第一条 到着の気配 3
シアは空を見上げた。
有り余る魔法力を活用するために魔法使いになり、法律の世界を目指してからは記憶力のなさと、体力への自信から裁判官の道を選んだ。それが間違いだったとは思わないが、こうして落ち込む時もある。
もう少し、この力をコントロール出来たら。
この世界の半分以上を占める帝国と、帝国の同盟国において、魔法使いは公務員であり、公務員は皆魔法使いだった。どちらが先だったのかはわからない。
資質のあるものは幼いころに学院と呼ばれる専門学校に入り、力の理論と実際の使い方を学んでいくことが多い。ふつうの学校教育を受けている最中で魔法力に目覚めた場合は、半数ほどはそのままの生活を送り、半数ほどが途中入学で魔法を学ぶのだ。シアはこのタイプだった。
学校を終えると地方公務員になる資格を与えられる。さらに専修過程に進んだものは試験を経て六等まで設定されている国家公務員になるのだ。専修過程で机を並べたレインとは、同じように二年間を過ごして任官された。
ちなみに法律職の資格は上から三番目。見習いのシアやレインはその一つ下の位を与えられている。
正式な身分は四等国家公務員。検事補のレインと裁判官補のシアだ。
任官二ヶ月目のほやほや法律家。
正直、これほどまでにコントロールが難しいとは思わなかった。特殊職であるがゆえに「求刑」と「発動」という二段階で行使する魔法力。自分一人ならタイミングや得意不得意を選択して魔法を使うことができる。使用する意志のない魔法を引きずり出される感覚や、自分と違うタイミングで発動を要求されるためにバランスを崩してしまうのだ。
きっとそれはレインも同じだろう。
思い描いている力を発揮できないレインもイライラしているに違いない。氷止などの空間固定系の魔法はレインの得意とするものだ。きっとレインだけで発動させれば、見事な氷の檻が出来上がるのだろう。
シアは知らず知らずため息をついていた。
「珍しく落ち込んでるな」
レインは小さく笑うと包をひとつ放って寄こした。
「……俺のは消し炭になったんじゃねぇのかよ」
「聡明な俺様は、裁判官殿のために練習材料を用意しておいてあげたわけ。食いものは粗末にしないように育ってるもんで」
「そりゃどうも」
レインは空になった包を手のひらの上で黄色の炎に変えた。すぐに燃え尽きる。
「んで。なに? コントロール不足に悩んでるわけ?」
「いや……」
シアが言い淀んでいると、レインは口の端を持ち上げた。
「言いたいことは何となくわかるけどな。でも法律家はこんなもんだろ。ばしばしやりたきゃ国防に行けよ」
「そういうわけじゃない。ただ……コツがつかめないだけだ」
シアはそういうと無理やり包の中身を口に詰め込んだ。咀嚼している間はレインの言葉に返答しなくて済む。
「あらま。んじゃ、帰ったら良いもん見せてやるよ」
らした。