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第一条 到着の気配 1

 山村に続く道は先の戦いにおいて疲弊し、賢帝と名高い当世バルバレイネ1世の力も未だ届かぬようであった。文献によればかつてはマーブル石の産地として世界中に名を知られていたこの地方では、細い山道ですらところどころに蓄光力の高い石でできた塚が旅人の導として存在していたらしい。

「すでに粉すらないけどな。シア、明かり強くして」

 レインは持っていた分厚い本のページをめくりながら、顔も上げずにそう言った。

 黒髪に青い瞳が強さを増した青白い光に浮かび上がる。

 少年と青年の間というのだろうか、未だ線の細い体を木の幹に預けて根に腰を降ろし、少しばかり神経質そうな眉を寄せて一心に文字を追っている。

 大きな箱型のカバンに座って、真剣な表情で中空を見上げながらぶつぶつと何かをつぶやいているのは、赤茶の髪をした青年だった。

 両手に肘から手先程の長さのある杖を持ち、あれこれと振りながら光源である白い球体の形を変えようと格闘している。

「そんなでかくしなくていいってば。ブレるだろ。もっとこう……」

「うるせえな。本、読めてんだから良いだろうが」

「光がちらつくと目が痛いんだよ。もっと小さくして、濃度を上げろよ」

 シアと呼ばれた青年は、ぐぐっと唸りながら額に筋を浮かべた。

「濃度って言ってもな……こうか?」

 光の球は輪郭を震わせながら小さくなっていく。

「ええと……力任せに丸めろって言った覚えはないんだけど……おい」

 レインがぱっと上体を伏せた。

 次の瞬間、ひときわ大きく光の球が震えた後、そこからは四方八方に小さな火花が飛び散った。

「おっ、おお」

 自分の作った火花に完成を上げたシアは、次いでバツの悪そうな笑みを浮かべる。

「花火作れって誰が言ったよ。まったく」

 火花がかからない場所まで移動したレインは、細いペンのようなものを取り出すと手早く空中に何かを書きつけた。軌跡はうっすらと金色の光を帯びて網となり、火花を散らす光源を包み込む。

 それまであちこちにとげを出しながらうごめいていた白い塊は、しばらくすると楕円形の手のひらに載るほどの滑らかな物体に姿を変える。

 震えることもちらつくこともない。

「エネルギーは満タンだからよしとするか」

 レインは一人で納得すると、何事もなかったかのように再び本を開く。

「頑張って訓練しろよ、新米裁判官殿」

 にやりとアルトが笑うと、シアはわざとらしく顔をしかめた。

「お前も求刑レベルを間違うなよ、新米検事サマ」


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