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天敵!!

今日から授業が始まる。

いつもより少し寝坊した私が教室に入ったのは、始業時間の1分前。

慌てて席に着こうとした私を、ヒナが呼び止める。

            『美波の隣の人…って』

『え?』

            そう言われてその席を見てみると、机に突っ伏して寝ている学ランを着た男の子…。

私の隣の席は確か、村松ナルミさん。

女の子のハズなのに…。

            『男の子じゃん』

『村松ナルミくん?てこと?』

            ヒナがそう口にした時、私たちの話が聞こえてしまったらしく、男の子がムクリと起き上がり、こっちを振り向いた。

            『俺、ナルミじゃなくてセイジっつーの』

            そう言った彼は、まぎれもなく、入学式、そして2日前に体育館脇のベンチで見た、あの男の子だった。

そして彼はヒナの席までくると、机のうえにあったヒナのシャーペンを手に取り、机に何かを書き出した。

            『これでセイジ』

            机には“成実”と書かれている。

確かにこれじゃ、担任がナルミと読み間違えたのもうなづける。

            『あの…ッ。村松くんって…』

『セイジでいいよ。何?初対面で愛の告白トカ?』

            おちゃらけた感じで村松成実が言う。


            『はぃ?』

『冗談冗談。で、何?』

『入学式の日、体育館のベンチにいた?』

            ヘラヘラ笑う目の前の男にそう尋ねてみる。

            『あぁ、いたよ?』

『来てたのに式、出なかったの?』

            あまりにサラッと答えた彼に、今度はヒナが問い掛ける。

            『面倒臭いじゃん?入学式トカ説明会トカ』

『………。それだけ?』

            本格的に呆れたような顔をしてヒナがつぶやくように言った。

            『体育館トコにあるベンチ、ポカポカして気持ち良いからさぁ。入学式とかどうでもよくなっちった』

            当の本人であるこの男は、相変わらず軽い口調で笑い飛ばしている。

その笑顔は純粋そのもので、不覚にもまた目を奪われてしまった。

            『あはっ、何それ〜!あ、私ね、比奈子!でこっちが美波』

            顔は確かに好み。

ストライクゾーンど真ん中だけど、この軽い性格は大嫌い。

だから、ヒナがセイジに私を紹介した時、自然と目を逸らしていた。

            『人に挨拶するときはちゃんと目を見て!だよ、美〜波ちゃん』

            その時、ちょうどチャイムが鳴り、先生が教室に入ってきた。

それをいいことに、私はその言葉を無視して自分の席に着いた。

            授業が始まってスグ、後ろの席のヒナから1枚の紙が渡された。

ノートの端を破いたらしいその紙には

            【どうしたの?セイジくんってこないだ美波がかっこいいって言ってた人だよね?】

            と書いてある。

私はその下に返事を書いて後ろ手にヒナの机のうえにおいた。

            【あーゆーお軽いタイプ苦手…】

            5分とかからず、ヒナから手紙が戻ってくる。

            【楽しそうな人じゃない?】

            さらに返事を書き込もうとしたとき、右頬に何かがあたったような感じがした。一瞬のことだったので気のせいかと思い、手紙に目を戻す。

その時、今度は右腕に同じ感じを覚える。

チラ、と右の方を見ると、消しゴムを細かく刻み、その破片を私に向かって飛ばしている男と目が合った。

            『何?』

『べぇっつに〜?』

            ニヤニヤしながらそう言い、また消しゴムを飛ばしてくる。

            『何なのアンタ……』

『アンタじゃなくて、セ・イ・ジ』

            小馬鹿にした口調で私の言葉を訂正する。

その発言に、私はわざとらしいぐらいの営業スマイルを作り、言い返した。

            『何かご用ですか?セイジくん』

『仕返し』

『何の?』

『さっきシカトされた』

            からかうようにそう言ってくる。

嫌いだと判断した人に愛想笑いをするほどの社交性なんか私は持ち合わせていない。

            『冷たいよなぁ』

            そう言いながらまた消しゴムを投げてきはじめた。

その行動に、私は筆箱からまだ新しい消しゴムを取り出し、それをそのまま、右側の男の顔めがけて投げ付けた。

            『っぶね…』

            そう言いながら、あっさりとその消しゴムをキャッチする。

            『お前なぁ…』

『お前じゃなくて、ミ・ナ・ミ』

            何か文句を言いたげなセイジの言葉を遮り、訂正した。

            この日から私とこの男は、“天敵”になった。


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