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ネトゲの親友に性癖をぶちまけてたら、オフ会に来たのがクラスの美少女︎︎だった  作者: こうと


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第61話 夏祭り前夜

 今週は期末テスト。


これを乗り越えれば、待望の夏休みがやってくる。そして、その入り口である土曜日には、俺と凛にとっての「決戦」――夏祭りが控えていた。


「……。海斗、そこ公式が逆だ。符号がプラスになってるぞ」


「うぎゃあああ!? ……一真、お前いつからそんなに数学得意になったんだよ……。あ、分かった。……。東雲さんのマンツーマン指導の成果か。……爆発しろ、マジで今すぐ目の前でビッグバンを起こせ」


 昼休みの自習時間。海斗が恨めしそうに俺を睨みつけてくる。


「……。そんなんじゃないって。……。赤点を取って補習になったら、土曜日に予定が入れられないだろ。……。だから、必死なだけだ」


 俺は、ポーカーフェイスを崩さずにペンを動かした。

 視界の右前方。

 東雲凛は、真面目にノートを広げていた。

 いつも通り、非の打ち所がない「学園の天使」の背中。

けれど、俺の脳裏には、数日前にビデオ通話で見た、大きめのTシャツ姿で「どの浴衣がいい?」と無邪気に笑っていた彼女の残像が、強烈に焼き付いていた。


「――にひひ! カズッチくん、集中してるねぇ!」


 不意に、背後から一ノ瀬さんの明るい声。

 海斗が「あ、咲希! 今日も一段と――」と叫ぶのを、彼女は「海斗、そこ間違ってるよ!」とノートのミスを指差して黙らせると、俺の机に身を乗り出してきた。


海斗は「まだ間違えあんのかよ……」と少し絶望していた。そしてトイレ行ってくる!と現実逃避を始めた。

……まぁ話を聞かれないしちょうどいいか。


「ねえねえ。……金曜日までテスト、頑張ろうね? ……。土曜日のためにさ」


 海斗がどこかへ行くのを待っていたかのように、耳元で囁かれる小声。一ノ瀬さんの瞳には、すべてを理解した上での「応援」と、ほんの少しの「悪戯心」が宿っている。


「……一ノ瀬さん。……声がデカい。……分かってるよ」


「にひひ! カズッチくんがそんなに気合入ってるなら、凛りんも安心だね。……あ、そうだ。凛りん、さっきから一分に一回はカズッチくんの方を振り返ろうとして、必死に耐えてるんだよ? ……あんなにソワソワしてる凛りん、咲希も初めて見たかも!」


「…………っ!!」


 俺が思わず前方を見ると、東雲さんの背中がビクッと跳ねた。

 彼女は振り返ることこそしなかったが、さらさらとした黒髪の隙間から覗く耳たぶが、みるみるうちに赤くなっていくのがここからでもはっきりと分かった。


「……。一ノ瀬さん。……。お前、本当に楽しんでるな」


「当然でしょ! だってカズっちくんがあんなに熱い想いを私にぶつけてくれたんだから、私としては応えない訳には行かないじゃん?」


「ボリュームを落とせ、誤解を生むだろ」


「にひひ!!」


本当に楽しそうだな、この人。

まぁ節度を持って楽しんでくるならそれで良いが。

すると一ノ瀬さんは俺の耳元に再度顔を近付けて囁いた。


「……あ、そういえばカズッチくん。上手いこと凛りんをあなたに譲れそうだからそこら辺は心配せず死ぬ気で凛りんをエスコートしなさいよ?」


「……分かってる。……。一ノ瀬さんも、ありがとな」


 俺が小声で礼を言うと、一ノ瀬さんは満足そうに「にひひ!」と笑い、自分の席へと戻っていった。





******





 ――金曜日、テスト最終日。


 最後の科目のベルが鳴り響いた瞬間、教室中に「解放された!」という叫び声が上がった。

 俺は、答案用紙を回収する教師の背中を見送りながら、深く、長い溜息を吐き出した。


「……終わったな、海斗」


「ああ……。真っ白だ、一真。……。俺の脳みそは今、更地になったよ」


 海斗の誘いを適当にいなし、俺は一人で校門を出た。

 凛は部活の最後のミーティングがあると言っていた。月曜日のテスト返却までは、束の間の休息。そして明日は、待ちに待った土曜日だ。


 夕暮れの帰り道。

 スマホをポケットから取り出すと、一通の通知が届いた。


【凛:佐藤くん。……テスト、お疲れ様。……手応えどうだった?】


 俺は歩みを止め、キーボードを叩く。


【一真:お疲れ、ハル。……お前の特訓のおかげで、なんとかなりそうだ。……そっちは?】


 送信して数秒。すぐに既読がつく。


【凛:にひひ。バッチリ! ……。これで、明日は誰にも邪魔されずに、心ゆくまで「ワガママ」言えるね】


【凛:カズ。明日、本当に楽しみ】


【一真:俺もだ、楽しみだな】


【凛:寝坊したら、絶対に許さないからね?】


 俺は街路樹の影で、そんなやり取りをしながら思わずスマホを握りしめる。


 「ワガママ」。

 屋上の約束。そして、俺が彼女に贈った「紫の朝顔」の言葉。


 彼女も、俺と同じように……いや、もしかしたら俺以上に、明日のことを意識してくれている。

 その事実が、たまらなく愛おしくて、誇らしかった。


【一真:……夜からだし、寝坊なんてしねえよ】


【凛:にひひ…。カズはハルちゃんとの夏祭りに緊張しすぎて寝れないかなって思っただけ】


【一真:お前こそ、浴衣の帯、きつく締めすぎて途中で倒れるなよな。】


【凛:バカ一真。……もう着付けの練習も終わったんだから。……期待してて】


【凛:カズに、世界で一番可愛いって言わせてやるんだから!】


【一真:おう、楽しみにしてる】


 画面を閉じ、俺は夜空を見上げた。

 雲の切れ間から、星が微かに瞬いている。


 学校では、他人のふり。

 けれど、この掌の中にある熱いやり取りが。

 廊下ですれ違う瞬間に、胸が締め付けられるようなあのアイコンタクトが。

 

 俺たちの「親友」という嘘を、より強固な、より特別な……「名前をつけられない絆」へと変えていく。


(……明日、か)


 俺は、熱くなった頬を風に晒しながら、決戦の土曜日へと続く道を、一段と力強い足取りで歩き出した。

 

 月曜日になれば、また「東雲さん」と「佐藤くん」として、テストの点数に一喜一憂する日常に戻るだろう。

 けれど、明日の夜。

 花火の下で俺たちが交わす言葉は、きっと、これまでのどんなチャットログよりも、俺たちの運命を大きく変えてしまう。


 俺は、スマホの裏側に貼られたドラゴンのシールをそっと指先でなぞり、静かに、けれど強く、決意を固めた。

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