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禍月蓮司

何が起こったのだろう───

先ほどまで僕の背後にいた悪魔が、無惨に倒れている。

悪魔が倒れた衝撃で、僕もバランスを崩し、そのまま地面にへたり込んだ。

貧弱な体のせいなのか、それとも安堵のせいなのか、僕はもう立ち上がる気力すらなかった。


「……生きてる?」


そう呟いたのは、目の前の少女だった。年は僕と同じくらいだろうか。

黒を基調とした服に包まれた彼女の銀髪は、闇の中で一層際立って見えた。

吸い込まれそうな美しい緑の瞳をしていて目鼻立ちが整っている。見るからに日本人ではない。


返答しようとしたが、喉にはりついた血の塊のせいで、うまく声が出ない。


少女はため息をつき一言告げると、僕に背を向け、誰かと話し始めた。

耳につけたピアス型の通信機に向かって。

あれをつけるのも、一苦労しそうだ。


通信が終わったのだろう、彼女は気だるい表情を向けながら振り返った。

あぁ、きっと僕の存在が彼女の機嫌を損ねたのだと表情で分かった。


「私はエリス、これからあんたを本部に連行します。拒否権はないです。理解もしなくていいです。」


エリスという少女は一方的に僕に告げた後、胸ポケットからミシン針のようなものを出した。


プスッ


「い゛っ」


そしてその針を僕の太ももに軽く刺したのだ。

刺した針には僕の血が少し付着している。


「あんたの情報を調べるから、これでも飲んで待ってなさい。」


そう言い、どこから出したのか、僕に向かって手のひらサイズの水ボトルを投げつけた。

満身創痍のこの体でキャッチできたのは褒めてほしいものだ。


彼女は針を左手に装着した腕輪のようなデバイスに数秒差し込んだ。その後抜き取られた針は僕の血が付いていたとは思えないほど綺麗なものだった。

綺麗になったのを確認した後、再び胸ポケットに針をしまう。


キュィィイン


腕輪から冷却ファンが回るような音が鳴る


「ふーん、禍月蓮司(まがつき れんじ) ...変わった苗字ね。犯罪歴もないし、特に不振な点はなし。」


どうやら僕の血から色んな情報があの腕輪でわかるらしい。これが情報社会...プライバシーも何もないな。


彼女は僕の情報に満足すると、先程倒した悪魔にも僕と同じ事をした。


「ゲホッ、助けてくれてありがとう。ほ、本部って」


彼女がくれた水のおかげで喉奥の血が取れたようだ、声が出る。


「私たち悪魔狩り、通称メナセリアの本部よ。一般人は大抵悪魔に見つかったら死んじゃうし、生き残っても精神錯乱したり、まぁ色々あるからね。治療も含めて本部に連れてくのよ。....面倒だわ」


最後の言葉は小さくて聞こえなかったが、どうやらこのまま家に帰らせないで本部で介抱してもらえるみたいだ。


「よし、悪魔の情報も取ったし。ちゃっちゃと行くわよ。」


彼女は悪魔を殺した武器を手に取り血を払いながら言う。

行くのは一向に構わないが、未だに僕は立てないでいる。


「はぁ、ほんと世話が焼けるわ。」


彼女は僕の状態を見抜いたようだ。観察眼がすぐれているに違いない。


「立てないんでしょ?」


 エリスはため息をつきながら、僕の腕を乱暴に引っ張った。


「いっ……!」


 立ち上がらせるというより、半ば引きずるような形だった。満身創痍の僕には正直キツイ。


「ほら、さっさと歩きなさい。私もずっと構ってるほど暇じゃないのよ」


 そう言われても、足に力が入らない。しょうがない、こうなったら……


「無理です」


 短く、しかしはっきりと断言した。


「はぁ……」


 エリスは呆れたように言い、僕の前にしゃがみ込んだ。何をするつもりだろうか、と疑問に思っていると──


「ほら、乗りなさい」


「……は?」


「おんぶしてあげるって言ってるの。別に私があんたを労わってるわけじゃないわ。移動が面倒だから効率的な方法を選んでるだけ」


 そう言いつつも、彼女の声はどこか苛立っていた。


「……悪いね」


 僕は遠慮しながらも、エリスの背中に身を預けた。女性特有の柔らかさを感じるが、驚くほど安定していて、彼女の小柄な体からは想像できないほどの力強さを感じる。

今どきの女の子はインナーマッスルを鍛えているらしい、これはきっとそういうことだろう。



「意外と軽いのね。まぁ、貧弱そうだし当然か」


 いちいち煽ってくるのは気に入らないが、反論する気力はなかった。


「……それで、本部にはどうやって行くの?」


 僕が尋ねると、エリスはニヤリと笑った。


「簡単よ。目、閉じてなさい」


 そう言われると逆に開けたくなるものだが、彼女の警告には従うべきだろう。


 目を閉じた瞬間──


「──■■■」


聞きなれない言葉とともに、まるで飛行機でフライトする時のように耳がこもり、空間がねじれるような感覚に襲われ、僕の意識は一瞬で暗闇に落ちた。

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