ベンチ
入学式を終えた次の日。
今日はまだ授業はなく、クラスの人たちの自己紹介や校内の説明、部活についての説明などを受けただけで終わりだった。
『今日もいなかったね。村松サンって人』
帰りのHRの時にヒナが声をかけてきた。
私の隣の席は未だ空いたままだった。
『風邪でもひいてるのかな?』
『う〜ん…。あ、それより美波、何か部活入る?』
突然ヒナが話題をかえてきた。
『部活かぁ…。帰宅部かな』
『えぇ〜!一緒にテニス部入ろうよ〜』
『運動は好きだけど、部活ってなるとなぁ…。』
『むゥ…』
ヒナはほっぺたを軽くふくらましてフテくされたような声をだす。
『じゃ、せめて入部届け出しに行くの付き合ってくれる?』
『それはいいけど…もう決めるの?』
『前からテニスやりたかったんだ!中学の時はテニス部なかったし』
そう言うと、さっき担任から配られた入部届けの紙にさっさと必要事項を記入していく。
さっそくテニス部の顧問のところに持っていこうと、教室をでた。
部室は体育館の裏。
私たちは昨日と同じ渡り廊下を通って部室へと向かう。
『あ…』
ベンチに、腕を枕代わりにして気持ち良さそうに眠っている男の子が見えた。
昨日の人…。
『ん?どしたの?』
思わず声がでた私を不思議そうにヒナが覗き込む。
『あ…ごめん、何でもない。』
『何?あの人?美波あーゆーのがタイプなの?』
ヒナが男の子を指差してからかうような目で聞いてくる。
顔が赤くなったのが自分でもわかる。
『あはっ、美波わかりやすすぎ!』
『えぇ〜?だってカッコよくない!?』
『カッコいいとは思うけどぉ…。私のタイプではないかな』
『むゥ…』
さっきのヒナを真似してほっぺたをふくらましてみる。
『美波かわい〜』
ヒナはケラケラ笑いながら、部室へと歩きだした。
無事入部届けを提出し、帰りの渡り廊下。
ついさっきまでそこで眠っていたはずの男の子がいなくなっていた。
『残念だったね』
『残念って…!あのね〜、私は顔が好みなだけで、別に好きとかじゃないんだけど?』
私のその言葉が聞こえているのかいないのか。
ヒナは突然難しい顔をしだした。
『でもさぁ、あんな人、入学式にいたっけ?』
『え?あの人、先輩でしょ?入学式の時もあそこのベンチにいたもん』
私の答えに、ヒナはますます難しい顔になった。
『2、3年は昨日は休みだよ?今は5限が始まってるし…』
『?どゆこと?』
『1年なんじゃないかな?あの人も』
ヒナのその考えが正しかったとわかるのは、それから2日後。
授業が開始される、その日だった。




