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20話

女王様が、わざわざ病院まできて感謝と謝罪を述べていた。


「本来ならば城へ招き正式な場を設けなければならないところですが、お身体や諸事情があると思いますので、略式とさせていただきます。天祢様、この度はこの街のため、ご尽力くださり誠にありがとうございました。」


「こちらこそこんな格好で申し訳ない…この街に来たばかりの俺とヒイロの話聞いてくれてありがとう」


「ヒイロ様にもご挨拶をと思いましたがもうすでに次へと向かわれたとは…さすが元気なお方ですね」


「元気すぎですけどね」


またどこかで会えるといいんだけど。


「つかぬことを伺いますが天祢様、次はどこへ向かわれるのですか?」


「あっと…蟲帝とかいう人のところへ向かうよ」


「蟲帝ですか…話が通じれば良いのですが」


「?話が通じないような人なの?」


「ええ、近年の蟲帝は様子がおかしいと私のとこの偵察隊から報告が上がっています」


「まぁどちらにせよ行くしかないよ。こんな綺麗な街を破壊した竜帝をぶちのめさないとな」


「ぶちのめす際はぜひ声をかけてくださいね。私たちも協力させていただきますので」


「もちろん!ありがとう」


一緒についてきてくれたら心強いけど、女王様って立場だしそうもいかないよな。協力してくれるってだけでも本当にありがたい。


「ではこれで失礼します。どうかご無事で」


「女王様もお元気で!」


あと少しで身体も不自由なく動かせそうだし、出発する日もまもないかな。




「女王様、こちらへ」


「すまない」


臣下の用意した馬車に乗り王城へ戻る。


「よかったのですか?彼のような優秀な者を我らの軍にむかえ入れなくても」


「あぁ。彼らは竜帝を倒すことが目的らしい。旅立つ方がここにいるより世界のためになる」


「そうですか…彼らがいなかったらこの街は壊滅してました…われら一同感謝しかありません」


「本当だ。あの二人が異質な魔力を放ちながら街に向かってきてくれたおかげで、住民から魔力を吸い上げる儀式を竜帝が来る前に終わらせられていた」


「しかしあの者は本当に竜帝だったのでしょうか?話を聞く限りだいぶ弱くなっているようでしたが」


「恐らく目覚めた直後だったのだろう。帝王でもなければ私の結界が破られるはずもない」


「それもそうですね」


ヒイロ殿がどこへ向かったのかは謎だが、天祢殿が無事に蟲帝と話をつけ、竜帝に王手をかけれる状態になれば。


「私たちの悲願ももうすぐ叶うかもな」


「ええ、我々も尽力いたします」


我ら魚人族いや全国民の悲願。竜人の絶滅。かつて剣聖が成し遂げられなかった夢を、彼らは実現できるのだろうか。この身とこの魔法が、この街を出られれば力になれたというのに。

…にしても魔法無効化魔法すら発動していないとは、竜帝のやつはよほど弱っていたのか?本当にあの時逃げられたのが悔やまれる。





「完全復活だぁーーー!!!」


「やったー!!!」


「ほら、はしゃいでると傷口ひらくよ」


ついに退院許可がおりたので、旅を続行できる。


今俺たちは蟲帝の住む大陸アイサルエ、そこに行くため港町ミナミへ向かっている。女王様が海馬という魔物の馬車をくれたので、想定の二倍ははやく着きそうだ。ちなみに海馬という名前だが、陸上生物らしい。


「ひゃっふぅぅぅー!!」


「速くて風が気持ちいいですね!」


「もう、あんま乗り出すと落ちるよ」


見た目はヒレのついた馬といった感じだが、走り方はまんま前世の馬と同じだ。


「途中で休みながら行くから二週間くらいで着く予定だよ」


「こんないい道があったなんてな!かなり整備されてるし!」


「この道は剣の道と呼ばれていて、剣聖様が自分の道場から先の町までの道のりを一人で整備されたそうですよ」


「あぁ!えっと奏さんだっけ?大会のときの…ってことはこの先は剣士がいっぱいいるってことか?」


「そうだろうね。…これを一人で作ったのか。昔来たときはなかったのにすごいね」


枝葉が感嘆するのも無理はないだろう。科学技術が発達していないであろうこの世界において、ここまで平坦で街灯まで等間隔に整備してある道なんてそう簡単に作れる物ではない。


「どこにあるんだ?その道場って」


「もちろんこの道の最後のですけど…ちょうど夕方辺りにはつくんじゃないですかね?」


「じゃあ休憩がてら見ていこうか」


「やったぜ!」


剣の達人を何人かヘッドハンティングできれば、この先も心強いかもしれない。


「そういえば村の周辺って魔物除けの結界とか貼ってたけど、この辺には魔物はでないのか?腐れオオカミのアウルとか」


「腐れオオカミって…確かに腐ってるけどさ。この辺はアスラが出るんじゃないかな」


「アスラってどんな魔物なんですか?」


「うーん、液体状の半固形っていうのかな。水が膜張って動いてるみたいな魔物だよ」


へー、スライムみたいなやつなのかな。あってみたいけど。


「そんな不思議な魔物がいるんですね!」


特に魔物とかに会うこともなく順調に進んでいき、予定通り夕方には道の終わりに来た。あまり整備されてない道と、石階段で山に続く道の二つに分かれている。


「この海馬はここに待たせておこう。どうやら街灯に魔物除けの魔石が使われてるみたいだから安全だよ」


「すっげー、どんだけコストと時間がかかるんだか…」


「少しだけ待っててください海馬さん!朝には戻りますので!」


石の階段を登ったさきに剣聖の道場があるらしい。こんな時間に訪ねるのはどうなんだ?ともおもったが、階段の下には看板で『気軽においでよ』と書かれていたのであまり気にしないことにした。


「結構長かったな」


「ちょうど一万段でした!これ作るのも大変ですね」


「ここが道場…やっぱりすごいね。」


階段を登って目の前に出てきたのは、でっかい寺とか神社とか、前世の観光名所でありそうな感じの建物だった。


「入り口はこっちらしいよ」


「修行してる剣士もいっぱいいるだろうし、静かにはいるか」


「そうですね。でもこの辺じゃ剣士じゃなくてサムライって呼ぶらしいですよ」


「そうなのか、ブシドーってやつか」


「そうですそうです」


「…はやくいくよ」


そういうと枝葉は目の前にあるバカみたいにでっかい門…ではなく隣の普通の扉をノックした。すると少し間を置いて扉が開いた。


「ん?こんな時間にどうかしたのか?…って来てくれたのか!!」


バカでかい声で喜びを叫んだのは、あの大会であった奏さん…つまり剣聖だった。


顔パスか何かかな?といった感じでなんの問題もなくすんなり中に通された。和風の客室といったところだろうか?畳っぽい藁か何かを編んで作ったカーペットに、和紙のようなモノで作られた障子など…ぽいだけでところどころ違うが。


「よく来てくれた。あの街から海底都市へ向かったと聞いたが遠かっただろう?」


「女王様が海馬を貸してくれたからね。一日でつけたよ」


「それにあの道のおかげですよ!お一人で作られたのですか!?」


「あはは…照れるなぁ。たしかに一人で作ったが、設計や考案は全て師匠のものだ」


「師匠ってもしかして、初代剣聖って人?」


「あぁそうだ…っとすまない。立ち話もなんだ、座ってくれ。今茶を持ってくるから」


と言って部屋から出ていった。


「なんか見たことない建築様式です。でもどこか…なにかを模したのでしょうか?」


「たしかに。細かいところが気になるね」


二人も違和感を感じるようだ。まあ俺は違和感というか現物を知ってるというか…


「そういえばみんなはどうしてウチに来たんだ?枝葉くんは私が大会のときに誘ったが」


茶らしき飲み物を持った奏さんが部屋に戻ってきた。


「誘われたからにはこないとね」


「君はどの剣術使いはそういないからね。是非来て欲しかったんだが…そちらのお二人…天祢くんと紅林くんだったかな、二人はどうして?」


「俺たち竜帝ボコす傭兵パーティ、クサリビトなんす。東に向かう途中に寄った感じっす」


「そうなんです!同じ志を持つ仲間です」


「ちょっとまって何それ聞いてない、私も入ってるんだよね?」


しまった、勝手に名前使った挙句旅に出るのに夢中で伝えるの忘れてた。


「ははは!そうか傭兵組合のパーティだったのか。だから一緒に行動してたんだね。…それにしても………竜帝をボコす、ね。」


すこし空気が変わった。


「私が手合わせしたのは枝葉くんだけだけど、試合を見てた限り二人も相当な手練れだと思う。でも、それでもアイツには勝てないよ。」


「!竜帝についてなにか知ってるのか!」


「アイツは刀が届かないんだ。恐らくそれがアイツの魔法なんだろうけどね。刀に含まれてる成分を弾き飛ばしてるのか、武器という概念を総括して跳ね返してるのかわからないけど」


「たしかにアイツ磁力操るとか言ってたし…実際操ってたぽいし」


「!?天祢くんは竜帝と戦っ」


ガタン!!


奏さんが勢いよく食いついたと思ったら、急に枝葉が立ち上がった。


「竜帝は….磁力を操る…?」


「うん…だって俺の鎖当たらなかったし」


「…わかった……少し…外の空気吸ってくる」


そういうと、枝葉は部屋を出ていってしまった。ほとんど表情を変えない枝葉のあそこまで絶望したような顔は初めて見た。


「きっと辛い過去があるんですよ。少しそっとしておきましょう。枝葉さんならきっと話してくれますよ」


「そうだな」


紅林の言う通りだ。出会ったときに竜帝にやられた過去があるって言ってたし、何かあったのだろう。


「…三人は仲がいいんだな。咄嗟のことで驚いてしまったが、竜帝の被害は最近ではこの国の中央付近まで及んでいる。彼もその一人だったのだろう。なおさら、もし力になれることがあれば言ってくれ。私も竜帝は許せないからな」


「では奏さんの知ってる竜帝と、こっちの知ってる情報を交換しませんか?互いに擦り合わせれば対策の一つも見つかるかもしれません」


「今はそれが一番だな。俺の知ってる竜帝は、磁力を操る、飛ぶ、瞬間移動する、再生するってとこかな」


「なるほど…私が見たのは幼少期の頃だから何がなんだかわからなかったが、師匠の刀が効かなかったのも鉄が有する磁力に反応してのことだったのか。私も君たちと大体同じだが、ヤツが持つ危険な能力の一つは、魔法完全無効化魔法だ」


「なんですか、そのまるでこっちの魔法攻撃をすべて無効化してしまうみたいな名前の魔法は」


「ああ、本当にその通りの魔法だからな。というか天祢くんはさっきの口ぶり的にどこかで戦ったのだろう?…よく逃げ切れたな」


「ああ、あの野郎海底都市に突然湧いたんだけど、女王様が魔法でボロ雑巾にしてくれて助かったんだよね」


「女王様…ってあの全てを捻り潰す魔法を使う淵帝のことか?….彼女は確かに規格外の魔力量と威力だが…キャパオーバーで魔法無効化を貫通したのか?それとも…」


「私はおじいちゃんから聞いた話でよければ」


「「ぜひ聞かせてくれ」」


「はい!えっと、おじいちゃんももちろん鬼人族なんですけど、何回か竜帝の軍隊と戦ったらしいんです。で、お二人の話を聞いた限りでは、記憶が正しければ一体一体が磁力以外の竜帝と同じ魔法を使えてるはずです」


「終わった…」


「諦めるのが早いぞ天祢くん!だがたしかにそれはあんまりにも…」


仲間に自分の魔法をシェアする魔法ってことか?舐めやがって。アイツ自分を呼んだ竜人のネツァリス何とかってやつボロクソに言ってたのに仲間判定かよ。…ん?なにか引っかかる気が?


「この国最強の女王様、しかもテリトリーから逃げ切るだなんて何度聞いても信じられません。そんな生物いるんですか?」


「んえ?テリトリーって?」


「何だ天祢くん、知らなかったのか?女王様は魔法が強すぎるから結界として扱いの難しい大部分の魔力を外に放出して深海の水圧によって相殺してるんだ。で余った魔力をさらに住人に分け与えて、残った人よりかなり多いくらいの扱える魔力で暮らしてる。だからそもそも侵入したこと自体が変だし、逃げるだなんてもってのほかなのさ」


「女王様…めっちゃ大変だったんだな…っても結界に穴が空いてたしな」


うーん、対策を練るどころか竜帝の能力すら不明瞭とは。


「…私はあまりヒイロさんと話してないけど、何があったか聞いたとき、竜帝を召喚したやつがいるって聞いたんだけど、本当かい?」


「枝葉!」


「枝葉さん!」


少し顔色が良くなった枝葉が部屋に戻ってきた。が、まだ何があったか聞くのは早いと思うので、こちらの話題を続けることにした。


「そうそうネツァリスだよ、四天王とか言ってて、召喚がどうとかこうとか」


「まだ魔法が使えただなんてね。…けど合点がいったよ竜帝の能力は支配してる者の魔法を使えることだ。恐らく軍隊のその中にコピー魔法とか、魔法をシェアする魔法とかがあるんだろう」


「言われてみれば仲間を呼んだり瞬間移動する前に権限がどうとか言ってたかも」


「やっぱり帝王権限魔法か…」


「それって何です?強そうですけど」


「それなら私も知ってる。古い文献にあった、三神ノ技という文献だ。最初は確か…


一、星の王のみ許される超常の権限

一、生命の頂点のみ許される大いなる超常

一、始祖の七つ子のみ許される原初の超常


だったかな…あとは覚えてないんだ、ごめんね」


なんだ?難しくて覚えらんないけど。


「さすが奏さん、その最初のが帝王権限魔法についてだろうね。この世界の三人の帝王は自分から帝王を名乗っていると言うより、この星の意思によって認められてるんだ」


「何をいってるんだ?星に意思なんてあるのか」


何動説の話でも聞いたことがない論である。


「えっ」


「えっ」


「え?」


紅林と奏さんがマジかこいつみたいな顔で見てきたが、そんな顔で見られてもなぁ。星の意思とか現世だったら完全にやばいやつだよ。


「まあ天祢は常識が欠損してるとこがあるからいいとして」


ん?枝葉さん?


「そして権限というのが『忠実な配下の能力を使用する』と言うものだ。竜帝は竜人や拉致した人々の魔法を使用しているのだろう」


そりゃ強いわけだ、チートやんそんなもん。ん、でも


「女王様も使ってたけど、普通に潰し魔法だったよ?」


「女王様は師匠のアドバイスで街の住民と使役する魚類たちに魔力を分け与えて、その中にごく少量の魔法の情報を組み込むことで権限魔法の効果を自分の魔法の強化に変化させてる」


「師匠頭良すぎでしょ!?」


「さすが初代剣聖様ですね!普通思いつきませんよ!」


「師匠は凄いだろ?えへへへ」


「…じゃあみんな、対策は見えた?」


「もちろん!わかんない!」


「同じく!」


「まあ配下の魔法が積み重なってめちゃくちゃ強いんだから、配下を一体一体潰していくのがいいんじゃないか?」


「でも紅林の話だと配下も魔法が使えるんだよね?」


「どうするのがいいんでしょうか…」


「正解はね、….圧倒的戦力で叩き潰すんだよ」


「枝葉?なにをいってるの?」


「そうか!その手があったか!」


え?


「そうでした!すっかりわすれてました!」


え?

その手があったかって、その手が打てないからこの会議が始まったんじゃないの?もしかして俺ってマヌケ?


「いいかい天祢。こちらの出せる戦力は、上手くいけばこの国の全国民、そしてさらに運が良ければ蟲帝だ。そして竜帝の帝王権限は四つしかない。それは四天王に由来している。ヤツの忠実な配下といったら四天王しかいないだろうし。だからこちらの全戦力で四天王を一体ずつ潰していけばいずれ」


竜帝にとどく…!


「よし!倒し方は決まった!あとは戦力を集めるだけだ!」


「ついに私の拳が火を吹く時がきたんですね!」


「まあまだ先の話だけどね」


「ぜひ私たちも呼んでくれ。私の弟子たち百人全員一般人より遥かに強い」


「めっちゃ心強いありがとう!みんなもパーティにはいろ?」


「ダメですよ天祢さん!百人も入ったらどれだけ働いても収入えられませんよ!」


たしかに依頼代が毎回百分の一はまずい。でも何人か協力してくれればと思っていたのに全員と剣聖奏さんが力になってくれるだなんて、この勝負、勝ったな。

呼んでいただきありがとうございました。

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