17話
読んでいただきありがとうございました。
「くそがっ!!」
手も足も出ないとはこのことである。鎖による攻撃は全て磁力によって弾かれ、鎖で防御しようものなら俺ごと磁力で吹き飛ばされる。相性最悪だ。ヒイロが淵帝を連れてきてくれるまで時間を稼がねばならない。
「さすがは原初の刻印の器、なかなかのサンドバッグだ」
「舐めやがって…」
逃げ回っても町が壊れるだけだ。結界が割れたことで入ってきた大量の海水がすでに膝下まで溜まってきている。
「お前に死なれては困るのだ。大人しくしていろ、うっかり殺してしまう」
余裕そうなにやけ顔しやがってあの野郎、だが俺の鎖攻撃は通じない。どうすれば…
「足だけでも削いでおこうか」
そういうと崩れた民家から水道に使われていたのか、鉄パイプを引き寄せ、こちらに飛ばしてきた。
「がっ!」
水辺で思うように動けず足に直撃した。鎖で防御したので刺さりはしなかったものの、衝撃で骨が逝ったかもしれない。
「はっ、器用な真似を」
「トカゲ野郎が…わざわざパイプなんて洒落た真似しやがって…」
…もしかして磁力を操るだけだから飛ばせる武器がないとアイツは攻撃できない?俺も鎖が弾かれるなら、金属以外を使えばいいのか?
「くらえ!」
「学習しない猿だな」
俺の飛ばした鎖は案の定弾き返されたが、その隙に崩れた瓦礫の破片を鎖でつかみヤツに投げつけた。
「よし!やっぱり金属以外なら通る!」
「…どうやら足だけではたりなかったようだ」
油断してたのか、顔にクリーンヒットしたのでキレている。
「まだまだいくぞトカゲ野郎!」
「投げる前に弾くまでだ」
やたらめったらに瓦礫を投げつけた。アイツは周囲に磁力を常時展開しているが、狙ったところの磁力を操るのと同時発動できないようで何発か当たっている。
「…まだあの時の傷が治りきっておらんか…ん?あのガキはどこへ」
「下だぜ」
「!」
「食らえ!超水圧鉄拳!!」
瓦礫処理の隙をついて懐まで泳ぎ、水中で鎖をスクリューのようにして加速させた渾身の一撃をかましてやった。
「がはっ」
数メートル吹っ飛んだ!殴る直前に魔力を切ったから、弾き返すこともできない。完璧すぎる作戦だった。
「…出力最大」
吹っ飛ばされた竜帝がそういうと、俺の体が動かなくなった。
「…あ…れ…何を…?」
「やはり病み上がりで出力をあげるのは身体に障るな」
「くっそ…ここ…まできて…がぁぁぁぁ!!!!」
両手両足に激痛が走る。どうやら磁力で潰されたようだ。先ほどまでこちらが鎖を出していなければなにも出来なかったはずなのに、急に直接干渉してきた。
「失神しないとはやるな。お前はモルモットに向いている。実験に使ってやろう」
「てめ…ふ…ざけんな…」
まずい、このままじゃ負ける。
「…ん?水が…止まった?」
上から降ってきた海水がぴたりと止み、すでに胸辺りまで来ていた水が一気に引いていく。
「フーッ!フーッ!フーッ!」
なにか聞こえてきた。
「そこまでです野蛮な竜人。ここから先は私が相手になります」
少し遠くからそういうのは、先ほどの私服とはことなり、いわゆる完全武装した女王様と、目が血走って呼吸が荒く今にも人を殺しそうな勢いのヒイロだった。
「お前は確か…淵帝と言ったか。我以外に帝を名乗るとは。不愉快な輩よ」
「ヒイロさんは天祢さんの救出を」
「フーッ!フーッ!」
竜帝の意識が女王に向き、魔法が弱まった。その場に倒れ込んだところをヒイロが支えてくれた。
「フーッ!…今は…フーッここを離れようアマネ」
「でも女王が…」
「フ…スゥーハァー……女王様は強いから大丈夫」
ヒイロに背負われながら後ろを向くと女王と竜帝が戦っていた。
「逃すか」
「よそ見とは舐められたものですね!」
「がっ、、この…魔法は…歪の…」
女王の魔法が竜帝の翼を捻り潰した。
「ふっ…痛手を負ったが、すでに二つとも我から…逃れることはできぬ…今日は良い日だ…」
「何を言って」
「…帝王権限、コードネツァリス」
竜帝の頭上に巨大な魔法陣があらわれ、そこから飛騎竜が大量に飛び出してきた。
「!!! ヒイロさん!」
「あぁ、十分離れたぞ!女王!!」
「よし、ならばこちらも本気でいきます!帝王権限、赫空ノ慟哭!」
女王を中心としてこれまた巨大な魔法陣が現れた。どんどん広がっていき、竜帝を飲み込んだ。次の瞬間ただでさえボロボロに崩れていた建物たちが砂となり、出てきた飛騎竜がすべてすり潰され、竜帝がミンチになった。…あの女王はやばい。
「申し訳ありません、逃しました…」
「あの状況から逃げれるだなんて、使える魔法が複数あるのか?」
大量の竜を召喚と同時に自分は魔法で撤退したようだ。
「それより天祢さんの治療をしなければ!恐らくしばらくは大丈夫ですのではやく病棟へ!」
「しっかり捕まってろアマネ!とばすぞ!」
「ごめん…頼んだ…」
両手両足の粉砕に加え出血多量のせいであろう。だんだんと意識がとおのいていった。
「竜帝様が消えたとはどういうことだ!お目覚めになられたのか!」
大事件だ。逃げ出したのか?完全に閉鎖していたというのに、一体どこから…
「いえ、治療ポッドから消えるようにいなくなりました!まるで第一席のネツァリス様の魔法のように!」
「そんなわけあるか!ネツァリスはもう何年も前から音信不通なんだぞ!なにが起きているんだ!」
あり得ない、もしそうなら最悪だ。あの時はとてつもない幸運だと思っていたのに。
「隊長、見張りの者から連絡が。王城の大広間に竜帝様が突然現れたそうです」
「なんだと!生きておられるのか?」
「はい。現れて早々軍議を開くとのことで、四天王に召集命令が出ています。」
「…ふぅ…わかった。すぐに向かおう。ほかの四天王に連絡は?」
「滞りなく。ご移動の準備はこちらに出来ております」
「あぁ、ありがとう…お前たち、ここのことは頼んだぞ」
「は、はい!お気をつけて!!」
ここ十数年、完全に植物状態だった竜帝が目覚めた。もし全盛期の力を取り戻しているのなら、この世界は終わるだろう。だが万が一、乱心される前に戻っていたのなら、あるいは…いや、最悪を想定しておこう。剣聖がいなければ蟲帝も動くまい。そして剣聖はすでに他界している。もう、狂乱の竜帝を止められる者はいないかもしれない。
「隊長?もう着きました。どうかされましたか?」
「いや…ご苦労だった」
「はい、帰りもこの場所でお待ちしております」
「あぁ」
「よぉティオン!相変わらず寒そうな顔してんなぁ!」
「ゲルマニカ様…元気そうでなによりです」
再生のゲルマニカ…次元のネツァリスが死んだであろう今、四天王で最も厄介な男だ。
「おいティオンまだ敬語かよ水クセェなぁ!ってバルトのやつはきてねぇのか」
「私はまだ見ていませんが…」
「なんだ、俺が一番遅いとは珍しいこともあるもんだ」
「おぉバルト!お前は相変わらず顔色がわりぃなぁ!」
「だまれゲル。ティオンも変わりなさそうだな」
「はい、お久しぶりです」
悪魔のバルト…悪魔の腕があるという不可思議な魔法の持ち主、正直言ってもっともそこがしれないやつだ。
「ネツァリスのやつはやっぱこねぇか。じゃぁ入ろうぜ」
「あぁ」
「はい」
王城、竜帝の住まう城。巨大な門の先にいる竜帝は、かつて私を助けてくれた聖人か、それとも多種族を弾圧する魔王なのか…もし魔王なら私は、竜帝を殺さなくてはならない。