18話
「アマネ、もう大丈夫だからな!あと少しがんばってくれ!」
重症を負ったアマネはこの街の病院へと運ばれた。元の世界と違いベッドが大量に置かれ、回復魔法を待つ患者が多く横たわっていた。
「あとは医療班に任せましょう。あらためて今回、この街のために尽力していただき本当にありがとうございました」
「僕は何もしていないよ」
「住民たちから聞きました。あなたが私を呼びに来る道中、魔法で水をせき止めて避難経路を確保してくれたと。そのおかげで竜帝の襲撃と洪水という災害にもかかわらず死傷者がここまで少なくすみました。私は結界の修復がありますのでこれで失礼しますが、正式なお礼は天祢様の意識が戻ってからさせていただきます」
「あぁ、女王もがんばってくれ、またな」
僕の名前はヒイロ・レイ・ジャスティス。ガレリオンからの転生者。女神様に魔王を倒す使命を与えられた勇者でもある。ポケットに入れていたものを取り出した。今では酷使しすぎて輝きがかなり薄れている女神様に授かった宝具、エターナル・ガイアを眺める。
「急に発動した時はどうなるかと思ったけど、結局なんの役にもたたなかったなぁ…」
女王を呼びに向かった最中になんとか発動できた魔法で何人かは救えたかもしれない。だが、この世界を救うために選ばれたはずなのに、自力で魔王も見つけられず、襲われた街も救えず、目の前の友人一人も助けられない。僕に勇者の資格なんて本当にあるのだろうか。
「………ごめんね…本当にごめんね……」
目の前で医療用のベッドに横たわり、治療の順番待ちをしているのはこの世界で初めて僕の話を親身に聞いてくれた、僕の友人アマネ。彼は半ば無理やり連れてきたのに僕を見捨てず、襲われたこの街も救った。僕にとっても、この街にとっても紛れもない勇者だ。
「…ごほっ…気にすんな…俺が……弱かっただけだぜ……」
「!意識が!っていうか喋っちゃだめだ!安静にしてないと」
「……あぁ…じゃあもう一眠りするかな………その前にひとつ…言わなきゃ…いけないことが…」
「なんだい?ゆっくりでいいよ?」
「…ヒイロの…君のおかげで助かったんだ……ありがとうな…」
「…!」
「じゃ…おやすみ…」
あぁ、アマネ。君を初めて見たのは海岸の腕試し大会だった。あの時魔法を楽しそうに使ってて、僕もあんな風にかっこよくなりたいって思った。そして街を救って竜帝を足止めして。意識が遠いだろうに僕を気づかってくれるなんて。僕はただ君に言われて女王を呼んできただけなのに。僕もチョロいな、友人の一言でここまで胸が救われるだなんて。
「君は本当に…やさしいね。まるでお伽話にでてくるクサリビトみたいだ」
僕の世界の英雄譚、はるか昔のお伽話。魔王を撃ち倒した勇者の物語で、その勇者一行のパーティ名がクサリビトだ。人と人との絆を繋ぎ止める姿からついた名前である。僕のお気に入りのお話だ。
「アマネも鎖を使うし、ちょうどいいかもね。…勇者が使ってたのは剣だったけど」
アマネは世界を救える逸材だ、僕の直感がそう言っている。そしてその直感は、このままではアマネは助からないとも言っている。ここで死なせるわけにはいかない。僕の世界で最も強力な魔法「超回復」を使おう。一生かけて溜めた魔力を使っても成功しないと言われている絶技。宝具と僕の総魔力を合わせればそれに近しい効果が得られるだろう。
「ふーっ…」
このエターナル・ガイアは消費した魔力が自然に回復するまで一年近くかかり、超過して使うと使用者の魔力を吸い付くし、使用者は死んでしまうと女神様が仰っていた。がもはやそんなことはどうだっていいのだ。
「僕の分まで頑張ってくれ、アマネ」
「まって」
突然後ろから腕を掴まれ驚いた。そこにはどこかで見覚えがあるボブの青年……あっ
「てめぇこのやろう!」
「わぁ危ない、落ち着いてよどうしたの?」
こいつは腕試し大会でアマネをボコボコにしてくれたなんとかエダハ!絶対許さない!
「この!何しにきやがった!ぶっ殺してやる!」
「天祢を助けにきた」
「…ほんと?」
僕は殴りかかった腕を止め、話を聞くことにした。
「改めて自己紹介を。私の名前は枝葉、天祢と共に旅をしている者だ」
「なんだって!?」
衝撃の事実だ、アマネにはご友人がいたのだ。それも共に旅をする仲である。僕はあまりにも何も考えていなかった事に今さら気がついたのだ。
「うっ…僕の名前はヒイロ・レイ・ジャスティス、勝手にアマネを連れてってごめんなさい…」
「それについても色々聞きたいけど、その話はあとだヒイロさん。君がさっき使おうとしてた魔法、あれで天祢を治せるのかい?」
「まぁ…そのはず…完治できなくても問題ないレベルまでは回復できるはずだよ…」
「僕ともう一人の魔力を貸すから、その魔法を使ってくれないかい?」
「でもこの魔法は」
「使うと死ぬのかい?」
「!なんでそれを…」
この世界にもある魔法なのか!?
「さっきの君は、死を覚悟した人の目をしてたから。だから途中で止めたんだけど。…それはそうと三人分の魔力があれば君は死なず、天祢を治すことはできるかい?」
「魔力量が多ければ可能性は高いと思う」
「わかった。 紅林さん、こちらへ来てください!」
「はーい…枝葉さん、天祢さんはいましたか?って天祢さん大丈夫ですか!?」
もう一人が呼ばれてこちらへやってきた。この青年はたしか…そうだ、大会で選手として出ていたなんちゃらクレバヤシだ。
「落ち着いて、生きてます。これから回復魔法をかけるので協力してください」
「わ、わかりました!…あなたが回復魔法士さんですか?アマネをよろしくお願いします!」
「二人はこの玉に魔力を送り込んでください」
「へー、綺麗な玉ですね!」
「素晴らしい魔道具だね。これなら超魔法クラスを使えそうだ」
そういって二人はエターナル・ガイアに手をかざした。みるみるうちに魔力が充填されていき、あっという間に魔力量が最大になった。
「うっそ早っ!さすがアマネの同行者、ただ者じゃないってことか…では」
あとは詠唱を噛まずに唱え、集中しアマネに超回復の魔法を使用するだけだ。
「……………………………………成功だ」
「やったーー!!」
「よかった」
二人とも嬉しそうだ。何より僕が一番うれしい。初めてアマネのために何かできたのだ。
「ありがとうございます!…えっと、そういえばお名前は」
「ヒイロだ。こちらこそ、二人のおかげで安心してアマネを助けれたよ。ありがとう」
「ヒイロさんありがとうございました!」
「本当にありがとう。…で、大体のことは聞いてるけど、なんでこんなことに?」
「それは…」
僕はここまでの経緯と現状をなるべくわかりやすい良いに伝えた。
「…なるほど。まったく天祢は正義感が服着て歩いてるような人だからなぁ」
「ヒイロさんはこれからどうするんですか?」
「僕は」
アマネと一緒に行きたい。アマネの目的は竜帝を倒すことで、おそらく魔王と竜帝は同一の存在だ。…だけどこのままついていっていいのだろうか。足手まといにしかならないのではないか。せめて隣で戦えるようになりたい、肩を並べていたい。
「僕はここからは一人でいくよ、勇者だからね。魔王をたおす時にまた会おう。」
「…それでいいのかい?」
「いいんだ。なりたい僕になるために、しっかり強くなるさ。君たちこそ、先に僕に魔王を倒されるなんてことがないようにね」
「ありがとうございました!ヒイロさん、この御恩は必ず返しますので!」
「自分で決めたことですか……また会いましょう、ヒイロさん」
「じゃあね」
僕はこうして、強くなってこの世界を救うため、アマネと肩を並べられるようになるための旅に出たのだ。