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6話 “闇鍋”の初依頼

 王都とヒルランテを繋ぐ街道に小さな教会がある。旅人が礼拝出来るように建設されたようだ。


 その教会が先日魔獣に襲われた。魔獣は討伐に成功したが、教会にいた司祭が1人と修道士が2名、護衛のため常駐している見習いの修道騎士(テンプルナイト)が1人重傷を負ったようだ。簡単な回復魔法しか使える者がおらず、一命はとりとめたがまだ動ける状態ではないそうだ。


 今回私に来た以来は負傷した者の治癒と結界の張り直しだ。


 僕たちは馬車に揺られ、街道沿いの教会を目指す。

 “闇鍋シークレット・ポット”の初仕事だ。

 教会まで1日と半日。


 ブルーノさんが御者をして、屋根の上でシャルルさんが見張りを行なっている。


「9時の方向、オーク3体!」


 獣人族(ビースト)は五感が人より優れている。特に猫型は目が良く、斥候(スカウト)にピッタリだ。


「火の精霊よ、我が敵を射抜く燃え盛る矢よ……」

 エルノールさんすかさず詠唱を始める。同時に……

「行けカールちゃん!」


 リリスさんの指示でカールちゃんがオークに突っ込む。オークの攻撃をかわしながら噛みつき、足止めを図る。

 カールちゃんの動きは素早く、オークたちは完全に翻弄されている。さすがはBランクのテイマーだ。


「よし、離れろ!」

 リリスさんの指示でカールちゃんがオークから距離を取ると、


「フレイム・アロー!」


 詠唱が終わり、エルノールさんから複数の火の矢が出現しオークに直撃、動かなくなった。

 魔法の威力もさることながら、タイミングが完璧だった。これがBランク魔術師の実力か。


 それにしても、なんて楽な旅なんだ。ソロ経験しかないリリスさんもあっけなく戦闘が終わり、少し物足りなさそうだ。


「なんだか変な気分だ。こんなに戦闘が早く終わるなんて」


「ふふ、私も連携を取るのは久しぶりだから気持ちはわかる。ソロだとこうはいかないからな」

 エルノールさんも満足そうだ。久しぶりの仲間と戦う喜びを実感しているのだろう。


「ワシらは出番なかったのぅ」


「ははは、それだけアタッカーが優秀だったという事です。シャルルさんも見張りご苦労様です」


「ウチも大した事してないにゃ」


「そんな事ないですよ。シャルルさんが事前に敵影を感知してくれるから、こちらは奇襲を受けずに準備万端で敵を迎え打てるんです。大事な役目ですよ」


「そうそう、索敵は冒険者の基本だからな」

「嬢ちゃんがおらんかったら、ワシらはオークに囲まれとったかもしれん」

 エルノールさんとブルーノさんも同調する。


「ふふ、ありがとうにゃ」


 シャルルさんの表情が明るくなった。やはり年少者には励ましが大切だ。



〜〜〜〜〜



 こうして何度か魔物に襲われるも無事に教会へ辿り着く事が出来た。


「君は…アルフ?教会から冒険者に依頼したと聞いたけど、君が来てくれたのか!」


 教会に入るなり声をかけてきたのは修道士のエレン・ナード。僕と同じ孤児院で育った幼馴染だ。


「久しぶりですねエレン。貴方の傷は大した事なさそうでなによりです」


「ああ、俺より司祭様の方が重症だったんだ。それにしても、まさか君がパーティを率いて来るとは思わなかった」

 エレンは僕の後ろにいるメンバーたちを興味深そうに見ている。


「とりあえず司祭様の所へ、貴方の治療もそこでしましょう」


 僕達は寝所へ移動する。

 司祭は右手と左足が折れ、腹部が引き裂かれている。

 修道騎士見習いは左腕が欠損しており、意識がなかった。

 もう1人の女性の修道士は軽症だったのか2人を手当していた。

 部屋に入った瞬間、メンバーたちの表情が強張った。特にシャルルさんは血の匂いに敏感な獣人族だけあって、顔を青くしている。


「大丈夫ですか、シャルルさん?」

「な、なんとか大丈夫にゃ…」


「おお、アルフ殿、このような格好で申し訳ない」


「寝ててください。さっそく今から治療します。エレンたちも一ヶ所にいて下さい」


 ベッドから起きようとした司祭を寝かせ、治癒魔法を唱える。

「光の神イーリスよ!砕けし肉を繋ぎ、深き傷を閉じ、希望の光を与えたまえ!ホーリーライトヒーリング」


 エリア内の者の傷を癒やし、さらに欠損部までも再生する事が出来る上級魔法だ。教会の方々の傷は瞬く間に治った。


「な…あの傷が治るのか?」


「ほう、なくなった腕が再生するとは」


「リーダーって凄かったんだにゃ…」


 エルノールさんとブルーノさんは驚いているが、どこか納得したような表情も見せている。元大司教という肩書きは伊達ではないということを理解したのだろう。

 リリスさんは相変わらず無表情だが、僕の魔法をじっと観察していた。


「少しは僕の事見直しましたか?」


 パーティメンバーにいい所を見せる事が出来たようだ。戦闘では出番なかったからね。


「申し訳ない。私は下級の治癒魔法しか使えず…」


 下級だと切り傷程度しか治せない。この怪我に使っても止血程度しか出来ないだろう。

 上級の治癒魔法は教会でも限られた者しか使えない。確かに僕に依頼をかけたのは妥当だった。


「この教会の管理を任されている司祭のハルマン・メルクといいます。」


「“闇鍋”のアルフ・ガーレンです」


「元大司教のアルフ様にお会い出来るとは、光栄です」


 ハルマンさんが握手を求める。


「そして娘の…」


「レ、レイ・メルクです。アルフ様の様な聖職者になるのが私の目標です!」


 もう1人の修道士レイさんがキラキラした目で話しかけてくる。年は僕と同じくらいだろうか。父親譲りの真面目そうな顔立ちをしているが、今は完全に目を輝かせている。


「す、凄い!本物のアルフ様だ!俺、大司教を就任した時の演説の場にいたんです!あ、申し遅れました!見習い修道騎士のバン・サルスです!この度は俺の力不足でアルフ様の手を煩わせてしまい申し訳ありません!」


 意識が戻ったテンプルナイトの鎧を着たバンさんが手を握るってくる。彼は僕より少し年上に見える。がっしりした体格で、修道騎士らしい誠実そうな顔をしている。でも今は完全にファンボーイ状態だ。


「でも本当に残念だよな。このまま教会にいたらアルフなら枢機卿…いや教皇にまで絶対なれたのに」とエレン。


「へー、ずいぶん慕われているんだな」

「うむ、意外だのぅ」


「何言ってるんですか!アルフ様はたった15歳で大司教まで上り詰めた方ですよ!史上最年少で!しかも神聖術に関しては教皇様クラスの魔法を使えるというのに…この方がいなくなるということが教会にとってどんなに損失だったか…」


「でも冒険者になったのもきっと崇高な目的があってのことだと思われます」


 これだから教会の方と会うのは苦手なんだよなぁ。

 僕はそんなに尊敬されるような人間じゃないのに。心が痛む。

 まさかハーレムや酒池肉林が目的で冒険者になったなんてこの人たちには死んでも言えない。

 僕なんかが大司教になれたのも、ただ他の人より神聖術の才があって要領がよかっただけなのに。

 

「でもこれだけの魔法が使えたなら、どうしてわざわざパーティを作ったのかにゃ?リーダーならいっぱい勧誘されそうだけど」


「同じ冒険者なのにわかってないですね。アルフ様がどこぞの馬の骨が作ったパーティで満足するはずないでしょう!自分で一から作ったパーティで成り上がるためですよ。ね!アルフ様」


 この人は僕を持ち上げてどうしたいんだろう?ただ単に覗きとかセクハラがバレて、どこのパーティにも入れてもらえなくなっただけなのに。

 僕の裏の顔を知っているエルノールさんとブルーノさんの2人は微妙な顔をしている。

 リリスさんは「また始まった」とでも思っているのか、完全に興味を失っている様子だ。


「話はそれくらいにして、仕事は終わってませんからね。次はこの教会に結界を貼らないと」


「す、すみません。つい興奮してしまって…」


 僕は教会の外に出て呪文を唱える。

「光の神イーリスよ!この地を汝の御座となし、あらゆる魔獣を遠ざけたまえ!グレーター・サンクチュアリ」


 魔獣避けの結界を張る。これでよほどのことがない限りこの教会には近付いて来ないだろう。


 さて仕事も終わった事だし。

「帰るとしますか」

 僕は居心地が悪いのですぐに帰ろうとするが、

「もうお帰りになるのですか?お礼に晩餐の準備をしていたのですが…」


「その晩餐には酒も出るのかのぅ?」


「もちろん。今回襲ってきたワイルドベアの肉も出すつもりです」


 ワイルドベアはDランクの魔獣、肉は意外と美味しい。ワイルドベアの様に食べられる魔獣は、食用に討伐の依頼が来ることもある。


「ありがたいのですが、ギルドに戻り報告しないといけないので…」


「なぁにを言うとる!せっかく宴の準備をしてくれとるのに、無視して帰れるか!」


「そうにゃ!ワイルドベアなんてなかなか食べれないにゃ!」

 シャルルさんの目が期待で輝いている。貧しい暮らしをしてきた彼女にとって、ご馳走は何よりの楽しみなのだろう。


「いやでも…」


「まぁいいじゃないか。ギルドへの報告なんて急ぐ必要ないだろう?」


 そうだけど、ここに長居したくないんだよ!大した事してないのに凄く持ち上げてくる人達がいる所にいたくないだろう?

 でもそれを口にするわけにもいかず、上手い言い訳も思いつかず。メンバーたちの期待に満ちた視線を受けて、断るのは難しくなった。


「わかりました。少しだけですよ?」


 準備の間、教会内を片付ける事にした。イーリス様の像はそこまで破損はなく僕は丁寧に汚れを拭き取る。


 イーリス様はこの世界を作った神の1柱だ。その姿は美しく、スレンダーなのに胸が大きいという僕にとって理想的な体型をしている。


「あの、リーダー?何故そんなに入念に女神像の胸ばかりを拭いているのかにゃ?」


 僕と一緒に女神像を拭いてくれていたシャルルさんが声をかける。

 いけない。女神様の神聖なオッパイが汚れていてはいけないとつい…、ちゃんと他も拭いて綺麗にしなければ。

「え?そ、そんなことないですよ!全体的に丁寧に清拭しているだけです!」

 慌てて他の部分も拭き始める。シャルルさんは首を傾げているが、幸い深く追求はしてこなかった。


「ふぅ、やっと終わったにゃ。これだけ綺麗にしたら十分だにゃ」


「えぇ、イーリス様もお喜びになるでしょう。シャルルさんは他のメンバーを手伝ってあげてください。僕はお祈りを捧げてから行きます」


「わかったにゃ」


 女神像の前で僕は手を組み祈る。

 すると目の前が光出し、見たこともない服を着た1人の少女が現れた。

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