エリス
───────ジジッ
「こちらメナセリア本部、ゴーストタウン5区にて悪魔の反応あり。5区担当は至急現場に急行せよ。」
耳の縁の軟骨に沿うように装着されたデザインの通信機から男の声が響く。
「こちらエリス、至急向かいます。」
エリス、そう名乗る少女は銀色の髪を揺らし地面を蹴る。
廃墟の街を駆け抜けながら、エリスは視線を鋭く走らせた。
「……いた。」
朽ち果てたビルの隙間から見えたのは、何の装備も持たない少年と、それを追う異形の悪魔。
悪魔の縄張りに踏み込んだ一般人。おそらく肝試しか何かだろう。場違いな彼の姿は、確実に死へと向かっていた。
目なしの悪魔。
巨体を揺らしながら、奥歯のような歯をガチガチと鳴らし、獲物をすり潰す準備をしている。
「こういう馬鹿は死んでも良いと思ってるけど、悪魔の栄養になられても困るしなぁ」
エリスは跳躍した。崩れた建物の壁を蹴り、音もなく悪魔の背中へ回り込む。
「うぁぁああ!!助けてくれええ!!」
少年の絶叫。
その声に引き寄せられるように、悪魔がさらに口を開いた。
「────残念。」
エリスの手に持たれた刀型の武器が、悪魔の背中から口内へ一直線に突き刺さる。
ブジュッ
鈍い音とともに、悪魔の巨体が痙攣し、苦痛の唸りをあげ膝を着くように地面へ崩れ落ちた。
ドサァッ
悪魔は動かない。
「ふぅ……っと。」
エリスは肩を回しながら、少年を見下ろす。
「……生きてる?」
少年は地面にへたり込みながら、息を整えるのに必死だった。
「え……あ……」
震えながらエリスを見上げる彼に、彼女は小さく息を吐いた。
「君は運が良かっただけだからね。もう馬鹿な事するんじゃないよ。」
エリスは踵を返し、通信機に指を触れた。
「こちらエリス。目なし一体、討伐完了。ただ、一般人が巻き込まれたようです。生きてはいます、はい。」
「では、その一般人を本部まで連れてくるように。勝手に処理するんじゃないぞ、」
本部からの返答に顔をしかめるエリス。
悪魔だけなら事務処理も本部に任せてもう帰るだけなのに、どっかの馬鹿のせいで残業だ。
「────了解。向かいます。」
そう返答し、エリスは少年へと振り返る。