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パートナー…

『美波たちってさ〜』

            夏休みを目前にしたある日の放課後、ヒナが呆れたような口調で話し掛けてきた。

            『“たち”って誰?』

『美波とセイジくん』

『あのねぇ…ヒナ…。まるでアイツとセットみたいに言うのやめてくれない?』

            私のその訴えはあっさりシカトされ、ヒナは話を続けた。

            『美波、他の人には普通に優しいのにさ、何でセイジくんにはあんな風なの?』

『セイジがつっかかってくるから!』

『セイジくんだって美波以外には優しいじゃん』

            確かにセイジはクラスの人、男女問わずウケがいい。私にはあんな奴のドコがいいのかわからない。

確かに明るくて、リーダーシップがあって、まぁ見ようによっては優しく映るかもしれない。

だけど私には、クソ意地悪くて、騒がしくて、ただのアホにしか見えない。

いいのは顔だけ!

            『ま、でも喧嘩するほど仲がいいって言うしね』

『仲が悪いから喧嘩してんのッ』

            その言葉はまたもシカトされ、ヒナは黒板に視線を移した。

            『頑張ってね、体育祭実行委員』

            語尾にハートマークでもつきそうな口調でそう言うとヒナはさっさと教室をでていった。

            黒板には

‘体育祭実行委員’

‘村松成実’

‘吉田美波’

‘本日委員会’

とある。

            信じられないことに私は、9月に行なわれる体育祭の実行委員に選ばれてしまったのだ。

しかもパートナーは天敵、村松成実。

今日ほど自分のクジ運の悪さを恨んだことはない。

            『セイジ!!ドコ行く気!?』

            黒板を見ながら切ない気分に浸っている私の目に、明らかに帰宅しようとしているセイジの姿が映った。

一瞬にして現実に引き戻され、セイジを呼び止める。

            『ドコ…って、帰んだよ』

『実行委員会!!』

            今日の委員会はたぶん、顔合わせ程度のものだから、セイジ1人帰っても、何ら問題はないと思う。

だからといって、初日からサボらせたらこの先、何だかんだと理由を付けて来ないに決まっている。

直観的にそう悟った私は、セイジの腕をひっぱり強制的に教室に引き戻した。

            『委員会とかかったりぃじゃん』

『かったるくてもやるの!私だってかったるいんだから!』

『あぁ、はいはい。ンなキレんなよ。ブサイクな顔がますますブサイクんなってるよ?美波チャン』

            人の神経を逆撫でするような口調に発言。

こんなやり取りを毎日間近で見て“仲がいい”と言うヒナの思考回路が不思議でならない。

            『はぁ…っ』

            大きなため息をついて、セイジを引きずりながら委員会の開かれる教室へむかった。

委員会が始まった瞬間、セイジはカバンを枕に眠りだした。

            『起きろッ』

            出来るだけ声をひそめながら、出来るだけ力一杯セイジの頭を殴る。

            『ってぇ…。何だよ』

『寝るなっつってんの』

『口で言えよ。暴力女』

            頭をさすりながら、恨めしそうな目で睨み付けてくる。

            『1年B組には、救護を担当してもらいます』

            セイジがやっと素直に前を向いたとき、実行委員長らしい3年生が淡々とした口調で言った。

どうやら私たちの戦いがおわるのを待っていたらしい。

それから各クラスの担当が発表され、やっと委員会が終了…と思ったら委員長がとんでもないコトを口にした。

            『夏休みが明けて、すぐに体育祭です。準備期間があまりに少なすぎるので、夏休みも何日か委員会を設けたいと思います』

            教室内から一斉にブーイングが巻き起こる。

そんなブーイングをまったく気にする事無く委員長は黒板に日程を書き出していった。

            『全員参加が原則ですが、どうしてもと言う場合は、クラスのどちらかで構いません』

            続くその言葉に、セイジがニヤリと笑ったのを私は見逃さなかった。

                                    そして夏休み。

4回あった委員会で、1度としてセイジの姿を見る日はなかった。

アイツの顔を見なくてすむというのは、この上なく最高なことだが、委員会で各クラスに出される仕事をすべて1人で請け負うのは、想像以上に大変だった。

            そんな苦労を知るはずもないセイジは新学期1日目からヘラヘラと勘に触る笑顔を見せてきた。

            『委員会どうだった?』

『………』

            当然のようにシカトする。

セイジは一瞬戸惑ったような表情を見せ、スグにいつものお軽い感じに戻った。

            『今日は行くから、ンなキレんなよ』

『…結構です』

            謝ってくるかな。

などと期待した私がバカだった。

            『そっか!んじゃよろしくな』

            罪悪感のカケラもない、満面の笑みでセイジはそう言った。

            『うん、来なくていいよ』

            私も笑顔でそう返す。

そして……

            『そのかわり!アンタは今日!クラスの皆を集めて出場種目決めときなさい!!』

            怒りを一気に爆発させて、セイジにそう告げ、委員会に出るため、教室を出た。わざと大きく音を立てながら扉を閉める。

            『恐ぇ』

            ピュッと口笛を吹きながらセイジがそう言ったのが聞こえた。

            30分後委員会を終え、教室に戻ると、窓の外を見ているヒナがいた。

            『あ、美波』

『待っててくれたの?』

『うん。暇だったし』

            そこまで話して、私は教室を見回した。

            『セイジは?』

『セイジくん?帰ったよ』

            まぁ、予想どおり。

アイツが頼んだことをしっかりやってくれるハズない。

            『で、これ。預かった』

            諦め気味の私の前に1枚の紙が差し出された。

            “体育祭出場種目”

            紙の始めには、書き殴ったようにそう書いてあった。

            『何、コレ』

『だから体育祭出場種目でしょ?』

『誰がやったの?』

『セイジくん』

            ヒナは当たり前のように答える。

            『もう1回言って?』

『だから、セイジくん。ね?悪い人じゃないでしょ?』

            悪い人に決まってる。

だって私はその何倍も仕事をしているんだから。

それぐらいで、‘いい人’なんて思えるわけがない。

だけど、なぜか私は笑っていた。

少し。

本当にほんの少し。

セイジを“悪い人”じゃないかもしれないと思ってしまった。

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