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8話 異世界召喚された少女

 お祈り中に急に現れた少女はキョロキョロ周りを見渡していた。

 年は私より少し下くらい?黒髪のショートヘア、白を基調にしており紺色の襟に赤いスカーフを巻いている。そして膝上くらいの紺色のスカート。


 見たこともない服だが民族衣装か?見ていると少し欲情してきた。背中にはリュックと剣の様な物が入った袋を肩に掛けていた。


 僕の存在に気付くと何やら話しかけてきた。しかし、何を言っているのか全然わからない。

 この世界では種族ごとにそれぞれ独自の言語を持っている(只人族(ヒューム)の国で暮らす異種族は基本的に只人族の言語を話してくれている)。

 僕も齧った程度だが、多種族の言語は少しなら分かるのだけど、少女の言葉は聞いた事が無く全く理解できなかった。


「な、なな何者にゃ?光ったと思ったら急に只人族の女の子が現れたにゃ!」


 他のメンバーの所に行きかけていたシャルル。少女が急に出現した事にびっくりして固まっていたが、理性を取り戻す。

 シャルルの猫の耳がピンと立ち、尻尾が大きく膨らんでいる。完全に警戒モードだ。

 少女が敵か味方かも分からないため、警戒しナイフを構える。それにびっくりしたのか少女が怯えた表情になる。


「シャルルさん、落ち着いてください。彼女に敵意はありません。何を言っているかは分かりませんが、必死に説明をしているだけの様です。他の人達を呼んできてくれませんか?」


「だ、大丈夫なのかにゃ?」


 僕が頷くと他のメンバーの元へ向かった。

 シャルルがいなくなると安堵の表情になる。そして再び語りかけてくる。


 僕が言葉が通じていない事を理解したのか、鞄から紙とペンを取り出し、絵を描き出した。

 凄い上質の紙だな、え?このペン、インクを付けずに描いてない?魔法道具?そんな事を考えてるといつの間にか絵は完成され、僕に見せてきた。


 えーなになに…

 女の子が歩いてる。

 すると大きい箱がぶつかり女の子は死んじゃう。

 死体から魂が抜ける。

 その魂は女神様の所に行く。

 女神様から説明を受けここに飛ばされる。

 最後はお祈りしている僕と女神像の間に女の子が飛ばされる絵が描かれていた。

 なるほど、簡単な絵だけど実にわかりやすい。っていうか絵が上手いなこの子。…ん?


 僕は絵の女の子と少女を交互に指さす。すると言わんとしているのが分かったのか少女は頷く。

 次にお祈りしてる男の子と自分を指さし、これも頷く。

 最後に絵の女神様と女神像を指さすとこれも頷いた。


 嘘だろこの子、イーリス様に会ったの?え?マジ?女神像にそっくり?美人?オッパイは?そんな事を考えていると他のメンバーが到着した。


「何があったんだアルフ!シャルルの説明だと興奮していて要領を得ない」


「皆さん、どうやらこの子は女神様に会ったようです」


「女神様?何を言っとるんじゃ、お主は?」


 どうやら僕も興奮している様だ。だって僕が崇拝している女神様に会ったんだよ!実在しているんだよ!興奮するなというのが無理だろう!

 しかし僕はなんとか心を落ち着かせ、少女が描いてくれた絵を元に説明をする。


「…そ、そんな事が?本当なのか?」


「じゃが何もない所から急に現れたのは事実だろう?アルフだけじゃなくシャルルも見とる」


「ま、間違いないにゃ!」


「要するにこいつは女神様を通して異世界から召喚された。という事か?」


 リリスさんが少女をじっと見つめる。かつて魔人族(ジーニー)の魔王は異世界召喚された勇者に倒された歴史がある。そのため、異世界人に対しあまり快く思わないのだろう。

 少女は借りてきた猫の様に僕達の話し合いを静かに聞いていた。


 リリスさんは少女に話しかける。しかし、その言葉は只人族でも魔人族の言語でもなかったが、少女には理解できた様で初めて話が通じる人がいて喜んでいた。


「ちょ、ちょっとリリスさん!この子の言葉が分かるんですか?」


「ああ、少しなら」


「どうして異世界の言葉が分かるのかはこの際置いといて、彼女が何を言っているのか教えて下さい!」


「概ね、お前が言っていた通りだ。事故で死に、女神様によりこの世界に召喚された異世界召喚者だ」


「本当に女神様に会ったんですね?この女神像のモデルとなったイーリス様ですよね?」


 リリスさんの通訳によりようやく話が通じるようになり、少女はコクコクと頷いた。


「それで女神様はなんとおっしゃってたのですか?」


「こいつが不慮の事故で死んで不憫だったから、この世界で2度目の人生をエンジョイするように言われたそうだ。そして女神様の信徒であるお前に面倒を見て欲しいとここに送ったと…」


 そして僕は涙を流す。

「!?リーダー、何故泣いているにゃ?」


「これが泣かずにいられますか!僕が信仰しているイーリス様が実在していたんですよ?しかもこの僕の存在を知って頂いていたばかりか、頼りにしてくださるなんて!か、感動で涙が止まりません!」


「お、おう、そうか…」


「よかったな…」


「はっ!そ、そうだ!イーリス様はどの様な方でした?女神像とそっくりですか?」


 少女がまた紙とペンを持つ。しばらくすると。

「こんな顔だったそうだ」


 少女が描いたイーリス様の似顔絵を見る。


「な、なんてお綺麗な方!さすがイーリス様!それにしても絵が上手いですね」


 絵を褒められて少女は顔を赤く染める。


「体の方はどうですか?」


「体?」


「どの様な格好をして入るとか…まさか神様には服を着る概念がない?裸ですか?オッパイは?形とか大きさは?女神像より大きいですか?」


「お主、まさか自分が信仰してる神様に欲情してるんじゃないだろうな?」


「それだけはやめとけ。罰が当たるぞ?」


「ばっ、なっ何を言ってるんですか!?僕はただ敬愛するイーリス様がどの様な姿しているのか気になっただけですよ!決していかがわしい事は考えてません!」


「その割には胸が気になっとったようだがのぅ」


「そういえばリーダー、さっき女神像を掃除しているとき胸ばっかり拭いてたにゃ…」

 ちっ、この猫娘め。余計な事を。


「それで、この子はどうするんだ?」


「イーリス様の御神託がありますからね。彼女さえよければ僕達と一緒に来ませんか?えーっとそういえば名前は?」

 リリスさんが伝えると、

「トモエ!アキバ・トモエ!」


「えっと、トモエ・アキバトモエさんですか」


「!?」

トモエ・アキバトモエさんはリリスさんに話しかける。


「あー、名前がトモエで、苗字はアキバだそうだ。異世界では苗字が先らしい。だからアキバ・トモエが正解だそうだ」

 なるほど、そんな違いが。


「失礼しました。僕はアルフ・ガーレン、女神イーリス様の信徒で冒険者をしています。そして、僕が所属する冒険者パーティ“闇鍋(シークレット・ポット)”のメンバーのエルノールさん、ブルーノさんにシャルルさん、そして通訳してくれていたのがリリスさんです。僕達でよければ貴方の力になりましょう」


 僕が手を差し出すとトモエさんは嬉しそうに頷き手を握り返した。


 バキッ、ビキッ、ブキッ、ベキッ、ボキッ。


 何の音だろうか?

 音の方を見るとトモエさんに握り潰された手だった物があった。僕の右手だ。

 視覚情報で確認した事で、今更ながら痛みを感じて来た。


「手がー!僕の手がー!!」


 びっくりする一同。トモエさんは自分がした事が信じられないのか手をまじまじと見ている。

 僕は自分に治癒魔法をかける。

 すると初めて見る魔法に感動したのか、自分がした事を忘れて喜んでいる。

「∬ー!%■*!≠◉⌘!◆¥⇔◇※!」

 言葉は分からないが、興奮しているのは表情から読み取れる。

 

 そして僕の左腕をぽんぽんと軽く叩く。

 彼女にとっては軽く触れる程度の行為だったようだが、1回目で上腕骨を、2回目で衝撃が貫通して肋骨を粉砕し、3回目で僕は踏ん張れず吹き飛ばされ壁に激突。意識を失った。


 目が覚めると教会のベッドで横になっていた。

 左腕には当て木と包帯に三角巾、胸にも包帯が、まかれてあった。

 僕以外このレベルの怪我を治せる人はいないからね。教会の人たちが処置を施してくれたようだ。


 トモエさんは自分がやらかした事に気付いたのかずっと泣いていた様だ。僕が目覚めると安堵の表情を浮かべた。

 そしてリリスさんが彼女から聞いた事を話す。


「異世界人は召喚時に体が作り変わるそうだ。その際に何かしらの能力を得る。トモエの場合は見る限り“怪力”の様だな」


「“怪力”か、ちょっと触っただけでこれじゃあかなわんのう」


「しかし、能力ならコントロール出来るんじゃないか?まぁそれまでが大変だが…」


「幸いな事にうち“闇鍋(うち)”にはどんな怪我も治せるヒーラーがいるにゃ」


「そうだな、しばらくトモエの面倒はアルフとリリスに任せよう」


「ばっ!?な、なんでアタシまで?」


「通訳ができるのはお前だけだろうが。トモエがこの世界の言語を習得するまでの我慢だ。それにテイマーなら、暴れる魔獣を手なずけるのは得意分野だろう?」


「トモエは魔獣じゃない!」


「でも危険度は魔獣以上だぞ?」

 エルノールさんが冷静に指摘する。


 肋骨が肺に刺さったのか呼吸や発声が上手くできない。息をするだけで激痛が走る。いくら治せるといってもこれはきついよ。

 誰か、お世話係り代わってください!怪我をしても僕が責任持って治すから!僕の視線に気付いたメンバーは即座に目を逸らした。この薄情者どもめっ!


「まあ、女神様の御神託だからな。アルフが頑張るしかないだろう」

「がんばれにゃ、リーダー」

 メンバーたちは同情の目を向けながらも、誰も代わってくれる気配はない。


 リリスさんはトモエさんに今の会話の流れを説明したのだろう。話が終わると頭を下げた。

「『よろしくお願いします』だそうだ」





〜〜〜〜〜




 どうにか喋れるくらいに回復した僕は自分で治癒魔法をかける。

 ハルマンさん達には悪いが、トモエさんの事は異世界召喚された事やイーリス様に会った事は伏せ、盗賊に襲われて命からがら教会に逃げ延びた事にした。


「盗賊に?それは大変でしたね。怪我はありませんか?」

「幸い軽傷で済みました。ただ、ショックで記憶が曖昧になっているようです」

 ハルマンさんは心配そうに眉をひそめている。嘘をつくのは心苦しいが、仕方がない。


 異世界転移した者はトモエさんの様に特殊な能力を得やすく、利用しようとする者が出てくるだろう。イーリス様に会ったというのも教会からすれば大事件になる。無闇に言わない方がいいだろう。


 トモエさんの面倒をみるにあたりいくつか約束をした。

 まず、能力のコントロールが出来るまで無闇に人に触らない事。異世界人である事やイーリス様に会った事があるのは秘密にする事。

 トモエさんはコクコクとうなずいた。

「『わかりました。気をつけます』だそうだ。」

 リリスさんの通訳により、トモエさんの返事が伝わる。真剣な表情で頷いているので、理解してくれたようだ。

 でも本当にコントロールできるようになるのだろうか。不安は尽きない。



 異世界の服は目立つのでレイさんから修道士の服を一着頂いた。制服姿は可愛かったが仕方ない、名残惜しいけど修道服を着てもらう。

「あの、これを着てもらえますか?」

 レイさんが差し出した修道服を見て、トモエさんは少し困ったような表情を浮かべる。

「異世界の服では目立ってしまうので……」

 リリスさんが事情を説明すると、トモエさんは納得したように頷いた。

 着替えた後のトモエさんを見ると、制服とは違った清楚な魅力がある。修道服もなかなか似合っているじゃないか。


 これは後で気付いたのだが、トモエさんが所持していた物も全て特殊能力が付いていた。

 例えばカバンはマジックバッグになっており、容量はわからないが物を入れ放題(少なくともメンバーの荷物は余裕で入った)。


 怪我も完治したので、ハルマンさん達に別れを告げ、ヒルランテの街を目指す。

 依頼の報告とトモエさんの冒険者登録をしないと。剣が扱えるみたいだしジョブは剣士(ソードマン)だ。

 彼女は魔法職になりたかったみたいだけど、そんなに魔力が高くないみたいだ。

 っていうか軽く触っただけで人体を破壊出来るのに後衛職なんて勿体無いわ!


 馬車でヒルランテに帰る道中、トモエさんが妙な呪文を繰り返していた。

 リリスさんに通訳を頼むと「ステータスオープン」と言ってるそうだ。

 す、ステータスオープン?一体どんな呪文だ?

 何でも彼女がいた世界“アトラス”には異世界召喚されるとステータス(強さなどを数値化したもの)を見る事が出来る。という書物がいっぱい出回っているらしい。

 残念ながらこの“プリステラ”にはそのステータスというのはない。それを伝えるととても悲しそうな顔をしていた。

「そんなに落ち込まなくても……」

 僕は慰めようとするが、言葉が通じないのがもどかしい。


 道中都合良くゴブリンが3匹出現、Fランクの魔獣だ。ちなみにFランクの魔獣は単体ならその辺で農夫でも倒すことができる。攻撃力が貧弱な僕でも、魔法で動きを封じた後に丈夫な棒でタコ殴りにして倒すことができたくらいだ。

 試しに1匹をトモエさんに倒してもらう事になり、彼女にはショートソードを渡す。


「大丈夫ですか?無理はしないでくださいね」

「『だ、大丈夫です…多分』だそうだ」

 トモエさんの声は震えている。剣道の経験があると言っていたが、実戦は初めてなのだろう。


 初戦闘という事もあり物凄い屁っ放り腰で目を瞑りながら悲鳴をあげ剣をブンブン振り回していた。

「『きゃー!怖い!怖い!』」

 完全に我を失っている。これでは戦闘になるまい。でもリリスさん、別に悲鳴まで通訳しなくていいんだよ?


 そのうち一振りがたまたまゴブリンに当たる。ゴブリンはしっかり棍棒で受け止めるが、ショートソードは棍棒ごと体をすり抜け大地に根元まで刺さり、そして折れた。


「『え?』」

 トモエさんも何が起こったのか理解できずにいる。だからそこまで通訳しなくていいってば。表情や仕草で戸惑ってるのは伝わるから。


 いくら低ランクの魔獣とはいえ、あの安物のショートソードで真っ二つするなんて…間近でゴブリンの惨殺死体を見たトモエさんは吐いているけど、一同ドン引きしている。


 休憩中、初戦闘で疲れたトモエさんを癒やすためにカールちゃんの力を借りる。アニマルセラピーというやつだ。魔獣だからある程度なら耐えられるだろうと思ったのだが、どうやら考えが甘かった。


 僕とリリスさんが見守る中、彼女が軽く抱きしめると聞き覚えのある骨が砕ける音が。

「キャンッ!」

 カールちゃんの悲鳴が響く。


 僕はすぐに治癒魔法をかけ、見事に全快するもカールちゃんは完全にトモエさんをビビっている。

 そして今までは僕の事を下に見ている節があったけど、この事件を機に友情意識が芽生えた。

「クゥーン…」

 カールちゃんが僕の足元に寄り添ってくる。同じ被害者同士、分かり合えるものがあるのだろう。今後も僕は事あるごとにトモエさんの犠牲になるのだが、その度にカールちゃんが慰めてくれる様になった。


 そしてヒルランテに到着し冒険者ギルドへ。


 マーリンさんに依頼達成の報告とトモエさんの冒険者登録を済ませる。

 マーリンさんはトモエさんに冒険者の説明をする。

「冒険者はギルドを通して依頼を受けます。内容は迷子になったペットを探したり、魔物の討伐や素材の回収、遺跡の探索、貴重なアイテムの回収だったりと様々な物があります。依頼には危険度によりF〜Sにランク分けされており、冒険者は自身のランクに合った依頼しか受けることが出来ません。トモエさんの冒険者ランクはFですので受けることができる依頼はFとEランクの物になります。例えば冒険者ランクがCに上がればD〜Bランクの依頼を受けられるようになります」

 トモエさんはリリスさんを間に挟み、マーリンさんの説明を真剣に聞いている。

 説明は無事終了し、トモエさんはFランクの冒険者ギルドのカードとパーティメンバーのカードを貰う。


 トモエさんは嬉しそうにカードを眺めている。イーリス様の言う通り、この“プリステラ”を楽しんでくれればいいなと思う。

「『これで私も冒険者だね!』」

 満面の笑みを浮かべるトモエさんを見ていると、この先の冒険が楽しみになってくる。


 こうして“闇鍋”は6人パーティとなった。

 でも正直、トモエさんの怪力が制御できるようになるまで、僕の身が持つかどうか心配だ。

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