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27話 錬金術師の初陣

 打ち上げから一週間経過した。

 僕達は今、王都南部にある砦跡地に来ている。先日の盗賊団殲滅作戦で王宮騎士団が担当していた所だ。

 ここに最近オーガが棲みついているらしい。オーガはBランクの魔獣。強靭な肉体を持ち、高い攻撃力と防御力を誇る。もちろん人襲うため討伐依頼が出ていたので、僕達が受けたわけだ。


「うーん、4時の方角に強い気配がするにゃ」

 シャルルさんがオーガの居場所を探してくれている。


「でもいいのかアルフ?今回私達は働かなくて」

 エルノールさんが聞いてくる。事前にジルさん以外のメンバーには戦闘に参加しないよう話してある。


「ええ、この依頼はジルさんがメインで働いて貰います。ただ危なくなった時はすぐに動いてもらいますからね」

「ああ」

「まかせて!」

 リリスさんとトモエさんも相槌を打つ。


 ジルさんは錬金術師(アルケミスト)。支援職だけどなるべく戦闘に慣れてもらう必要がある。それに彼女には秘密兵器のゴーレムがあるからね。


 ジルさんは小さな身体以上に大きく膨らんだバックパックを背負っている。中にはポーションや毒物などが入った瓶がぎっしり入っている。

 小人族は小さい身体とは裏腹に力だけは強いのだが、手足は短く機動力にかける。戦闘が不得意な者が多く、小人族の冒険者は荷物持ち(ポーター)などの支援職職業に就く者がほとんどだ。

 異種族でパーティを組むと揉める事があるが小人族だけは例外だ。戦闘能力がない者が多いため小人族だけだとバランスが悪くなってしまう。だから他の種族と組むほかないわけだ。


 ジルさんは当初錬金術師兼荷物持ちとして入ろうと思っていたらしいが、トモエさんがマジックバッグを持っていたせいで、荷物持ちとしてのお株を奪われてしまった。

 ただ、自分の荷物は自分で持ちたいらしく常にバックパックをもっている。だけどその方がいいのかもしれない。以前パーティが分断した時はマジックバッグを渡してしまい、大事な時に秘密兵器を使えなかったからね。自分の物は自分で持つ様にした方がいいのか?


 そんな事考えているとついにオーガを発見する。


「見つけたにゃ!」

 

 僕達は建物に隠れて様子を伺う。

 オーガは中央広間に居た。しゃがみ込み何かを貪っている。原型をとどめていないのでわからないが、恐らく別の魔獣だろう。


「あ、あれがオーガ……」

 ジルさんの声が震えている。無理もない、彼女はつい最近まで戦闘とは無縁な薬屋の店員だったんだから。冒険者になったといってもまだルーキー。ベテラン冒険者でも苦戦するオーガを相手にビビらない方がおかしい。

 しかし、すぐに顔を輝かせて、

「あれ一体でどれほどの価値が……内臓は腐食薬に……心臓は体力増加薬に……」

 とぶつぶつ呟く。

 どうやら彼女はオーガを錬金術の素材としてしか見ていないようだ。頼もしい限りだ。

「ジルさん、心臓はギルドに証拠として提出しないといけないから使えませんよ?」

「はっ!そうでした!せっかくの心臓なのにもったいないですぅ」


「それで、どうするんだ?」

 リリスさんが確認する。


「わだし自身には戦闘能力はありませんから、ゴーレムを出すっす」


 ジルさんは拳大の玉を取り出した。


「この玉はゴーレム・コア。中には魔石が組み込まれていて、このコアに術式を刻む事で形状や行動を縛ることができるっす」

 見ると玉には小さく文字が刻まれている。

「これに魔力を通すと……」

 ジルさんはコアに魔力を込め、地面に置く。すると土石がコアに集まってきて、みるみる人型となる。

「すごぉい!ジルさんも魔力を使うの?錬金術も魔法みたい!」


「近いものはあります。錬金術は物を媒介に力を行使します。それにはやはり魔力を消費するため、人よりも多く魔力を持っていないといけません。わたしの様に魔力はあっても精霊と契約できず、神様の加護も得られない場合、錬金術師となる者が多いのです」


「うがぁああああっ!」

 さすがに僕たちの気配に気付いたのかオーガが雄叫びをあげながら突進してくる。完成したゴーレムが受け止める。


 近距離での攻防。オーガの攻撃でゴーレムの装甲は削れるがすぐに修復される。対してゴーレムの攻撃は……

 パンチ、パンチ、キック、パンチ、キック、キック、パンチ、パンチ

 ……と連打するがほとんど空振り。


「……」

「攻撃が当たってないにゃ」

「あんなだったか?」

「まさか……敵の時は強いけど、仲間になると弱体化するパターン?」


「えいっ!やぁっ!とうっ!」

 ジルさんの掛け声に合わせてゴーレムは動いている。


「……もしかして、あのゴーレムはジルさんが操作しているんですか?」


「えいっ!そうだす!えぃやぁ!」

 うん、だから外れるのか。


「盗賊団のアジトの時もジルさんが操っていたんですか?」

 ゴーレムを作っていた事すら忘れていたはずだけど……


「とうっ!いえっ!あの時はっ!檻から出られなかったので!オートモードっ!ですっ!あのっ!集中できないのでっ!話しかけないでほしいっすっ!」


 戦闘能力の無さというのはゴーレムの操作にまで影響するのか。まず攻撃が全然当たらない……何処を狙っているの?と思うほど紙一重で外れる。オーガも首を傾げて戸惑っているよ。

 あと、無意味な防御。ゴーレムは破損しても自動で修復するから防御の必要はないのだが、コアを守っているのだろう……オーガが攻撃動作をとるたびに片腕は左胸にいく。確かにコアが破損すればゴーレムは壊れるが、あれでは弱点がそこにあると教えているようなものだ。オーガも気付いたのか胸を狙いだした。

 僕達を苦戦させたゴーレムがただのオーガ1体にやられ放題だ。


「あのジルさん?このゴーレム、オートモードにできないんですか?」


「くっできますが!別の命令式を書いたコアを!入れ直さないといけませんっ!」


 よしそれならトモエさんに時間を稼いでもらい、その隙に……

「……あのジルさん?そのコアでもう1体オートモードのゴーレムを作れないんですか?それとも2体同時は魔力が持たないとか?」


「もちろんっ!できます!」

 できるんかい!


「あのジルさん?何故やらないんですか?」


「何言ってるんですか!ゴーレムのできで錬金術師としての格が決まります!前回はオートモードを見てもらったみたいだし、今回はわだしの操作テクを……ああっ!」


 ジルさんは僕の方を向き、熱弁しだした。でもそのせいでゴーレムの操作が疎かになったのだろう。オーガの強打を受けて顔が吹き飛び倒れる。


「よ、よぐもわだしのゴーレムちゃんを……せっかく“闇鍋”の皆さんにいい所を見せでだのに……ゆるざないっず」

 うんうん、パーティでの初仕事で僕達にいい所を見せようとしてくれたんだね。でもそのいい所はまだ拝めてないよ。


「あんな雰囲気だったか?」

「なんかキャラ変わってるにゃ」

「普段大人しいのに車の運転で性格が荒々しくなる人みたい……」


 ジルさんは再び操作に集中する。オーガにクリンチをする。オーガは抵抗するが、引き剥がした頃にはすでに頭部は修復していた。

 そして顔が光り出す。あれはまさか……


「行ぐっす!魔力収束砲(マナ・キャノン)!」


 ゴーレムの光線が火を吹く……前にオーガの攻撃によりバランスを崩したゴーレムは顔をこちらに向けている。そのため魔力収束砲は僕達に向かって放たれた。

 危ない!


「ホーリーバリア!」

 ドォオオオン

 危なかった……ギリギリ結界が間に合った。


「いやぁ、危なかっだっすね。よし次こそ……」

 まだ続けようとするジルさんを止める。

「ジルさん、もう新しいゴーレムを作りましょうか!」

「え?いやでもまだ……」

 ゴーレム操作に未練があるのかチャンスが欲しそうだけど、リリスさんが頭を鷲掴みにして持ち上げ「いいから早く作れ!」と一喝。そりゃそうだよね、危うく死にかけたから……

「は、はいぃっ!すぐやります!」

 ジルさんもリリスさんにびびっている。

 そして他のメンバーも何も言わない。普段なら絶対止めるのに。

 ゴーレム1体目がやられてる隙に2体目作成に取り掛かる。コアに何か書いている。


「オートモードは命令式を誤ると大惨事になります。前回は『広間にいる人間を殲滅せよ』という命令を書き込んだから……」

「……僕達も襲われましたよね」

「す、すみませんっ!まさか助けが来るとは思わなかったんで」

 僕達もまさかゴーレムが待ち受けているとは思わなかったけどね。でもゴーレムを起動させたことは忘れないで欲しかったなぁ……


「んだから状況に合わせて式を書かないといけないんです。へば行きます!」


 術式を書き終え、魔力を込めると新たなゴーレムが出来上がった。


「行ぐっす!この場にいるオーガを殲滅せよ!」


 ゴーレム2体目を作るため制御を失った1体目がオーガに破壊された所だった。コアを破壊され、もう修復できないだろう。

 オーガは油断している。2体目が現れても焦った様子はない。1体目が弱かったからだろうけど、今度のゴーレムはオートモードだ。先日“闇鍋”、“高潔な血”と戦ったゴーレム。油断していると……

 射程距離に入るとオーガの顔面に攻撃。警戒してない所に強烈な一撃をもらい倒れる。そして馬乗りになり四肢を抑えると、口が光出した。


「魔力収束砲」

 ジルさんが小さく呟くとオーガの顔面に向かって光線が放たれた。

 頭部を失い絶命すると、役目を失ったゴーレムは土に戻った。



〜〜〜〜〜



 オーガを解体すると馬車へと向かう。ジルは安堵と疲労の入り混じったため息を吐いた。


「はぁ……」


「何をそんなに落ち込んでるにゃ?」


「いえ、せっかくのオーガ素材でしたのに、ゴーレムちゃんがやりすぎたせいで顔の素材が取れなかったっす」


「そんなことで落ち込んでいたのか?」

「他に反省すべきことはあっただろう……」

 リリスさんとエルノールさんが呆れている。


「まぁまぁ、いいじゃない。無事依頼を終えたんだし」

「そうにゃ。それに今回はジル1人の活躍だったから、報酬も独り占めにゃ!Fランクじゃ手に入らないほどの金にゃ」

 トモエさん、シャルルさんがフォローする。でも少し品がないね、シャルルさんの目が金貨になっているよ。


「ええっ?独り占めってみなさんの分は?」

「今回はジルさんに1人でやってもらうって言ったでしょ?最初から報酬はジルさんだけ受け取るように話してたんです。僕達はランクアップのポイントだけいただきますね。ただ馬と馬車代などの必要経費は引かせてもらいます」


「あ、ありがとうございます!実は借金して魔石とか薬の素材を買ったから、お金がなかったんです!」


 やはり借金していたか。魔石とか高いもんね。かといってゴブリンとかの魔石はあまり使い物にならないし。薬草とか薬品に使用した素材とかも馬鹿にならない。Fランクの稼ぎじゃ無理だろう。


 そうこうしていると馬車に着いた。ジルさん、僕の順で乗り込もうとしたのだが、途中でジルさんがバランスを崩して後ろ向きに倒れる。後ろにいた僕は薬品が大量に詰まったバックパックの下敷きになる。瓶は割れ、薬品が僕にかかる。


「あ、アルフさん!」

「リーダー、大丈夫にゃ?」

「この薬品はかかっても問題ない物なのか?」

 トモエさん、シャルルさん、リリスさんが駆け寄ってくれるが、

「前の時は肉が溶けたな……」

 と、エルノールさんが呟くと他のメンバーは僕から離れる。あれ?心配してたんじゃないの?


「あわわわ!またやっちまったべ!すみませんすみません!」


 でも肉は溶けてない。違う薬かな?

「ちなみにこれは何の薬品ですか?」


「シンプルにただの毒です」

「その毒はかかっても大丈夫なのか?」

 エルノールさんが聞くと、

「かかると経皮吸収し数分で死に至ります」

「それはもう『ただ』の毒じゃないだろ……」


 致死性の猛毒だった。通りで動悸や眩暈、吐き気がするわけだ。まぁ即死しないだけましだけど……


「光の神イーリスよ。我が身を蝕む苦しみを拭い去り、黒き毒を白き光で浄めたまえ。穢れは消え去り、命は清らかに蘇らん。ピュリファイ!」

 ば、バカな……中級の解毒魔法が効いていないだと?なんて強力な毒なんだ。


「ふっふっふ……わだしが作った毒はそんじょそこらのものとは違います!魔法なんかで解毒できるわけないっす!」

 自分が作った毒が神聖術に勝ったのが嬉しいのか態度がでかくなる。

「偉そうに言ってないで解毒薬を渡してやるにゃ」

 シャルルさんの言う通りだよ。あるんなら早くしてよね!


「はっ!そうでした……アルフさんこれを……あっ!」

 解毒薬を渡そうと近付こうとするが石に躓き、薬の入った瓶は明後日の方向に飛んで割れる。


「「「「やっぱりな」」」」

 みんなの声が揃った。


「光の神イーリスよ。闇を覆う瘴気を打ち払い、腐敗の風を鎮め、地を清浄へと導け。汝の輝きは万物を浄め、毒を無に還す。いま命ある者すべてに、聖き息吹を授け給え、ピュリフィケイション!」


 今度は上級の解毒魔法だ。ようやく毒が浄化され身体が楽になる。


「なっ!?わだしの毒が魔法なんかに……次は絶対浄化できない毒を作るっす!」

 ジルさんはショックを受けている。錬金術師としてのプライドが刺激されたのか、神聖術の解毒魔法に負けない毒を作ると燃えている。でも解毒魔法が効かなかったら、僕は数分後に死んでたんだけど……

 これからはジルさんの側に立たないようにしないと……僕は今後も、ジルさんの毒とドジの被害担当になる運命らしい。

 ジルは普段敬語ですが焦ったり、興奮すると訛りが強くなります。ジルのイメージとして東北弁が合うと思いセリフを考えていますが、筆者の私はあまり東北弁は詳しくないため、間違った使い方をしていたらご指摘して下さい。

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