メナセリア─2
部屋の扉が開くと、そこはまるで異世界の研究室のような、非現実的な光景が広がっていた。
床や壁は透明なガラスのような素材でできており、下には無限に広がるように青い光が続いている。
天井からは円形の照明が淡く光り、僕の視界を少し霞ませる。
周りの機材も近未来的で、それがバランス良く並べられている。几帳面な人も納得の綺麗さだ。
「わぁ。」
思わず声が漏れる。
先程までの貞操の危機を忘れるくらい、男心がくすぐられる光景だ。
「ふふっ、この部屋凄いでしょ。私も入るたびに内なる男が目を覚ましそうになるんだから。」
聖はそう言いながら僕を部屋の中央に位置する円形の装置に降ろした。
「ではでは、蓮司君の身体を調べさせてもらうわよ。変なところは触らないから安心してちょうだい。」
信用ならない言葉を発しながら、聖は僕をパンツ1枚にした。
脱がされた感覚がなく、背筋に冷たい汗が垂れる。
「ひ、聖さん。これからどうやって調べるんですか?」
振り絞る声で問いかける。
「大丈夫よ、安心して。───■■■」
エリスが唱えたのと同じ様な、聞きなれない言語を聖が発する。
すると、僕が座っていた装置が青白く光だし、薄い膜のようなものが身体を包み込んだ。
驚き、声が出そうになるが、暖かく心地よい感覚にすぐ冷静さを取り戻した。
「そのままリラックスしていてね、すぐ終わるわ。」
聖は装置横にあるモニターを腰に手を当てながらタッチ操作をしている。
数十秒後、破裂音と共に僕を包んでいた膜が割れ、冷たい機材の感触が身体に伝わった。
「解析完了よ。......うんうん、やっぱり”共鳴体”ねぇ。」
「共鳴体...?」
「そう、共鳴体。蓮司君の血のデータから予測はしていたんだけど、精密検査で確定されたわ。お気の毒と言ったところかしらね。」
お気の毒...悪魔に出会った事で何か変な病気になってしまったのか?
「お気の毒って、どういう事ですか?」
聖は僕の言葉を受けると、にやりと不敵な笑みを浮かべ僕に告げた。
「悪魔はね、本当は存在がこの世と隔離された場所にいるの。簡単に言えばパラレルワールドみたいな、私達は認識できないし、悪魔達も私達を認識できない。
だけど、蓮司君が訪れたようなスポットは境界が曖昧なの。そして運悪く出会ってしまった人は、悪魔が出している微量な瘴気に充てられてしまう。精神が錯乱したり、体に異常が出たりね。」
そう言えばエリスもそんな事を言っていたような。
「そして血のデータでは異常無し。これは悪魔が目なしで、その中でも低級個体で、運良く瘴気に充てられなかった可能性もあったけれど、精密検査であなたに異常が無いのは共鳴体だからという事が確定したわ。」
「つまり...?」
「つまりね、あなたは私達と同じなの。悪魔の瘴気に耐性があり、あちらの世界に共鳴し特別な力を使える体の持ち主って事。」
聖は片目を閉じ、僕に投げキッスをし話を終えた。
「ははっ...何だそれ」
僕の乾いた笑いは広い部屋で虚しく響いた。