24話 ジル・パーカー
ゴーレムを倒した僕たちは外にいる“鋼の剣”と合流する。
捉えられた人たちの相手は女性陣に任せることにした。男の冒険者に任せるよりそっちの方が彼女たちも安心するだろう。特に“鋼の剣”の面々は盗賊団と言われても遜色ないほど厳ついからね。
「駄目だな、金目の物は見当たらねぇ。武器も魔法道具もだ。あったのは広間にあった鈍くらい」
「反対側の出口も見てきたけど何もなかった」
「そうですか。まぁないものは仕方ありません」
ゴーレムにやられた盗賊団はほとんどミンチにされていたが、生存者は2人いた。もちろん重症だったが、話を聞くために動けない程度に治癒魔法をかける。
「さて、あなたたちを回復させたのは僕たちが乗り込むまでにあの場で何があったか、詳しく聞くためです」
「詳しくっていっても俺たちもよくわかんねぇよ!いきなり化け物が現れて攻撃されたんだ!」
「……俺は見た、牢部屋への横穴から入ってきたぜ」
ということはやはり、あの中に……
「……で、この死体の中にゲーツ・ヤリーピチはいますか?」
「この中からお頭の死体探すのか?」
「勘弁してくれよ。うおぇっ、ほとんど原型を留めてねぇじゃねぇか」
さすがの盗賊団でもミンチになった死体を見るのは嫌みたいだ。でもやってもらうよ、犯罪者に拒否権はない。僕だってこんなの見たくないし……
「おい、あったぜ。お頭だ……」
ほとんどの死体が肉塊となっている中、頭領のゲーツの死体だけが綺麗だった。
「どう思う?」
ビルさんが尋ねる。
「やっぱり仲間割れ……ですかね?」
ゲーツの傷は背部から胸にかけて、心臓を一刺しにされている。致命傷だが傷はそれだけ、他の人に比べて綺麗すぎる。とてもあのゴーレムが殺したとは思えない。むしろ人間の、それも手慣れた者の仕業に見える。
「あれ?そういえば副頭領がいない?」
「本当だ」
「副頭領?」
「ああ、半年前に入団した奴なんだけど、仕事ができるから瞬く間にお頭の右腕になった。名前は……あれ?なんだっけ?」
「そういえば副頭領の名前覚えてねぇな。あれ?どんな顔してたか?」
「おいおい、副頭領だろ?顔も名前も覚えてないのか?」
ビルさんが呆れる。
「へ、へぇ……いつも副頭領って呼んでたし、特徴のない顔してたからなぁ……」
「中肉中背で、なんというか……印象に残らない男だった」
「まぁこの有り様ですからね。見つからないのもはしょうがない……ん?でもなんで副頭領がいないってわかったんです?」
「お頭がお気に入りの手下に渡してる腕章があるんだ。特に副頭領はそれがないと下っ端に間違えられるからな」
「それならまだいい方だ。外部の奴に間違えられてたときもあったぜ」
頭部らしき物を数えると31体しか見つからない。
「なぁ、腕章ってもしかしてこれか?」
ホプキンさんが腕章を見せる。
「あ!こ、これでさぁ!」
「ホプキンさん、どこにありました?」
「反対側の出口の外に落ちてたぜ?洞窟の外だ」
洞窟の外……ということは、やはり1人逃げられと見たほうがいいだろう。
「まぁ一人逃したけど、頭領を確実に仕留めてるからいいだろう。帰ったらギルマスに報告しようぜ」
「ええ、そうですね」
誰一人犠牲を出さずに依頼を終えることができたのに、なんかモヤっとするな。
〜〜〜〜〜
見聞を終え洞窟を出ると女性陣が出迎えてくれた。
だけどそのほとんどは“高潔な血”の方へ。貴族だしやっぱり見てくれのいい方へ行くんだなぁ。
そんな中1人の女性が僕たちの方に来た。どこかで見たことあるな。
「あの、もしかしてアルフ様?お久しぶりです!私の事覚えておいでですか?」
2年前、“闇鍋”結成後初依頼、王都とヒルランテ間の街道沿いにある教会、そこに勤めていた……
「修道士のレイ・メルクさんですよね。お久しぶりです。貴女も捕まっていたのですね」
「はい、巡礼に出ていたところを捕まってしまいました……本当にもうダメかと……この度は助けていただき、心より感謝いたします」
レイさんの瞳が潤んでいる。よほど怖かったんだろう。当然だよな。盗賊に捕まったら普通売られるか、慰み者にされるか、殺されるかだもん。
「僕たちは大したことしていません。到着した時には盗賊団はすでに壊滅していましたし……でも本当に無事でよかったです。これもイーリス様の加護の賜物ですね」
「今回のアルフ様の活躍はイーリス教の教義と共に広げていきます!」
やめてくれないかな。今回は他のパーティもいるのに……
「あの、メイさん?今回は他の冒険者と協力していますので……」
「わかってますわかってますとも。アルフ様が他の冒険者を率いて事件を解決したというのはわかってますとも」
だめだ、わかってくれてないや。
レイさんと話していると別の女性が話しかけてきた。
「ああ!あなたはいつぞやの!」
声の方を振り向くが誰もいない。しかし。どこかで聞いたことがある声だ。
「下です!下!」
顔を下に向けると小人族の女性が立っていた。
小人族は土人族よりもさらに小さい。身長は1メートルもなく、成人しても子供みたいな顔が特徴だ。寿命は只人族より少し短い程度だが一定の年齢にならないと老けないから子供と見分けがつかない。
「なんだ?こいつもアルフの知り合いか?」
ビルさんが尋ねる。
「ええまぁ……」
「ちなみにこいつが誘拐された冒険者だ。名前は……」
「ジル・パーカーです!種族は見た通り小人族で、錬金術師です。こ、この度は賊に捕まってるのを助けていただき、ありがとうございました。まさか、以前ご迷惑をかけた方があの有名な“闇鍋”のメンバーだったなんて……」
「何かあったのか?」
「前に劇薬をかけられまして……」
「あぁ、あの時の……アルフの足を溶かした小人族か?」
エルノールさんも相槌を打つ。
「足を溶かしたぁ?」
「あの薬はナエン草とミーリアク草というのを調合した薬で作るのに苦労しました」
ビルさんは足を溶かしたことにドン引きしているが、それを薬の効果を褒められたと勘違いしたのか嬉々として語り出した。
「あの薬ってジルさんが作ったんですか?」
「はい!わだし、色んな調合を試して新しい薬を作るのが趣味でして……まぁ、よくドジって薬品ダメにしちゃうんですが……」
やはりそうか、この人ならいいんじゃないか?都合良く今の“闇鍋”にはいない種族だし。
「ジルさん、“闇鍋”に入りませんか?」
「っ!?おい正気か?」
「わだしなんかでいいんですか?“闇鍋”ってAランクパーティですよね?わだしFランクですけども……」
戸惑うエルノールさんとジルさん。まぁいきなりFランクの冒険者を勧誘したら戸惑うか。ランクに差があるもんね。
すると……
「んにゃ?この小人族をパーティに入れるのかにゃ?」
「おいアルフどういう事だ!異種族だからと適当に入れるなって言っただろう」
“闇鍋”の女性陣が集まってきた。リリスさんが僕に詰め寄る。前に僕が言った異種族の錬金術師という冗談を間に受けているのだろう。
「私はいいよ!」
トモエさんからの以外な助け舟だ。ステラが入りたいって言った時はあんなに反対してたのに。
「さすがにこの子はアルフさんも守備範囲外だろうし……」
ん?なんて言ったのかな?この子はたまにボソッと言うから聞こえないんだよね。
「まぁまぁリリス、さすがのリーダーも本当にそんな理由で勧誘はしないと思うにゃ」
うんうん、シャルルさんはわかってらっしゃる。
「もしこの子が胸の大きなグラマラスな女だったら話は別だけど、小人族の幼児体型に発情しないはずにゃ」
「それは……確かに」
この猫娘……僕が胸の大きさで勧誘するわけないだろう!リリスさんも納得しない!……確かに胸の大きい方が好きだけれども。
「とにかく、彼女の錬金術師としての腕は確かです。普通肉だけを溶かす薬なんて作れませんよ?この身に受けるまで聞いたこともなかったですし。それに、あのゴーレムを作ったのは恐らく彼女です」
「なに?本当か?」
「へ〜、あんたゴーレムなんて作れるのか?」
ビルさんがジルさんに問いかける。
「作れることは作れますけど、どうして知ってるんですか?」
「盗賊の話ではジルさんたちが捕らえられている横穴から入ってきたそうです。盗賊達はみんなやっつけたのに彼女達は無事でした。つまり捕らえた人の中にゴーレムを作った人がいるということです」
「ええ、ゴーレム核はいざという時のために髪の毛の中に隠してたんです。まぁ持ち物を大半没収されてたのであまり強いゴーレムは作れませんでした。なにしろ材料は土しかなかったですから」
強さでいえばBランクってところか。ただ材料次第ではもっと強いゴーレムも作れるみたいだ。
「あれで、強くないにゃ?」
「確かに再生能力は厄介でしたけど、レーザーに気をつけるのと対処法さえわかっていれば、正直“高潔な血”だけでもなんとかなるレベルでした」
彼らは土属性の魔具を持っていたし、核の場所さえ把握できれば“高潔な血”だけでも十分対処できただろう。
「どうです皆さん?」
「ま、まぁ……」
「そういう事ならいいんじゃないか?」
難色を示していたエルノールさんとリリスさんの許可が降りた。
後は……
「ジルさんの答えは?」
「わ、わだしなんかでよければぜひお願いします!」
こうして“闇鍋”に7人目のメンバーが入った。
「新しいメンバーが入ってよかったなアルフ……でもなんでゴーレムの事ずっと黙ってたんだ?」
ビルさんが疑問を抱く。
「そういえばそうですね。救助した段階で言ってくれたらわざわざゴーレムが待ち構えてる広間に行かなかったのに……」
「ああ、それはですね……単純にゴーレムを作った事を忘れてまして」
ジルさんはテヘペロしながらとんでもない事を言い出した。
「「「「「テメェ!ふざけんなぁ!」」」」」
“闇鍋”と、少し離れた所で話を聞いていた“高潔な血”が叫ぶ。そりゃそうだよね、下手したら盗賊達と一緒にミンチだもん。
ジルさんは「すんませんすんません!」みんなに責められ泣きながら謝罪している。
しかし……ん?何か嫌な感じがするな。
僕は山の頂上付近を見上げる。
「どうしたの?2人してどこ見てるの?」
トモエさんが声をかける。シャルルさんも僕と同じ方向を見ていた。
「んにゃ、誰かに見られてる気がしたけど、気のせいみたいにゃ」
嫌な感じもいつの間にかなくなっている。やっぱり気のせいかな?
〜〜〜〜〜
数時間前。
「はぁはぁ、ちくしょうが!壊しても壊しても元に戻りやがって!だがそこまで強くねぇ!こっちは人数が揃ってんだ!レーザーに気を付ければ……」
ゲーツは手下に指示を出しながら戦っていたが、激痛により言葉が止まる。無警戒な所を自分が後ろから刺したからだ。
「あぁ、お頭今まで世話になりました。これまでの稼ぎは俺が有意義に使わせて貰います」
ゲーツは後ろを振り向いて自分の姿を確認すると……
「な……?お……ま……」
心臓を一突きにされ、最後まで言葉を発する事ができず絶命した。
司令塔を失った盗賊達はさっきまで善戦していたのが嘘のように、あっさりとゴーレムにやられることになる。それを最後まで確認する事なく、俺は魔具で出口を作り広間を出た。
当然自分が通った後その出口を壊す。
自分に裏切られた事を知った時のゲーツやもう助からないと知った時の盗賊達の絶望的な顔ときたら、思い出しただけで笑いが止まらない。
「おっと、もうこれはいらないな」
副頭領の証である腕章を捨てる。
キッドナ盗賊団は十分利用させてもらった。
ゲーツは脳筋で目立つ男だったから影に徹することができた。特徴のない顔と名前、誰も俺のことを覚えてる奴はいないだろう。
それに頭の切れる奴がいなかったおかげで中抜きやり放題。正直もう少し稼げると思っていたんだが、まぁ騎士団に教会、そして冒険者総出で討伐に来たからなこの辺が潮時だろう。もうここには用はない。
予定外だったのはあのゴーレム。誰が用意したものか知らないが、お陰でどさくさに紛れ、スムーズに盗賊団を抜けることができた。蓄えてた金も業物の武器もめぼしいのはこのマジックバックに入れてきた。
もう少しだ。資金、武器、人材、魔獣、もう少しで全部揃う。そうしたら計画を実行に移せる。
山頂に着くと上からアジトがあった洞窟を見る。捕らえていた女達と冒険者か。
へー、あのゴーレムを倒したのか……それともあのゴーレムは冒険者が作ったものか……まぁどっちでもいいか。
冒険者の1人に注目する。
「あいつは……ん?」
気付くと2人がこちらを見ていた。
「おっと、長居しない方がいいな。しかしあんなに離れてた位置から気付くとは……」
その場を離れながら記憶を巡らせる。獣人族の方は知らないが、只人族の方は見覚えがある。確か以前教会に所属していた元大司教のアルフ・ガーレンだったか……
「彼らが俺達の障害になるのか……その時は潰せばいい。それにあいつがどういう立場なのか調べる必要があるな」




