3話 リリス・アストロト
リリス・アストロトは魔人族だ。
褐色の肌に銀髪の髪、こめかみから羊の角が生え、赤い瞳をしている。
魔人族の国は魔王領と呼ばれる西の大陸にある。
かつて魔人族から魔王が現れ、当時の勇者に討伐された後も度々戦争をしていた。
最後の戦争したのも300年以上前。
現在、只人族と仲がいいわけではないが最低限の交流はある。
かつて魔王は様々な魔獣を従え戦ったとされている。
リリスも魔獣使いの才能があった。
エルザ自身も魔獣が好きで冒険者になったのはドラゴンを従魔にしたいからだそうだ。
ドラゴンはSクラスの魔獣。
従魔にするにはその魔獣と同等以上の力を示さなければならない。
討伐だけでも困難だが、従魔にするにはさらに難しい、その為テイマーになる者は少ない。
最初は他の魔人族とパーティを組もうとした。
しかし、ドラゴンを従魔にするという彼女の野望は理解されなかった。
もちろん人族も同様だ。
冒険者になってから15年、ソロで活動し、1人でBランクまで上がった。
獣舎付きの宿に向かうと、従魔の世話をしている女の魔人族に声をかける。
「貴方がリリス・アストロトですか?」
「あんただれ?」
「失礼しました。僕はアルフ・ガーレンというものです。僕の名をご存知ない?」
「知らない。有名なのか?」
よかった。リリスは他者に興味がない様で私の悪名は知らないようだ。
「なにニヤついてる?それで、そのアルフがアタシに何の用?」
「そうですね。用というのは貴方をスカウトに来ました。僕が作るパーティに入って下さい。」
「断る」
「一応理由を聞いても?」
「アタシはテイマーだ。従魔がいるから仲間がいなくても問題はない。これまで1人でやってきた。これからも1人で十分だ」
「確かに貴方は優秀なテイマーです。ソロでBランクまで来たんですから。でもそろそろ頭打ちなんじゃないですか?もう何年Bランクやってます?」
図星だった。
順調にBランクに上がり、ソロでもなんとかなると思っていた。
しかし、失敗する事も多くなる。
冒険者を始めて5年でBランクとなったが、それから10年経つもAランクには上がれていない。
「うるさいっ!お前なんかの力なんか必要ない!」
「では勝負しますか?僕のパーティの力を見せてあげます!」
「いいだろう。勝負に負けたらお前のパーティに入ってやる。」
「では明日の正午、南門近くの草原で」
僕は宿を後にする。
〜〜〜〜〜
約束の時刻。
草原に到着するとすでに2人とも到着していた。
「やぁやぁお待たせしてしまった様で、申し訳ありません。お2人とも早いですね」
「おいアルフ、大事な用事があるからどうしてもって言うから来てみたら、決闘とはどういう事だ?」
急な要請にもかかわらず律儀に来てくれたエルノールさん。
ありがたや。
「今からエルノールさんとリリスさんで決闘をしてもらいます。リリスさんはどうも僕たちの力を信じてくれないみたいで、エルノールさんの能力を見せつけてぎゃふんと言わせてあげましょう!」
「いや私はまだお前のパーティに入ると言ってないだろう!なんで私が戦うんだよ!」
「だって僕は戦闘職じゃないですし、エルノールさんだって他のメンバーの実力知りたいって言ってたでしょ?良いチャンスじゃないですか!」
「いやだからって…」
「おい!ごちゃごちゃ言ってないでさっさとかかってこい森人族!タイマンが怖いのか?なら2対1でもアタシは構わないぞ。」
その言葉にカチンと来たのか、
「ああん?たかだか魔人族風情が森人族の私に勝てると思っているのか?消し炭にしてやろうか?」
「なんだと?森人族の分際で調子に乗るのな!貴様こそうちのカールちゃんの餌にしてやるよ!」
「ではお2人が戦って実力を確かめるという事でいいですね?始めますよ?ファイっ!」
2人ともその気になってくれたみたいなので、気が変わらないうちに戦闘開始する。それと同時に、
「カールちゃん!噛み殺せ!」
リリスさんの言葉に従魔のブラックドックが突進する。
ブラックドックはCランクの魔獣、子牛ほど大きさで名前の通り闇の様に黒い毛並みと赤い目が特徴の魔犬だ。
エルノールさんも開始とともに呪文を唱えるがカールちゃんの方が早い。
詠唱を続けたままカールちゃんに向け弓矢を放つ。
カールちゃんは矢を避けるも、避けられるのを前提で放っているのか近づけさすまいと第2、第3と次々矢を放つ。
カールちゃんは矢を避けながら徐々に近付き、牙が届きそうになるが、
「フレイム・ウォール」
エルノールさんの周囲に炎壁が現れ、カールちゃんは大きく下がった。
エルノールさんはすかさず次の詠唱を始める。
「ちっ、最後の1本なのにこんな所で…カールちゃん、かけるよ。」
リリスさんはカバンから瓶を取り出すと半分カールちゃんにかけ、残りを自分にかける。
一時的に火耐性を上げるポーションか。
リリスさんはカールちゃんに乗り、真っ直ぐ突っ込む。
しかし、もう詠唱は終わっており、魔法が放たれた。
「トルネド」
今度は風魔法だ。
竜巻が炎を巻き込み、炎の渦となってリリスさんを襲う。
だがいつのまにかリリスさんの姿がなくそこにいるのはカールちゃんだけだ。
リリスさんは途中でジャンプし、フレイム・ウォールを飛び越え、エルノールさんを襲う。
その手にはナイフが握られていた。
エルノールさんも魔法を放った直後で死角からの攻撃に対応出来ない。
ナイフが刺さるその時、結界がエルノールさんを守った。
まあ僕の貼った結界なんだけどね。
もちろん魔法の直撃を受けていたカールちゃんにも結界を張っている。
「これは、結界?」
「貴様が貼ったのか?」
「ええ、流石にこれ以上は危ないと思ったので止めさせてもらいました。どうですエルノールさん?リリスさんの力は、仲間にするには十分でしょう?」
「う、まぁ…な」
「リリスさんも、従魔を犠牲にしないと勝てないと判断したようですが、それでもソロをつづけますか?」
「ちっ、」
「じゃあ2人とも仲間になるという事でいいですね?」
「いやまぁ…」
渋々納得するエルノールさん。しかし、
「待て!今回は準備不足だっただけだ。耐性用のポーションがもっとあれば余裕で勝てた。」
「あのですねリリスさん。エルノールさんは後衛のマギですよ?近接戦のタイマンには向かないんです。元々エルノールさんの方が不利な勝負だったんですよ。その言い訳は見苦しいですよ」
「ぐっ」
「それに準備不足と言ってもそのポーションを買う資金はあるんですか?最近依頼の失敗続き、違約金で首が回らないと聞きましたよ?」
「そ、それは…」
「それに私が仲間になれば…」
私は詠唱を唱え、
「ブライア」
2人と1匹に魔法を放つ。
「これは肉体強化の魔法ですが、僕がいれば強化系のポーションの代わりは出来ますよ。お金も節約出来ますし、戦闘の幅も広がります。」
リリスさんはしばらく黙り込み、
「わかった。」
納得してくれたようでよかった。
「ただし、アタシにはドラゴンを従魔にする野望がある。アタシを仲間にするという事はいずれ共にドラゴンに挑むと言う事だ。お前たちにその覚悟はあるか?」
「いいですよ。僕は元々、このパーティをSランクにするつもりでしたから。Sランクになったらドラゴンと戦う事もあるでしょう。」
「私も構わない。私の条件も上のランクを目指せるパーティだったからな。ちゃんと実力をつけてドラゴンに挑むというのなら問題はない。」
こうして2人の仲間を獲得することができた。