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15話

読んでいただきありがとうございました。

俺は今引きずられている。


「僕はこの国の王が魔王なんじゃないかと思うんだ!」


「そういえば魔王ってさっきも言ってたけど、何か知っているのか?」


先刻の戦闘が想像以上に体に響いていたようで、抵抗しても逃げきれなそうだった。悪意があるわけでもなさそうなので、今はなす術なく引きずられている。


「女神様がいうにはこの世界で最も悪いやつってことらしいぞ!」


「この国の王より悪そうな王を知ってるぞ」


「本当か!?ではここの王に会ったら次はそっちに会いに行こう!」


できればここの王に会うのもやめてほしいのだが。俺にはやらなきゃいけないことがあるのだ。


「なんで俺を連れて行くんだ?」


今更だがそう聞くとヒイロは立ち止まった。


「その…君が……この世界で初めて…僕の話を親身に聞いてくれたから…嬉しくなっちゃって………」


「……」


「ごめんなさい!調子乗っちゃってよく考えてなかったよ。迷惑だったよね。ありがとう、僕の話を聞いてくれて。」


「……」


「王のとこには僕一人で行くよ。…またいつか会えたら嬉しいな。またね、アマネ」 


「へっ、水臭いぜ兄弟。俺も一緒に行くさ!」


急に悲しげな顔になりなんだか凄く申し訳ない気持ちになったので、とりあえずここの王様に会うまでは付き合ってあげることにした。思えば俺は転生して目覚めてすぐに枝葉と一緒に行動していた。でももしあそこに枝葉がいなかったら、俺はどうなっていたのだろうか。この子みたいに寂しい思いをしていただろうか。


「ついたよ!ここが…」


「おぉ!ここが…?」


「王城に行くための船着場だ!」


「王城は離れた島にでもあるのか?」


「ふふん、そんなことも知らないのか!王城は海底にあるって看板に書いてあったぞ!」


「海底の城?海の中にあるのか?」


「そうだとも!まぁ僕行ったことないけど」


「とりあえず乗るか」


海淵行きの船に乗り、城に向かうことになった。なんだか怪しい雰囲気の場所、乗り物、店員だ。船といってもゴンドラというやつらしい。片道三十分と少し遠めだが、個室なので思ったより気楽だ。お互い向かい側に座った。


「「それでは発車しまァす」」


ウィーン (扉の閉まる音)


「そういえばヒイロはいつ頃転生してきたんだ?」


「うーん、一週間くらい前かな。雑草を食べて過ごしてたよ」


「そっか…」


ごめん、聞かなきゃよかった…


「あのさ、町のドラゴンを倒したのってアマネ達だよね?」


「え?まあそうだよ。一部だけどね」


「ありがとう」


「?」


そう言ってヒイロは急に頭を下げた。どうしてお礼を言うのだろうか。一週間で雑草生活ならこの町に思い入れなんてなさそうだけど。


「本来なら勇者である僕の役目だったのに。みんなを救ってくれてありがとう」


「おう」


さっきまでの感じとは一変して顔が真剣になった。責任感が強い子だな。


「本当はあの時、お礼を言いに来たんだ。この数日で探しても魔王のまの字もなくて、そもそもまともに取り合ってくれる人もいなくて。だから不貞腐れて海岸でやってた試合を見てて、途中で朝食べた雑草が当たって、トイレに行ってて、戻ったら騒ぎになってて…それで、試合で見た鎖がドラゴンを倒してるところが見えたから、君を探したらあの建物に入って行くのが見えて…でもいざお礼を言おうとしたら、申し訳なさと恥ずかしさで何もいえなくて、結局訳わかんないことばっか言ってて…ほんとにごめん、ごめんなさい…僕勇者なのに…ごめんなさい…」


「大丈夫。泣かないで」


泣き出してしまったヒイロの肩を支える。


「俺、できなかったことを変えようと立ち上がるのは、簡単なことじゃないと思うんだ。ヒイロは今もう一度勇者になろうとしてるじゃないか。君のことを勇者だって言う人はいないかもしれないし、君を勇者じゃないって叱る人もいないだろうさ。俺も君を怒ろうとなんて思わない。俺だって、あの町の全員助けられた訳じゃない。あの町が襲われたのだって、俺に原因があった可能性が高いんだ。だからその責任、一緒に背負うよ。これが救いたいものを助けられなかった俺とヒイロの罰だ。お互いにそのことを忘れないで、世界を救って、一緒に罪を償おう。な。」


まずい、慰めようと思ったけど学がないからありきたりな言葉しか出てこないや…なにが な! やねん…


「………ありがとう…アマネ…ぐすん」


ウィーン


「「えー、到着しましたァってお客様どうかされましたか!?」」


「あ!いえ!なんでもないですよ!!」


まずい、俺が泣かせたようにしか見えない!


「ふふふん!ではさっそく、王に会いに行こうか!」


しばらく落ち込んでたけど、ご飯を食べたら機嫌が治ってよかった。単純だなぁ、悪くしたの俺じゃないけど。俺じゃないよね?


「そう簡単に会えるもんなのか?」


「さっき駅でもらったパンフレットに王は広場によくいるって書いてあったぞ!」


「王ってそんな簡単に会えるんだな。何してんだろ」


そう言うことなので広場に行くと、すごい人だかりである。


「キャーーー今日も美しいわ女王様ーー!!」

「こっち向いてキャーーー!!!」

「眩しすぎるーー!!」


人だかりの中を兵士が柵になるように円状に配備されており、さらに感覚を開けた中心、にこやかに手を振る女性がいた。


「あれがこの国の王か。女王だったんだな」


「おい女王!お前は魔王か!?」


「何言ってんの!?」


いきなりでかい声でとんでもなく不遜なことを言うので驚いた。が、周りの歓声も相当なものだったので運良くかき消された。


「むごごご!!!」


「落ち着け!話し合いに来たのに喧嘩ふっかけてどうすんだよ!…でも何してるんだろうな、あれ」


とりあえずヒイロの口を手でふさいだ。女王は先ほどから一歩も動かす手を振っているだけである。目的が手を振ることだとは思えないが…と、女王の近くにいた側近のような者が声を張り上げた。


「本日の公開謁見はこれまでとする!皆のもの、速やかに解散せよ!これより女王様のご帰還である!!」


どうやら公開謁見なるものが終わったらしい。すると凄い勢いで民衆が散っていき、気づけば一般人は俺とヒイロの二人だけになってしまった。


「どうしたそこの二人、なにかあったのか?」


先ほどの側近さんが心配してか声をかけてきた。


「見かけない服装だな…なるほど観光客の方か。これがこの町の日常なんだ。もうすぐ女王様が城に帰られる。邪魔にならないよう早めに離れてくれ。」


「実はその…」


「?どうした」


「女王は魔王か!?」


「あ!」


こいつ!俺が気を抜いた隙に!


「…おい」


「いや違うんですその」


「マオウとはなんだ?」


…あっぶねぇぇぇ!!知らなくて助かった!!


「魔王とは世界を滅ぼす邪悪のことですよ。」


教えんなよ!と思い声の方を見ると、先ほどまで手を振っていた女性がいた。


「こんにちは、旅の人。私は淵帝、悪い帝王じゃないですよ」

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