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第一条 到着の気配 4

 いたずらっぽい響きを含んだ声に、思わず無言で先を促した。

「金色の鏡のバッチを持つ四官の一人が実際に求刑から発動に至るまでの記録映像。見たくない?」

「みふぁい」

「すげえぞ。求刑は本院のシュラジニー検事。テロリストを白昼堂々、しかも人の行きかう中心街で高速捕捉したうえでまさかの「収束」発動だぜ? 重力系の魔法はめちゃめちゃ高度じゃん? 発動させた四官の一人ってものすごいけど、求刑したシュラジニー検事もすごい。訓練してる相棒っていうなら分からなくもないけど、面識すらないんだぜ?求刑の理由がさ「重力刑は一般の人が見ても一番わかりにくく平穏だから」だって。しかも「彼なら狂いなく発動できると確信していた」だってさ。失敗したら自分が危ないってのに。かっこいい」

 いつになく饒舌なレインに、少し後ろめたさを感じて視線をそらした。

 レインは優秀だ。いつかその検事のように語られる存在になるのではないだろうか。しかし、そのためにはきっと裁判官はシアではなく。

「でもさ、四官の一人っていうものアビリティチェックでは黄色ラインまでなんだって。シアって緑ラインだろ。先生も最上値を超える魔法力保持者って初めて見たって言ってたしさ。俺は天才だしさ。俺たちのタイミングが合ったら、鳥肌もののの裁判ができると思わない?」

「お前、ほんと、ごくごく当たり前のように自分のことを天才っていうよな」

「だってホントのことだもんよ」

 レインは大きなあくびをした。

「俺じゃ無理だろ。そりゃ、魔法力の容量は自信があるけど、コントロールできないし」

「へぇ、ほんとに弱気なんだ。めずらし」

 シアは何も返せなかった。

「じゃぁ、天才の俺様が何か方法を考えておいてやるよ。そのうちな。というわけで、そろそろ寝るわ」

 レインは傍らにあった本をカバンの上に置いた。

「明日は……そうだな、明るくなるころには出発したほうがいいだろうな」

 言いながらもレインは布でできた道具入れからマフタの葉を取り出すと口に放り込んだ。何度か噛んでから地面に吐き出す。口元をぬぐってから木の根をまくらに身体を横たえた。その眉が少しだけ寄せられたのは、持病の編頭痛の発作とやらだろうか。

「痛むのか?」

 シアの問いかけに緩慢に首を振るとレインは目を閉じた。二つほど年若い相棒は、こういったときに本音を隠す悪い癖があるのだ。

 色を無くした寝顔を確認してから自分の外套も身体にかけてやると、少しだけ身体の力が抜けたようだった。冷えたのかもしれない。

 こうして野宿をするのは今日で二晩目だった。

 旅慣れているうえに体力に自信のある自分とは違い、初めての野宿に疲れていても仕方がないだろう。

 シアは高等裁判所から送られてきたはじめての命令書を腰に付けた小さな入れ物から取り出すと、シアの近くを漂っていた光を手で引き寄せて内容を確認する。




「アンジェラ地区アバナ村における連続村人失踪事件について、精査ののち事態を改善せよ。なお、原因を確認した場合は本部神殿へ証拠または被疑者として報告し、持ち帰りまたは連行すべし。

 任務にあたっては器物破損、人体被害は言うに及ばす、村人の精神的平穏を壊すことを禁ず。

 法曹規定に基づき、任務は最長1ヶ月の乙号とし、杖は第3段階までの携帯を許可する」




 すでに寝息を立てているレインには何か違うことがわかるのかもしれないが、少なくともシアにはつかみどころのない任務としか思えなかった。

 失踪事件といわれてはいるが、失踪しているのは年頃の娘と少年たち。

 地方神殿の調べによれば、ほとんどの失踪者については「出奔」の可能性があるという。

 外に憧れを抱いた少年少女が村を飛び出したというあたりが実情なのではないだろうか。命令書の裏書には、失踪人数は二十人を超えるとされているが、神殿から上がってきた報告書には、ちょっとやんちゃな子供たちが十人に満たない数で村から姿を消しているという。

「不良少年少女に熱血指導でもしに行くってことか? これって行政の仕事じゃねぇの? 生活育成課とか、教育課あたりが得意そうじゃん。後は保安課の地域組とかさ。少なくとも法務課オレたちだと微妙じゃねぇか?」 つぶやいてから再び空を見上げた。

 星が中空に差し掛かる。

 真夜中に近いことを知って、シアはひとつあくびを漏らした。




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