23話 盗賊団のアジトで
王都北部にあるアジトに到着した。
洞窟入り口には見張りが立っている。どうやらここが当たりのようだ。
馬車同様2チームに分かれる。討伐班と救出班だ。
「救出班には“鋼の剣”で行ってもらいます」
なるべくパーティは分けない方がいいだろう。今回のクランには神聖術師は僕しかいない。戦闘メインとなる討伐班に“闇鍋”が入り、“鋼の剣”には救出班に入ってもらおう。
「“高潔な血”もそれでいいですね?」
「うむ、それで提案があるんだが……」
セドリック様が魔具を出してきた。
「これは先日の依頼で偶然手に入れた土属性の魔具だ。能力は大地に穴を開けることができる」
大地に穴……ということは。
「洞窟内に好きな道を作ることができる」
「ほぉ、凄いじゃねぇか」
ここは敵地で地の利は向こうにある。しかしこの魔具があれば奇襲も救出もやり放題だ。
ではさっそく行きますか。
「光の神イーリスよ。汝の裁きの鎖を今ここに降ろし、邪を捕え、その歩みを止めたまえ。闇の力を封じ、動きを縛り、光の御手より逃れ得る者なし!ホーリーチェーン!」
光の鎖が見張り2人を拘束する。
「あっ?なんだこりゃ」
「て、てきしゅ……」
「おっと、大声出すなよ」
ビルさんが拘束された見張りの首に刃を当てる。
「では話してもらいましょうか。仲間の数、持ってる武器に魔具、得意な技や魔法、アジトの構造、拉致した人たちの場所。知ってる事全部」
洞窟の構造は複雑ではない。一本道でそれを抜けると大広間になっていて、全員見張り以外は全員そこにいる。今は宴会中だそうだ。
大広間はこの道以外にも2つの横穴がある。入って右手にある横穴は拉致した人を閉じ込めている場所に繋がっている。奥にある横穴は逃走用、山の中腹辺りの外からは見つかりにくい場所に繋がっている。
賊の人数は60人、このアジトにいるのは見張り含めて34人、残りは別のアジトにそれぞれ囮として残しているらしい。
拉致された人は12人、攫われた人の中には巡礼していた教会関係者、この辺りで薬草の採集に来ていた冒険者。
「お前ら騎士団じゃなくて冒険者だろ?捕まえた奴の中にも冒険者がいるぜ?ここ数日前にギルドに登録したばかりの小人族の錬金術師だ」
「運の悪い奴だよ。この辺りに珍しい薬草があるみたいだが、このアジトの近くに来るなんてな。小人族は趣味じゃないから誰も味見はしてないと思うぜ?」
味見だと?拉致した女の子にあんな事やこんな事をするのか?うらやま……許せない!
「もう黙れ」
調子に乗って下卑た事を言い出した見張りをビルさんが柄で殴り気絶させる。
「どうするアルフ殿?」
「セドリック様、先程僕達と一緒の襲撃班と言いましたが途中まで“鋼の剣”と一緒に行動して下さい。例の魔具で攫われた人たちがいる部屋までの道を作って下さい。“鋼の剣”はそのまま攫われた人の保護し、安全な場所まで誘導。“高潔な血”は大広間まで来て下さい。僕達は元々あるこの道から大広間まで行くのでタイミングを見計らい同時に奇襲をかけましょう」
「おう」
「了解した。だがどうやってタイミングを合わせる?」
「大広間に着いたら叫んでください。そのタイミングで僕たちも突入します」
「わかった。それで行こう」
ゴゴゴゴゴ
セドリック様が魔具を起動させる。地響きとともに洞窟の横に穴が開く。
「僕たちも行きましょう」
大広間までは一本道、迷うこともない。
洞窟内を進んでいると……
「妙だにゃ……」
「どうかしました?」
「悲鳴が聞こえるにゃ……」
「もしかして拉致された人たちの?まさか見張りが言ってたつまみ食いをしているのか?」
こうしちゃいられない!急いで覗きに……じゃなくて助けに行かないと!
「う〜ん……でも聞こえる悲鳴は男にゃ、それも複数の」
「拉致されたのは女だけだったな」
ふぅ危ない、危うく男同士のアレを拝むところだった。
ドゴォッ
ゴゴゴゴゴォッ
「な、なんの音だぁ?」
「行ってみましょう!」
奥に進むが土砂で道が塞がれていた。
「おい進めないぞ」
「あの見張りが嘘をついてたとかかな?」
「いえ、さっきの音と振動……おそらく何かがぶつかって天井が崩れたんでしょう。シャルルさん悲鳴はこの奥から?」
「聞こえるにゃ。この土砂をどかせばすぐにゃ」
「どうする?魔法を使えばどかせると思うが、奇襲にはならないぞ?」
確かに魔法を使えば土砂はどかせられるけど、中の賊には警戒されるだろう。どうするべきか……
「うん?でもこれ戦ってるみたいにゃ」
「まさか“高潔な血”が先走って戦ってるのか?」
「いくらなんでも早すぎるだろう。私たちと違い穴を掘りながら進んでいるんだぞ」
「そうですね。シャルルさん、彼らの声は聞こえますか?」
「セドリックたちの声はしないと思うにゃ」
やはり“高潔な血”はまだ着いてない?では賊は一体何と戦ってるんだ?
「リーダー聞こえたにゃ!セドリックの声にゃ」
「エルノールさんお願いします!」
「火の精霊よ、燃え盛る焔よ、ひとつに集いて力と化し、圧を孕みて膨張し、敵を焼き砕け。敵を焼き砕き、骨を灰に変え、虚空へと吹き飛ばせ。烈火なりて爆ぜろ!フレイムバースト!」
「光の神イーリスよ!今ここに天の光を降ろし、聖なる壁を築き給え。迫り来る刃を砕き、猛き炎を退け、荒ぶる雷を散らし、我が仲間をその慈悲の御腕で包み守りたまえ。グレーターバリア!」
ドォォン
エルノールさんの魔法で土砂を吹き飛ばす。僕も天井が崩れない様に結界張る。
広間に入ると賊は見つからなかった。否、盗賊だった物だけがあった。右の横穴からは僕たち同様に現状ご把握できない“高潔な血”の面々が立っている。
ここに広がっていたのは盗賊の死体の山と1体の人の形をした何かだった。
〜〜〜〜〜
どうしてこうなった。
カズスール山脈にアジトを構え、周辺の住民の金品や人を攫い、奴隷商や隣国のイグルーア帝国に売り捌く。足がつくことはなかった。
アジト周辺はAランクの魔獣も多く生息していたからなかなか手が出せなかったんだろう。手だれ揃いの俺たちも、魔獣により何人か入れ替わることとなる。
半年前に加入したのは優秀な男だ。特徴のない顔、中肉中背で街中で探そうと思ったら見つけるのは難しいだろう。
しかし、人狩りの情報収集や計画立案、役人の買収、闇商人との交渉、闘争経路や他国との繋がり。アイツが入ったことで全て上手くいき、俺はアイツを右腕にした。
ケチがついたのはドラゴンを目撃してからだ。
ドラゴンは災害指定されるほど危険な魔獣、高ランクの冒険者が徒党を組みようやく相手になるほど……流石に俺たちではどうにもならない。
悔しいがカズスールのアジトを捨てることになった。
王都周囲に根城を移した。複数のアジトが見つかり、場所を特定されないように定期的に移動していた。これもアイツの発案だ。
王都と周辺の都市を行き来するキャラバンや旅人、巡礼途中だった教会の信徒、薬草収集していた冒険者まで、俺たちは襲い攫った。アジトを変えても俺たちの勢いは止まらない。
しかし、流石に目立ちすぎたのか討伐隊が組まれることになる。その情報をいち早く仕入れた俺たちはアジトを王都北部に移す。この洞窟は山林にあり、馬で移動するにはちと厳しいだろう。騎士団が来るまでに逃走の時間が稼げるとふんだためだ。
そして騎士団連中は別のアジトに行くという情報が入っていた。だから俺たちも安心して酒を飲んでいたというのに。気付いたら何者かに襲われていた。
「な、なんだぁ?何が起きている?」
「わかんねぇ!いきなり現れて攻撃してきた!」
くそったれ!俺たちはカズスール山脈にいるAランクの魔獣とも渡り合ってきた。しかしそれはいつも万全な状態でだ。強い装備、回復薬や魔具などのアイテム、そして数の力。それらが揃いやっと渡り合っていただけだ。
だがこいつは宴会中に突然現れた。完全に無防備な状態、歴戦の俺たちも対応が遅れる。
「全員武器を取れ!敵をぶっ殺せ!」
相手はたったの1人。何人かやられたがその間に戦闘態勢を取る。
俺たちも反撃するが、全然手応えがない。
確かにこっちの攻撃は当たっているが効いている様子はない。しかし敵の攻撃は、1人また1人と確実に俺たちを戦闘不能にしていった。
逃げるか?出入り口は敵に塞がれているが、手下を囮にひて奥にあるもう一つの横穴から逃げれば……
ドゴォッ
ゴゴゴゴゴォッ
敵が壁を殴ると衝撃で天井が崩れ、敵に塞がれていた穴がなくなる。
そしてあれは魔法なのか?奥の出口に向かってレーザーの様なものを放つと、そこも衝撃で天井が崩れ、出入り口が2ヶ所とも塞がってしまった。まるで俺が逃げようとしたのを見透かしたかの様に。
これであの敵を倒さない限りここから出られなくなった。だが、その敵の正体が何なのか……俺には最後まで理解できなかった。
〜〜〜〜〜
僕たちが到着すると盗賊団が壊滅していた。
「え、なに?どうなってるの?」
魔獣か?人型の何かが盗賊団を襲っていた?
「アルフ殿、あれは……ゴーレムか?」
“高潔な血”と合流する。
「ご、ゴーレム?なぜこんな所に?」
動く人形ゴーレム、錬金術でできた叡智の結晶。専門外のためどういう原理で動いているのかは知らないけど。
「エルノールさんあれのこと何か知ってますか?」
「いやわからん。私も専門外だ。しかし、盗賊を襲うって事は味方なのか?」
「いや、向こうは我々を敵と認識したみたいだ」
リリスさんの言う通り、ゴーレムはゆっくりとこちらに振り向き、巨体を突進してきた。
「ホーリーバリア!」
詠唱破棄した簡易的な結界だ。ゴーレムは結界に阻まれるが数撃ももたないだろう。
「精霊魔術師は魔法準備!雷か氷で!」
エルノールさんとマリエッタ様は頷くと詠唱を開始する。
予想通りゴーレムが数回殴っただけで結界は壊れた。
「前衛お願いします!」
「アタシがいく!」
「まかせろ!」
リリスさんとセドリック様が出る。
リリスさんはカールちゃんに乗り、ゴーレムのパンチを擦り抜け、すれ違いざまに腕を切りつける。
セドリックにも攻撃を仕掛けるがこちらはコネリー様が受け、その隙にセドリック様とチャック様がそれぞれ足を攻撃する。
「………奔る稲光よ、敵を射抜き、灰燼へと変えよ!サンダーランス!」
「………絶え間なき氷の雨で全てを穿て!グレイシャースピアレイン!」
詠唱を終えた精霊魔術師の2人は魔法を発動。雷と氷の槍がゴーレムを襲い、上半身と下半身が分かれる。
「トモエさん!お願いします!」
「めぇええええん!」
トモエさんがゴーレムの分かれた上半身……頭頂部から腹部にかけ一刀両断にする。
「あぁ、力を入れすぎちゃった!」
ゴーレムも真っ二つになったけどトモエさんの剣も壊れたようだ。まぁもう敵もいないから問題ないはず。盗賊団はこのゴーレムが殲滅しちゃったし。
でも妙だな。このゴーレムは確かに弱くはなかったけど、あれだけ名の売れたキッドナ盗賊団が全滅するほどか?彼らはカズスール山脈のAランク魔獣とも渡り合ってきた連中のはずだが……
ゴゴゴゴゴ
音の方を振り向くと、バラバラになったゴーレムが復活していた。
「嘘だろ?あの状態で?」
なるほど、どんなに傷付けても再生するのか。聞いてた以上にやっかいだ。どんなに攻撃しても元に戻るならこっちの武器や体力の方が持たないだろう。
「そういえばゴーレムは核で動いていると聞いたことがある。どうやらその核を壊さないと倒せないようだ」
マリエッタ様が教えてくれるが、そういう事は先に教えて欲しかった。無駄に体力と魔力を消費したし、トモエさんの剣も一振り駄目になった。
しかし核か、問題はどこにあるか……
「リーダー、あのゴーレム、別れた部位の近くにあったのは身体に戻ったけど遠くに落ちたのは土に戻ったにゃ」
「どこの部分に向かって集まったかわかりますか?」
「左胸の方だと思うにゃ」
核があるのならその方向に向かって結合するはず。観察眼の鋭いシャルルさんの指摘は的確だ。
「トモエさん、竹刀の準備を!」
「えっ、竹刀?わ、わかった!」
ドラゴンとの戦闘ではトルムルさんの剣があったから使わなかった。というかカバンから出すのを忘れてたんだけど。
問題はゴーレムの防御力を突破できるかだけど……
「アルフ殿、俺がゴーレムの核への道筋を作る」
セドリック様には何か策がある様だ。任せてみよう。
完全に復活したゴーレムが再び突破してくる。
「盾お願いします!」
コネリー様が前に出て突進を止める。
その隙に……
「光の神イーリスよ!汝の御手より放たれる聖なる鎖よ、天地を貫きて降り注ぎ、闇を纏う者を縛り上げ、その力を断ち、逃れ得ぬ牢獄に閉じ込め給え。汝の光は審判の鉄槌、邪悪を逃さぬ網。ここに捕らえられし者は、永き時すら縛られる!グレーターチェーン!」
光の鎖がゴーレムを拘束する。しかし首だけはせわしなく動いている。そして僕の方を向くと動きが止まると顔が光り出した。これはデジャヴだ。ドラゴンとの戦闘を思い出す。
「グレーターバリア!」
ゴーレムの顔の至近距離に結界を張る。ゴーレムのレーザービームを撃つが結界に阻まれ、ゴーレムの顔は壊れた。
2回目だからね、今回はちゃんと対応出来た。ドラゴンとの戦いは決して無駄じゃなかった。
そしてセドリック様がゴーレムに触れると肩に穴が開く。例の魔具の能力だ。これで核を守るものはない。
「今です!左肩から下に向かって撃ってください!」
「了解」
トモエさんはゴーレムに飛び乗る。
「核、発見!」
竹刀を左肩にできた穴に突き刺す。
この竹刀はトモエさんが転移してきた時一緒に持ち込まれてきた物で、その際に魔法道具として再構成された。能力は魔力をチャージし、一気に解き放つ。そしてすでに僕の魔力でチャージ済みだ。
「リリース」
解き放たれた魔力の奔流はゴーレムの身体ごと核を粉砕し、地面に大穴を開けた。今ので核が壊れたのだろう。魔力砲に当たらなかった部分も、みるみるうちに土に戻っていく。
今度こそ倒した……が、一体このゴーレムは何のためにここにいたのだろう?




