25話 打ち上げと歓迎会
僕達は王都の冒険者ギルドに戻る。
石造りのギルド本部は夜明けの光に照らされて重々しい雰囲気を漂わせている。各パーティのリーダーが代表して、ギルドマスターへ報告を済ませた。
「ご苦労だったなお前ら。王国を荒らしまわってた盗賊団を壊滅することができた」
ギルドマスターの声は太く、部屋の空気を揺らす。
「いえ、僕達はほとんど何もしてません。実際、盗賊達を倒したのは捕まっていたジルさんですし」
「まぁいいじゃねぇか」
ビルさんが豪快に肩をすくめる。
「報酬もくれるって言うし遠慮なく貰っとこうぜ」
「おう、もらっとけもらっとけ。騎士団の連中も悔しがってたぜ?手柄取られたからな!」
ギルドマスターは高らかに笑い、机の上のカップをがしゃりと揺らした。
「ギルドマスター、それで逃した副頭領の件ですが……」
僕が話題を変えると、場の雰囲気が一変する。
「ああ聞いたぜ。また厄介そうな相手だな……」
「やはりギルドマスターもそう思うのか?」
とセドリック様は背筋を正し、真剣な表情で問いかけた。
「当然だ。そいつはキッドナ盗賊団の実務を仕切ってたんだろ?そんな奴が仲間にすら顔も名前も覚えさせないって……普通じゃねぇ」
「ただ、影が薄いだけじゃないのか?」
ビルさんは腕を組み、疑わしげに目を細める。
「意図的にそうしているとしたらどうです?」
僕が口を挟むと、場に短い沈黙が落ちた。
「確かに自分の意思で存在感を変化できるとなればかなり厄介だな」
天然か意図的か……どちらにせよ、影の薄さを利用して罪を重ねていることが問題だった。
「まぁ今の段階でどうこう言ってもしょうがない。そういう奴が潜んでるってわかっただけでも儲け物だ。ギルドでもこの情報は共有するつもりだ。ただ名前わかんねーからな……仮の名として“幽霊”とでも付けようか」
「そうですね。今僕達に出来ることは警戒するくらいです」
「……で、アルフよ。あの捕まってた冒険者をメンバーにするって事でいいんだな?」
話は変わり、“闇鍋”の新メンバーの話になる。
「はい、よろしくお願いします!」
「いや、ちょうどフリーの錬金術師がいてな。向こうも高ランクパーティへの紹介だったからかなり前向きだったんだが、見つかったんならしょうがないな」
へー、以外と早く見つかったんだ。もっとかかると思ってたのに。まぁ今回は縁がなかったということで。
「それなら“一角獣”に紹介したらどうです?あそこも錬金術師を加入しようかって言ってましたよ?」
「おうそうか。それなら声をかけてみるわ」
僕達はギルドマスターの部屋を後にする。
「では俺も失礼する。アルフ殿にビル殿……今回は色々世話になった」
セドリック様は深々と礼をする。
「おう、気にすんな」
「特にアルフ殿には高慢なうちのメンバーの鼻っ柱を折ってもらった。アイツらも少しは大人しくなるだろう」
「あはは……あ、そうだ。今夜僕達打ち上げをやろうと思うんですが、参加しませんか?」
僕の誘いに、セドリック様は一瞬だけ迷いを見せ、だが首を横にふる。
「参加しよう……と言いたい所だが、やめておこう。Cランクになるためにかなり無茶したからな。授業の遅れを取り戻さないと……」
文武両道、学業でもトップを狙っているらしい。
「学園に戻るんですか?」
「そういえば学生だったな」
「ああ、もうすぐ卒業だからな。卒業したら本格的に冒険者に専念できる。今はまだ実力不足だが、いずれ貴公らを超え、Sランクになってみせる」
「なんだ、お前らもSランクなんて目指してんのか?」
「ビルさん達はならないんですか?Sランクに」
「目指すわけないだろ!あんな化け物集団……俺達は身の丈にあったランクで、細々とやっていくよ」
「何はともあれ、また一緒に仕事しましょう。それまでお元気で!」
「ああ」
僕達はセドリック様の背を見送った。
〜〜〜〜〜
その夜。老猫亭の食堂は、冒険者達の笑い声と酒の匂いに満ちていた。する。
「それでは、この度キッドナ盗賊団壊滅の依頼達成を祝して……」
僕達はジョッキを掲げる。
「「「「「かんぱぁ〜い」」」」」
「ビルさんすみません、わざわざ僕達が泊まっている宿まで来ていただいて」
「気にすんな。せっかく王都まで来たんだ。色んな店で食った方がいいだろ?お〜いねぇちゃん、こっちにエール追加!」
陽気に笑うビルさんの横で、ジルさんがちょこんと座っていた。両手でカップを包み、落ち着かない様子で視線を泳がせている。
「あ、あのいいんですか?わだしも一緒になんて……」
「いいんですよ!ジルさんの歓迎会もかねてるんですから」
僕が笑顔を向けると、彼女の耳が赤くなり、慌てて「ありがとうございます」と頭を下げた。
それに実際盗賊団をやっつけたのジルさんだし。
「でも大変だったな。奴等の生首を持って帰るの」
盗賊団討伐達成の証として死んだ者は生首ををギルドまで持ち帰り鑑定する必要がある。1〜2体ならともかく身体全部は物理的に持ち帰れないからね。
「約30体分でしたからね。トモエさんがカバンに入れさせてくれたら楽だったんですけど……あの中に入れたら腐らないですし」
マジックバッグは生物は入れることができないが死んだ物は入れることが出来る。入った物は時間が止まるため生物を入れても腐ることはない。
「嫌に決まってるじゃん!死体を入れるなんて気持ち悪い!」
トモエさんはぷいと顔を背け、ジョッキを乱暴に口へ運ぶ。
魔獣の死体とかは入れさせてくれたのに人間はだめなんだ……まぁマジックバッグは彼女の私物なので無理強いはできない。
「そうだ!ジルさんにメンバーの紹介をしますね。まずはエルノールさんから……」
エルノールさんが姿勢を正し、グラスを置く。
「精霊魔術師のエルノール・フェアロスだ。属性は全般的に使えるが得意なのは火と風だ。冒険者ランクはA。よろしく頼む」
リリスさんは骨付き肉を片手で持ちながら、軽く片眉を上げる。
「魔獣使いのリリス・アストロト。ブラックドックのカールちゃんを使い魔にしている。アタシもAランクだ」
シャルルさんはにやりと笑い、椅子の背に肘をかけた。
「斥候のシャルル・スピルトンにゃ。冒険者ランクはC。今は弓を修行中にゃ。“闇鍋”はリーダーからしてへんた……変人だからそんなかしこまらなくていいにゃ」
おい、今変態って言おうとしなかった?ジルさんに変な印象植えつけるのやめてよね。
「わ、私はトモエ・アキバ!剣士だよ」
「トモエってまさかあなたがあの“破壊者”ですか?たった2年でSランクになったという……」
さすがトモエさん、あえて二つ名と冒険者ランク言わなかったのに……
「う、あまり二つ名で言わないで……」
トモエさんは慌てて手を振り、視線を逸らす。ジョッキを両手で包み、必死に誤魔化そうとする仕草が、逆に注目を集めてしまっていた。
「わ、わだしはジル・パーカーと申します。錬金術師でして……よ、よろしぐお願いします!」
緊張で立ち上がった拍子に椅子をがたんと鳴らしてしまい、周りが一瞬驚く。
ジルさんは真っ赤になって頭を下げた。緊張しているなぁ。
「でも皆さんランクがバラバラなんですね」
「メンバーの半分以上中堅・ベテランでしたからね。ルーキーだったのはシャルルさんとトモエさんくらい」
僕はフォローを入れつつ、ジョッキを口に運ぶ。
「でも同じ依頼をこなしてるのにどうしてトモエさんだけ早くランクが上がったんですか?」
ジルさんの素朴な疑問に、エルノールさんが答える。
「トモエさんは最初から強かったからな。ヒルランテのギルマスの采配で早くランクが上がる様に、“闇鍋”の活動以外にも個人で依頼を受けさせてたんだ」
「な、なるほど」
ジルさんは目を丸くしながらうなずき、手元のナイフとフォークをぎゅっと握った。
ランクを上げるにはランク昇格試験を受ける必要があるが、それを受けるためには依頼を達成させ、ポイントを貯める必要がある。パーティで依頼をこなし、ポイントを貯めても実力が伴わないと試験には合格出来ない。
上のランクになるほど多くのポイントを貯める必要があるし、試験も難しくなる。しかも試験はソロでしか受けれない。もちろんジョブによって試験内容は変わるけどね。
僕は話題を変えるように口を開いた。
「それと今日は別件で来れませんでしたが“闇鍋”にはもう1人、土人族のブルーノ・ガルバンさんという方がいます。Bランクの重戦士です。お酒好きな方で今回来れなかったのを残念がってましたけど、後日また紹介しますね」
「お酒好きの方ですかぁ……」
ジルさんは苦笑いを浮かべ、ちらりとエールを煽るビルさんに視線をやった。ちょうどその瞬間、ビルさんが「ぷはぁ!」と豪快に息を吐き、テーブルにどんとジョッキを置く。木の天板が震え、ジルはびくりと肩をすくめた。
「ブルーノさんが合流するまではBランクの依頼を中心に受けましょう。Fランクのジルさんにはきついかも知れませんが……」
冒険者はランクに合った依頼しか受けられない。僕達“闇鍋”のパーティランクはAだから、パーティで受けられる依頼はB〜Sランクとなる。
例外として依頼主が冒険者を指名してきた場合は、どのランクでも受注することができる。
ただ、ジルさんは個人の冒険者ランクはFだからソロでならF〜Eランクの依頼は受注可能だ。
僕が言うと、ジルは椅子の端で小さく背を丸めた。
「あの、わだし戦闘の経験はないんですけど……Bランクの依頼なんて大丈夫でしょうか?」
「もちろん、基本的に錬金術師は支援職ですからね。でもジルさんのゴーレムには戦闘面でも期待してますよ」
僕がそう言うと、リリスさんがにやっと笑って付け足す。
「だな。あの盗賊団を蹴散らしたゴーレムなら、下手な前衛より心強い」
なにしろBランク……素材によってはそれ以上の魔獣並みに強くなるゴーレムだからね。戦闘の幅が広がるというものだ。
「お、おっかねぇ依頼でも……わだし、足ひっぱらねぇよう頑張ります!」
焦りで訛りが強くなったジルさんは、慌てて背筋を伸ばしてカップを抱え込む。その様子に、シャルルさんが「にゃはは」と笑い声を漏らした。
「シャルルさんじゃないですが、本当にかしこまらずに楽にして下さい」
僕がやんわりと言うと、ジルさんはこくこくと何度も首を縦に振った。
そのとき、入口の扉がぎぃと開き、見覚えのある顔ぶれが店内へ入ってきた。




