8話
「天祢、こいつの他に竜人はいるか?」
「い、いや確認できたのはそいつだけだけど…」
「そうか…」
そういうと枝葉は刀を納刀し、どこからともなく取り出した縄で竜人を簀巻きにした。
「ここの住人はどうなった?」
「う…あ…そ、それなら、向こうの…家、の中に、避難してる…」
「わかった。ありがとう」
意識がぎりぎりあったのか、倒れたままの紅林が力なく答えた。
その後枝葉は村人たちの最低限の治療をし、簀巻きの竜人の尋問を始めた。俺も立ち会うことにしたが、尋問中の枝葉はいつもと何も変わらない様子だったが、それが逆に怖かった。
「この村へ何をしにきた」
「…」
「答えろ」
「…」
相手もかなり強情なようで、まったく口を割りそうにない。四肢を切断されたというのに、敵ながらすごいやつだ。…と、あることを思い出した俺は枝葉に耳打ちをした。
「へいへい枝葉の旦那」
「?何ようだ天祢」
「こいつ煽り耐性がめちゃくちゃ低いですぜ」
「なるほど、褒めて遣わす」
しかし言っといてなんだが枝葉に人を煽ることなどできるのだろうか。竜人を切り刻んだ時は心臓が止まるかと思ったが、それでも優しい枝葉が人を煽るなんて想像もつかない。そのときボソッと
「…やっぱ下っぱの雑魚じゃ話にならないか」
一瞬の間があった。
「んだとテメェ」
「もういいよ、解放してあげる。帰って竜帝ママに泣きついてオムツ換えてもらうといいよ。上手なあんよd」
「テメェだけはぜってぇ殺す!!!!しね!ぶっ殺してやる!!カスがぁ!!!!!!」
竜人はブチギレた。やはり耐性がない。煽りというか罵倒があのまま続いてたらどこまでいってたのか気になるが、簀巻きのまま凄まれても悪いが何も怖くなかった。
「殺すだなんて難しい言葉を知ってるんですね。えらいえらい。なのに話せば助かることも分からないなんて…可哀想な子(>_<)」
「黙れっつってんだよクソガキが!!!!わかってんだよそんくらい!」
びっくりするほど簡単に誘導されている。枝葉自身もすこし驚いている気がする。だが、これでコイツらの計画もしっかり知れそうだ。
「ハァ………竜帝様は原初の刻印を探してんだよ、計画に必要だからな。で、原初の刻印は5つあって、そのうち四つの魔力の波長がわかってるから、その一つ追ってこの村にきたんだよ。オレは「腐」の刻印担当だからな。」
「その計画ってのは?」
「そこまでは知らねぇよ」
「無能」
「だまれや!!」
「はぁ…じゃあわかってる魔法の波長ってのは?」
「こンのガキャァ……「腐」、この村のあの波動打ってた鬼人のガキが持ってんだろ。「歪」、これがいっちゃん難しい。あの魚人の淵帝が持ってるって噂だ。「磁」、これは別に探さなくていいとの事だ。んで最後のが、」
思った以上にペラペラ喋るやつだ。煽られたのがそんな嫌だったのか?それとも生きたいのだろうか。人様を襲っておいてなんとも図々しいやつだ。
「「鎖」、これは全く情報が…いや待てよ、波長は担当じゃないから知らんが、そこのガキが使ってた魔法……アハハハ!!こんなとこで二つも見つけちまうとはなァ、おい!これでオレも間違いなく四天王d
スパン
「それじゃあさっきの青年に話を聞きに行こうか。」
え!?俺の魔法は原初ってやつなの?かっこいい!と思うのも束の間。枝葉に用済みだと言わんばかりにスパッと切られた竜人は、体のちょうど真ん中で真っ二つに割れて崩れた。
「ま…まったく太刀筋が見えなかった…」
驚きで固まっていたので少しでるのが遅れたが、紅林のところまで行くと枝葉と話していた。
「紅林さんの魔法について教えてくれるかな」
「は、はい!えっと、実は自分でもよくわかってなくて、私の魔法は周りを苦しめる毒ガス?か何かかと思うんですけど…」
「なるほど。周りの食べ物が早く傷んだりとかは?」
「!!あります!もしかしてこの魔法について知ってるんですか!?」
「うん、少しならね。君の魔法は腐敗。周りを腐らせるっていう魔法さ。正確には腐敗の進行速度をコントロールする、ただし遅くはできないと言ったところかな。」
「ありがとうございます!ずっとこの呪われた魔法のせいで困ってたんです。その、周りに迷惑をかけない方法ってあるんですかね」
「なるほど、それで……。それなら魔法というより魔力のコントロールを覚えればなんとかなるかも知れないね。」
何やら紅林の魔法について聞いているようだが、何やら紅林は嬉しそうだ。魔法で悩んでたのかも知れない。
「でも君が魔力のコントロールができなくて助かったんだよ。」
「?、どういうことですか?」
どういうことだろう。
「ちょっと前に、イワ村の結界内に入ろうとしたよね?あれは私も設計に携わっていてね、危険な魔力を持った魔物が入れないようにしてあるんだ。もし触れれば私のところに警告が来るようになってるんだけど、それで気づいてこっちまで来れたんだよ」
なるほど!だからあのとき紅林だけ弾かれたのか。
「紅林君以外の住人は魔力の危険要素はなさそうだし、家も壊滅状態だ。もしよければ皆でイワ村にこないかい?」
「本当ですか!是非お願いします!あ、いや、少しお待ちください、村長読んできますんで!おーい親父ー!!」
元気に走り去ってしまった。それにしても枝葉が気づいてきてくれなかったら危なかった。
「あのさ
「天祢」
「…はい」
ただならぬ空気感である。
「もう二度とこんな危ない事はしないで。頼むから」
「お…おう、わかった。ごめん」
「うん…こっちこそ来るのが遅れてごめんね」
「いや、そんなことは…」
どうしようこの空気。申し訳ないのは本当にそうなのだが、一体どうしたのだろうか。そんなに心配だったのか、ものすごく悲しい顔をしている。よく考えたら俺は枝葉のことを何にも知らない。過去に竜人と訳ありで…それくらいしか知らないのか。
「ハァハァ…すいません枝葉さん、親父を連れてきて…ってあれ、二人ともどうしたんですか?」
「ん、なんでもないよ。それで親父さんはなんて?」
「ワシが村長の華藍じゃ。枝葉氏の提案実にありがたく、子供達の命も助かるじゃろうて。しかし問題が三つほどあるのじゃ。 一つ目が、そもそも子供たちとワシとコヤツだけの村じゃ。かえせるものが本当にない。村に資材があるわけでもないのは見て分かるじゃろう?
二つ目は周りの鬼人族たちが黙ってないじゃろう。ワシらの村はそもそも身寄りのない鬼人族の子供を助けるために作ったんじゃ。自分の捨てた者たちが良い環境に移るなんて、あやつらが許すとは思えん。結界があるとはいえ危険じゃ。
三つ目はそもそも紅林のやつは村の結界を通れないんじゃろう?どうすればええんじゃ」
そうじゃん!通れないじゃん!魔力コントロールを練習するのは数日はかかる。それまで野宿ってわけにも…
「なるほど…ご指摘ありがとうございます。まずは三つ目から解決しましょう。紅林さん、この指輪をつけてください」
「分かりました」
枝葉に差し出された指輪を紅林がつけた。するとまったく気づいていなかったが、周りの不穏だった魔力が一気に消えた。消えて綺麗になって初めて汚れていることに気づいた感覚だ。
「!?、魔力が吸われてる?」
「そうです、その指輪は装着者の魔力を吸収します。微量にちびちび吸い取るので生活に支障は無いと思いますが、それで周りに魔力が溢れ出ることはないでしょう。とりあえず魔力のコントロールが完璧になるまではそれをつけておいて下さい。」
「あ…あぁ…」
それを聞いた紅林が固まってしまった。
「ありがとうございます!!!!枝葉サマ!!!!」
よほど嬉しかったのか、狂信者か爆誕した。
「嬉しそうでよかった。それでは一つ目ですが、鬼人族の皆さんには村の警備を頼みます。子供でもここで暮らしているということは戦闘経験がおありでしょう?」
「なるほど警備ですか。それならお安いご用意じゃ。しかしそれだけでいいのか?」
「えぇ、子供たちが大人になるまでここにいるかはわかりませんが、また竜人が来るかも知れないので、その時にあなた方を頼ります。」
「なるほど、戦闘技術ならハグレものたちとはいえ鬼人族。お任せください。」
「そして二つ目ですが、皆ここで竜人に殺されたことにします。死んだように偽装しておきます。私は子供を捨てる輩も、それを見なかったことにした輩も助けるつもりはえりません。少なくとも村に入れるつもりは毛頭ありません。必要があれば切ります。そもそも結界の強度は住民の魔力を毎日少しづつ吸って作ってます。住民が増えればそれだけ強固になるので、そこまで心配はいりません。」
「なるほど…何から何まで本当に恩に着るのじゃ。ありがとうございます。枝葉氏」
すんごく流れるように色々決まった。俺らこういうことに全く頭が回らないからな。さすがすぎるぜ枝葉。
こうして鬼人族の村を離れてイワ村に帰ることにした。帰る道中、狂信者紅林と枝葉が仲良く話しているのを遠目で見ていると、華藍おじいちゃんが話しかけてきた。
「天祢氏よ、すこしええかの」
「ん?なんだい華藍じいちゃん」
「ほっほっほ。紅林のやつはな、元々鬼神家という鬼人族の中の王家のようなところで産まれたんじゃ」
「まじかお偉いさんだな!喋りも丁寧だったもんなぁ」
「そうじゃ。たが見たじゃろう?あやつの魔法は周りを腐らせた。じゃから呪いの子として忌み嫌われたんじゃよ。そして捨てられた。まだ三歳くらいじゃったかのぅ。たまたま見つけたワシが拾って帰ったんじゃよ。」
「…そっか」
重い話だった。この世界の住民は重い過去を背負わなくてはならない運命なのだろうか。そんな過去がありながら、あそこまで真っ直ぐに育つなんて。俺じゃ耐えられないだろうなぁ。
「じゃからあやつがあんなに楽しそうなのは初めて見たんじゃ。魔力で人を傷つけてしまうやつは、ワシの村の子供たちに近づこうとしなかった。子供たちはその優しさに気づいておったがの。…まぁ、だから、なんじゃ。あやつをな。一緒に連れて行ってやってくれんかの」
「…それは本人が決めることだからなぁ。」
「ほっほっほ。気が向いたらでええからのぉ。考えてやっておくれ。」
「いや、俺はきて欲しいと思ってるよ。じいちゃん」
「そうか。…ん?どこ行くんじゃ?」
気づいたら体が走り出していた。
「んぉおおおい紅林ぃー!!!!!一緒に旅に行かないかぁぁぁ!!!!!!」
「え?天祢さん?それってどういうんぎゃぁ!急にくっつくかんといて!!落ち着いて天祢さん!!」
俺は助走をつけて紅林めがけて飛んでいき旅に誘ったのだった。
読んでいただきありがとうございました。