13話
読んでいただきありがとうございました。
「大変だ!町に竜人が出たって!」
試合開始の直後、それは突然聞こえてきた。
「なんだって!今からってときに!」
「試合どころじゃねぇ!逃げねぇと!」
「傭兵組合本部あたりに出たらしいぞ!」
「くそ、今は逃げるか!」
駆け込んできた一人の叫びによって観客席は阿鼻叫喚である。
「おい紅林、どうする?ここにいるわけにもいかないんじゃ」
「試合を見たいですが…助けに行きましょう!竜人なんてボコボコにしてやるんです!困ってる人は助けないとですよね!」
「わかった。枝葉たちは…まぁ被害に遭うことはないだろうけど、伝えた方がいいんじゃ」
この大会の結界は試合開始の合図と同時に展開される。中の様子はみえるが、中からは声がほぼ聞こえないのだ。
「じゃあ今からさっきの傭兵登録したところに行くか」
「いきましょう。早くしないと死人が出てしまうかもしれません」
「ごめん枝葉!試合見れないけど頑張ってくれ!」
聞こえないとは思うが一応、一言いっておいた。
「ここに原初が来ていると聞いたんだが?」
「し…知りません…」
「じゃあ死ね」
試合をしてた海岸から組合本部棟まではさほど離れていないが、本部周辺はすでに壊滅的だった。先ほどまで本部だったボロボロの建物に入ると、先ほど受付をしてくれた職員が首を絞められていた。
「その手を離せよトカゲ野郎」
「あ?誰だよお前は。今仲良く話してんだけど」
「俺が鎖の魔法使いだ」
「鎖?…!原初か!」
「キャァ!」
目的が俺であることに気づくと職員を投げ飛ばしてこちらを向いた。対面するとやはり町や村で見てきた種族とは体格も魔力の気配も段違いに強い。この人どこかで見たことある気がするな。気のせいか?
「大丈夫ですか?こっちです!」
「は、はい、ありがとうございます」
紅林が職員をうまく受け止め、外に連れ出してくれた。これで人を巻き込む心配もない。この建物もすでに廃墟なので多少悪化しても問題ないだろう。
「この町を襲ってるのはお前一人か?」
「で、大人しく来てくれるのか?」
くそ、答えないか。今のところ最悪なタイプしかいないな竜人は
「行くわけないだろ」
「だろうなぁ」
気づいたら目の前に拳があった。急いで背中から地面に鎖を出し体ごと引っ張る。
「危なっ、大人しく行ってても殴ってただろ!」
「お前程度がオレの弟を殺ったのか?本当に?」
「は?弟?」
なんだ俺に恨みがあったのか。問題は心当たりがないことだが…もしかして鬼人族の村を襲ったやつのことか?
「鬼人族の村にいたやつか?」
「…知ってるってことはやっぱお前か」
そういうと手をこちらにかざした。
「ライトニング」
手から黄色い光が迸る。
「ギャァァァァ!!!!…あ?」
光が俺の体を貫いた。とてつもない衝撃と熱、爆音に驚いてしまったが、不思議と体自体は普通だった。直前に鎖で防御したが、もしかして金属だから電気が逃げたのかもしれない。
「効かない?なぜだ。まあいいか バーニング」
「鎖式ファイヤウォール!」
絶対火だ!と思ったので大量の鎖で前方に防火壁をつくる。
「原初は単純だが高性能という噂は本当だったか。面倒臭い バーニング+ライトニ
「くらえ!刺し殺す鉄鎖!!」
防火壁に隠れて魔力を練り隙間から圧縮した鎖を一直線に打つ。螺旋を描きながら竜人の腹を貫いた。
「が…あ…あぁ、中々やるようだが」
「再生した!?」
「その程度では殺せない」
いくつも魔法使うしコイツさては四天王か何かだろ!再生スピードもえげつない、こちらの体力がもたない。
「生きて連れこい言われているが…面倒だ殺すか」
そういうと口の中がだんだんと光る。これ前世でも見たことある。破壊光線だ。
「させるか!」
急いで地面に手をつけ、魔力を竜人の足元に送る。
「口を閉じれば撃てないだろ!妨害鎖パンチ!」
竜人の足元から拳状の鎖を勢いよく射出し、顎に直撃させた。
「んが!」
たまたま破壊光線(予想)を撃ってくる直前だったため、口の中で暴発した。
「あぁぁあぁ…やりやがったなクソガキが」
「大人しくしろ、さもないと死ぬことになるぞ」
「ぁあ?やれるもんならやってみろや」
口の中でなにかが爆発して血を大量に吐いたのにすでに治ったようだ。これは一筋縄ではいかない。
「俺がついていけばこれ以上町を壊さないのか?」
「………そうだな約束してやる。お前を大人しく手足を切ってもっていけるならオレたちは撤退しよう」
ちくしょう、勝てないかもと聞いてみたが今の間、何してもこの町壊すつもりだろ。しかも手足切られるのかよ。舐めやがって
「なんで原初とやらが必要なんだよ」
「答える必要ないだろ」
「くそっ…炸裂爆鎖」
「は?…ぅがっ!あ」 バタン
先ほど鎖でアッパーしたときにその破片をトカゲの体内へ残しておいたので、そこから魔力を送り込んで脳を貫いた。口が傷ついた直後に再生したのには驚いたが、やはり脳さえ傷つければ竜人といえどもただでは済まないらしい。
「死んだかわからないし追い討ちしとこうかな」
鎖で簀巻きにして残ってた天井の梁に吊し上げ、頭を重点的に鎖で何発か貫いた。
「他のやつらがいないか確かめないと!」
外に出ると竜人というか普通にドラゴンのような生物と町の傭兵が戦っていた。さっき試合をしていた人たちも戦っているようだ。しかしドラゴンの数が多く、苦戦している。
「とりあえず見晴らしのいいところに…」
近くの建物の屋上へ登り、地面に手をつけて集中する。
「くそっなんでこんなとこに竜人のやつらがいるんだっ!」
「しかもこいつらやたら強いぞ!高等級の傭兵はいないのか!」
「海岸試合に出てたやつ以外は今ほとんどいないらしいぞ!」
「こういう時のためのやつらじゃないのかよ!」
怒声と悲鳴が聞こえる。金属と爪のぶつかる音、肉が裂け血が溢れて倒れる音、戦争で人が死ぬのは現世となんら変わりなかった。
「俺が絶対助けてやる!」
これ以上ないほどに魔力を込める。身体中の全ての魔力を注ぎ込む。なんか地面が光り出したが、多分魔力切れで目がおかしくなったのだろう。そうだよ、組合で魔力切れっていわれて、試合前後にポーション飲んだとはいえ実質連戦みたいなものだ。もう魔力が残っていない。
「超、、足止め…鎖アタック…広範囲バー…ジョン…ぐへ」
ぼやける視界で周辺のドラゴンを鎖で簀巻きにしたのを確認するとそのまま倒れ込んだ。
「お前新入りなのか!俺はOO!俺たち今から友達な!」
「う、うん…よろしくね」
「ははは!新しいやつが来るなんていつぶりだ!?」
「私はXXよ。よろしくね」
「新しいともだち、うれしい。」
「…さん…天祢さん!大丈夫ですか!?」
「んあ!…やっぱり夢か」
「生きててよかったです!天祢さんのおかげで無事に全ての飛騎竜を倒せました!」
あのドラゴン飛騎竜って言うのか。誰も乗ってなかった気がするけど。
「役に立てたならよかったけど…あれからどれくらい経った?」
「えっとニ時間くらいですかね」
なるほど、前世の夢を見た気がしたが、寝てたのか。
「結構寝ちまったな。怪我人とかは?」
「怪我人は大勢いて、今町中の治癒師が頑張ってくれてます。死者は数名、竜人が落ちてきた衝撃に巻き込まれた人と傭兵です。」
「くそっもっとはやく目的に気づいてたらよかったのに…俺がこの町にいたせいで…うぅ…ごめんなさい…」
いくらアイツらが急にやってきたとはいえ、もっとやりようがあった気がする。俺が魔力切れなんて起こして気絶しなければ怪我人も減ったかもしれないのに。
「…私も何匹か相手にしましたが、とても強い相手でした。一匹一匹が村なら滅ぼせるレベルです。傭兵がいて、天祢さんと枝葉さん、奏さんがいなかったら、間違いなく滅んでました。天祢さんのおかげで全ての飛騎竜が一斉に地面に叩き落とされて近くにいた傭兵が安全に討伐できたのも、これ以上被害が出なかったのも天祢さんのおかげです。何も悔やむことはありません」
「そうだな…そうだよな…やれることはやったか」
そうだよ今よくわかんないことで悔やんでいる場合ではない。竜人の狙いが俺たちである可能性はもうわかったことだ。
「…枝葉たちも戦ってくれたのか?」
「しばらく試合してたらしいんですけど、外の様子がおかしいことに気づいて二人で結界を裂いて駆けつけてくれました。残りの竜人はお二人が生け取りにしてくれましたよ。」
「さすがは決勝戦二人だな」
「これから尋問するらしいです。天祢さんも目が覚めたら来てくれって言ってました」
「そうか。じゃあ行くか」
そうしてその場を離れた。とらえた場所に向かうまでの道のりでは崩れた家や燃える残骸、泣き叫ぶ子供や怪我人がたくさんいた。
「おぉ!紅林!無事だったか!」
「あ!ボルガさん!」
試合で一回戦目に戦った人か。生きてたんだな、よかった。
「一応竜人共の制圧が確認されたそうだ。試合で見てたがお前の魔法やっぱすげぇな!」
「いやぁそれほどでもありますけども〜」
「そういや最後の方に飛びトカゲ共を拘束した大魔法ってお前の連れがやったのか?」
「そうです!こちらの天祢さんがやってくれました!」
「どうもこんにたはボルガさん。町を守ってくれてありがとう」
「天祢っていうのか。あの魔法使ったのお前なんだな」
「え?そうです多分。鎖で拘束しました」
「二人とも本当に…この町を守ってくれてありがとうございました」
深々と頭を下げて感謝された。
「ええ!?いやいや頭あげてくださ痛ったい頭がぁぁ!!」
「大丈夫ですか天祢さん!?」
「うん…大丈夫…そういえば魔力切れだった…」
「あれだろ、尋問見に行くんだろ?もう一人の連れがやってるっていう。吾輩の台車に乗れ、そこまで連れて行こう。」
「断るべきなんだろうけどお言葉に甘えさせてもらうよ…ありがとう」
「あの魔法がなきゃ間違いなくもっと大勢が死んでたさ。英雄様御一行は休んでてくれ」
すごくいい人だった。目が覚めたとはいえまだ戦いの疲労が溜まっていたのか、少し寝てしまった。
「ガハハハ!!紅林も奮闘していたな!竜人相手に全然するとは!」
「いえ相手が火系統の魔法だったので私のガスで自爆させただけですよ!相性がよかったです」
「お前は引火しなかったのか…?」
「前髪焦げました!でもボルガさんの砲撃もすごかったですよ!飛騎竜を何匹もぶち抜いててかっこよかったです!試合では全然本気じゃなかったんですねー!」
「いや…結構本気だったんだが…」
「…よし、もうそろそろだ、起こしてくれ」
「天祢さん着きましたよ」
「ん…ありがとう…」
十数分とはいえよく寝れた。しかし尋問となると鬼人族の村でのことを思い出す。下っ端は何も知らないのだ。
「天祢!無事だったんだね」
枝葉が駆け寄ってきた。
「あの魔法もしやとは思ったけど…魔力が尽きてるじゃないか、これ飲んで」
「枝葉も無事でよがぼぼぼぼ」
口に魔力ポーション的なのを突っ込まれた。
「じゃあとりあえず中に入ろうか。ボルガさん、二人をここまで送ってくださりありがとうございました」
「いいってことよ!じゃあな!」
優しきクマさんことボルガさんは行ってしまった。
「よし、今日は尋問のスペシャリストがいるからね。」
「結構嫌な方面の方がいるんだね」
「あなたは…鼻血のメルタさん!」
「変な異名つけてんじゃねぇぞ!」
紹介されたのは準決勝で枝葉相手に恐らく自爆したメルタだった。
「彼の魔法は相手の記憶を見ることができるらしい」