き起こす。

            『そーゆー問題じゃないの!!協調性ってモンないの!?』

『ない。体育祭なんてンなマジんなるもんじゃねぇだろ?』

            目を擦りながらサラッと言い返してくる。

そのあまりの言い草に、私の中で何かが切れた。

            『最ッ低!優勝できなかったらアンタのせいだからねッ!!馬鹿セイジ!』

『つぅかぁ。自分こそ協調性ありマス?』

            明らかに馬鹿にしたような口調で校庭の方を指差す。その先には必死で私を探しているヒナの姿があった。

            『美波ぃ〜。次美波のでる種目だよ〜!み〜な〜み〜!!!』

            その声にかぶるようにして、放送が流れてきた。

            《次は女子1500m走です。出場選手は……》

            『ほら、早く行け』

『この次はアンタの2000mだからねッ』

            そう言い残して、急いで集合場所に走る。

私の姿を見つけたヒナが慌てたように声をかけてきた。

            『美波ィ…。あのね、あのね!B組、今3位なのォ。あと、美波の1500mとセイジくんの2000mと男女混合リレーしか種目なくてねっ』

            口を挟むヒマもなくヒナがまくしたてる。

本格的にテンぱっているようだ。

            『で、もう優勝は無理なの?』

            委員会だ、練習だと、色々苦労した体育祭だ。

やっぱり優勝したい。

1番気になるところを聞いてみた。

ブルブルと思い切り左右に頭を振りながら、ヒナが私の手を握ってくる。

            『全部1着…』

            そして、頑張れ!と言うように私の背中を押した。

            全員がスタートラインに並び、パンッと言う銃声と共に走りだした。

1500m…。

1周200m程しかない狭い校庭を約8周。

思ったより調子よく走れた私は、1200mの地点で、2位を大分引き離していた。

クラスの声援が聞こえてくる。

あと少し…。

その時、不意に足がもつれ、私は派手にズッこけた。

急いで立ち上がり、軽く後ろを振り返ってみる。

さっきまであれだけあった差が、今の転倒でかなり縮まってしまっていた。

慌てて態勢を整え、再び走りだす。

            『っつ…』

            足が痛い。

膝を擦り剥いているとか、血がでてるとか、そんなのはまったく気にならなかった。

足首の強烈な痛みに、私はうずくまってしまった。

            『美波っ!?』

            応援席からヒナの心配そうな叫びが聞こえてくる。

負けたくない。

ただそう思って、熱を放ちはじめた足を無理矢理奮い立たせ、残り300mを必死で走った。

何とかトップでゴールに入り、その瞬間、その場に倒れこむ。

            『美波!大丈夫!?』

            すぐにヒナが駆け寄ってくる。

            『疲れたぁ』

            私は笑顔を作り、立ち上がった。

            『なんだぁ、怪我したかと思ったじゃん!』

『あはっ、膝擦り剥いただけ!セイジ呼んでくるね』

            私は最後の男女混合リレーの選手にもなっている。

ヒナに捻挫したことが知れたら出るなって言われるに決まっている。

ここまできたら、最後までやりたい。

絶対に優勝したい。

そう思い、逃げるようにして、セイジのいるベンチに向かった。

しかし、その場所にセイジはいない。

捜し回ろうにも足が痛くて立っていることすら辛い。

仕方なく私はベンチに腰を下ろした。

足を押さえていると、突然視界が暗くなった。

思わず顔をあげると、濡れたタオルを持ったセイジがいた。

            『足、捻ったんだろ?』

『なっ…』

『ヒョコヒョコ歩いてきやがって。バレバレだっつの』

            差し出されたタオルを有り難く受け取り、足に当てる。

ひんやりとして気持ちいい。

            『…あり…がと』

『ったく、救護班が怪我してりゃ世話ねぇな』

            いつもの調子でからかってくる。

普段なら言い返しているはずなのに、今の私は精神的に脆いらしい。

            『……っ…ひっ…く』

            突然泣きだした私の頭を、セイジが慰めるようにポンポンと叩く。

            『頑張ったな』

            そして、いつになく優しい声でそう言った。

            『リレーまで冷やしとけ。優勝すんだろ?』

            男女混合リレー。

出場選手は4人。

内2人は私とセイジ。

優勝するには残りの2種目全て1着。

            『セ…っジ…』

            体育祭にまったく興味を示さなかったセイジのその言葉に余計に涙が止まらなくなった。

            『とりあえず2000mだな。俺がゴールテープ切んのそっから見とけ』


            自信たっぷりにそう言って、セイジは校庭に向かっていった。

            セイジの口からでた優勝という言葉。

それ以上に、リレーに出たいと言う私の気持ちをわかっていてくれたことが嬉しかった。

ホントに出るのか?

とも、

出るな

とも言わなかった。

それが嬉しくて、さらに涙が溢れてきた。

            セイジは宣言どおり、ゴールテープを切った。

しかし、最後のリレー。

やはり私は、力を出し切ることが出来ず、2着という結果におわった。

            1年B組。

総合成績。

準優勝。

            『惜しかったね』

『来年は優勝だろ』

            体育祭がおわったあと、クラスの皆が口々に感想を洩らしあう。

私はそんなクラスメイトから離れ、あのベンチに座っていた。

            『…っ…うっ…く』

            私が怪我さえしなきゃ。

ちゃんと全力で走れてれば。

負けなかったかもしれないのに。

そう思うと、ただ悔しくてまた、泣いていた。

            『泣き虫』

            頭の上からセイジの声が聞こえる。

            『…うるさ…』

『………頑張ったな、美波』

            さっきと同じように、優しい声でそう言い、それから私が泣き止むまで黙って隣に座っていた。

            高1の体育祭。

天敵だったはずのセイジが、私の中で違う存在に変わった日だった。

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