22話 討伐作戦
決行前日、僕は冒険者ギルドに集められた。他のパーティの顔合わせが目的だろう。
ギルドマスターの部屋には3人いた。ギルドマスターにビルさん、もう1人は僕とさほど歳の変わらない少年だ。……でもどこかで見た事あるような?
「遅れてすみません。僕で最後ですか?」
「ああ、大丈夫だ。じゃあ揃った所で話を進めようか」
ギルドマスターが皆を見渡す。
「今日集まって貰ったのはパーティの顔合わせだ。ビルは顔見知りだろうが、今来たのがAランクパーティ“闇鍋”リーダーのアルフだ。今回のクラン遠征では指揮を執ってもらう」
紹介されたので自己紹介をする。
「“闇鍋”リーダーのアルフ・ガーレンです。よろしくお願いします」
「そして、Bランクパーティ“鋼の剣”リーダーのビルだ。アルフはAランクだがまだ経験年数が浅い、補佐を頼む」
「ああ、任せろ」
ビルさんが短く応じる。
「んで、最後に数日前Cランクに上がった“高潔な血”リーダーのセドリック、ウルキューレ王立学園の生徒でもある。今回は経験を積ませるために参加させた」
「ハライド公爵家5男、セドリック・ハライド・サーペントだ。」
ああ、やっぱり。記憶が繋がった。教会にいた頃、一度だけ顔を合わせたことがある。
「アルフ殿、久しいな4年ほど前だったか、一度お会いしたのは……」
「セドリック様、僕の様な者を覚えていていただき光栄です」
「なんだアルフ、セドリックとも知り合いだったのか?」
ギルドマスターが目を細める。
「ええ、教会に所属していた時に,貴族との会合があってそこで……」
「しかし何故冒険者に?教会にいればアルフ殿ならさらに上に行けたはず……」
「それは、やんごとなき事情があって……」
「やはり何か理由があるのか、君の事だからそうだと思ったよ。しかし、冒険者になってたった3年でAランクまで上がるとは……優秀な者は場所を選ばぬ、か」
彼は貴族らしい誇り高さを漂わせながらも、真っ直ぐな眼差しを僕に向けてきた。
「私や“闇鍋”がAランクに上がれたのは、私だけの力じゃありませんよ」
「そうだったな、“闇鍋”にはSランクの“破壊者”もいたな」
「彼女にはメンバー全員ごぼう抜きにされましたからね」
「さて、話を戻すぞ」
ギルドマスターが声を張った。机に地図を広げ、指先でいくつかの地点を示す。
「依頼はキッドナ盗賊団の討伐だ。奴らは規模が大きく、アジトも複数ある。王都周辺の都市では住民や教会関係者、冒険者までもが拉致されている。だから今回は王宮騎士団と修道騎士団も合同で動く」
「冒険者にも被害が出てんのか?」
「ああ、最近なったばかりのルーキーだがな」
「しかし、盗賊討伐にしては大掛かりですね……」
「奴らは規模がでかい、アジトも複数ある。王都南部の砦跡地は王宮騎士団に、ヒルランテ間にある古城跡地は修道騎士団に、王都北部山林にある洞窟はお前達の担当だ」
地図上で示された北の山林は険しい尾根が連なっている。僕たちが一番面倒なルートらしい。まあお上品な騎士団には険しい山林を行くのは厳しいか。
「ボスはゲーツ・ヤリーピチ。賞金首で大金貨二枚だ。そいつと幹部の首、それに拉致された者の奪還が目標だ。明朝、王都北門に集合し、馬車で山林へ向かってもらう」
「分かりました。ではビルさん、セドリック様、明日はよろしくお願いします」
「おう、また明日な」
「うむ、よろしく頼むぞ」
〜〜〜〜〜
翌日、出発の時刻となった。僕たち“闇鍋”は王都北門に向かう。
「おっ、“闇鍋”だ」
声をかけてきたのは“鋼の剣”の面々だ。。
「みなさん、おはようございます」
「おう、あれ?ブルーノはどうした?」
「ブルーノさんは他にやる事がありまして、しばらく“闇鍋”は5人で活動です」
「あれ?そうなのか?」
「ええ、なので今日はテッドさんに頑張ってもらわないといけません」
“鋼の剣”の重戦士に声をかける。
「まかせろ!」
重戦士のテッドが力強く笑った。
そうこうしてるうちに北門に到着する。すでにギルドマスターと“高潔な血”のメンバーが揃っていた。さすが貴族の子息のパーティだ。Cランクには見合わない豪華な装備をしている。
「おっ?来たな」
「おはようございます」
「おうギルマス、見送りか?」
「まあな」
僕とビルさんはギルドマスターに挨拶する。
「遅いぞ貴様ら!何をしている!」
怒鳴ったのは重戦士のコネリーだったか?
「なんだぁ?テメェらは貴族のガキだったか?ちゃんと時間通りに来ただろうが!」
「平民の分際で我々を待たせるとは何事か!時間より早く来るのは当然であろう!」
完全に貴族至上主義だな。冒険者の世界じゃ通用しない理屈だ。
「よせコネリー」
セドリック様が割って入る。
「この者たちは俺たちの従者じゃない。今回俺たちとともに戦う仲間だ、上も下もないだろう」
その一言でコネリー様は顔を赤らめ、渋々引き下がった。
「す、すまないセドリック」
「皆の者すまない、コネリーは気が強すぎるのだ」
セドリック様が頭を下げる。貴族が平民に頭を下げるのは異例だが、彼は迷いなくそうした。
「家名に誇りを持つのは悪いことじゃねぇけどな、仲良くやろうぜ?」
ビルが肩を竦める。場がおさまったのを確認しギルドマスターが口を開く。
「それぞれのリーダーには説明したが、こっちが今回クランのリーダーを務める“闇鍋”のアルフに、サブリーダーが“鋼の剣”のビルだ」
ギルドマスターが話している間、“高潔な血”の3人が僕たちを睨む。まだ納得していないのだろうか。
「馬車を2台用意した。これで向かってくれ」
「2台……ですか」
確かに1台で行くには人数が多すぎるか……しかしどう分けるか。
「じゃあアルフ、後は頼んだぞ」
「ええ、行ってきます」
〜〜〜〜〜
馬車の組み分けは1台目にビルさん、テッドさん、マークさん、エルノールさん、リリスさん、シャルルさん。
2台目に僕、トモエさん、ホプキンさん、に“高潔な血”のメンバー全員。
リーダーとサブである僕とビルさんは別々だ。“高潔な血”と“鋼の剣”は揉めていたからな。ランブルグ王国の貴族は異種族のことも快く思っていない者が多いらしい、“闇鍋”メンバーとも分けた方が良いだろう。
また、“高潔な血”には斥候がいない。獣人族のシャルルさんがこっちに来るより、ホプキンさんの方が相性がいいはず……
「ホプキンさんに御者を任せてしまいすみません」
僕は連絡窓から声をかける。
「気にするな。俺もそっちであいつらの相手をするより御者の方が楽だし……お前も大変だな」
「はは、僕は貴族と接する機会がありましたからね」
貴族への対応は教会に所属していた時に培った対人スキルが役に立った。
しかし……うちのコミュ障はちゃっかりホプキンさんの隣に座っている。御者をスムーズに交代するという理由らしいけど……
そして荷台には僕と“高潔な血”が陣取っていた。
「アルフ・ガーレン……」
「コイツがあの“性職者”……」
「女の敵……」
“高潔な血”のメンバーは値踏みする視線を送っていた。
「あの、なにか?」
「いや、貴公が今最も勢いのある冒険者か……と思ってな」
「言っては悪いがとてもAランクの冒険者には見えなくてな」
「良さないか!失礼だぞ!」
セドリック様が止めに入る。
「いえいえ、よく言われることです」
僕は微笑んで答えた。
「Aランクの貫禄がないって。それに私がAランクになれたのもパーティメンバーの力があってこそですから」
「アルフ殿のメンバーは多種族で構成されていたな。どうしてそんなパーティにしたんだ?」
「私が目標にしていたパーティの真似ですよ」
「それはもしかして……」
「ええ、“地獄の番犬”です」
「やはり、あのSランクパーティを……」
「彼らは何十年もランブルグ王国の冒険者を引っ張っていますからね。性格に難はありますが」
「“地獄の番犬”も“不死鳥”も父上が何度も声かをかけているが音沙汰なしだ。返事をくれたのは“一角獣”くらいだ」
ハライド公爵は魔法道具コレクターとしての一面があると聞く。レアな魔法道具を集めるのは高ランクの冒険者を雇った方が効率がいい。しかし、高ランクの冒険者は変わり者が多いからな、貴族の依頼を受けるとは思えない。それを考えると冒険者として変わっているのは“一角獣”の方なのか。
気付くと“高潔な血”のメンバーがこちらを見ている。何か気に入らないことでも言ったかな?
〜〜〜〜〜
その夜。野営地に焚き火の灯りが揺れる。明日の夜には盗賊団のアジトに到着するだろう。緊張のせいか、眠気はあまり来ない。
セドリック様が用を足しに場を離れた隙に、“高潔な血”の三人、重戦士コネリー、魔術師マリエッタ、槍士ライナーが近付いてきた。
「アルフ・ガーレン、話があるんだが、こっちに来てくれないか?」
誘われるままキャンプ地から離れた所に移動する。
「提案があるんだが、クランのリーダーを変わってくれないか?」
何を言ってるんだこの人達は?
「ランクは貴公の方が上だが、貴公もAランクに上がったばかり……クランをまとめるのは実力不足だと思うのだ」
「その点セドリックは公爵家の子息だ。人をまとめる能力には長けている」
なるほど、平民である僕の指揮下に入るのは気に入らないからセドリック様にリーダーを代われと言うことか。そんなの当然……
「お断りします」
「なんだと!」
「私はクランのリーダーであると同時に“闇鍋”のリーダーでもあります。メンバーの命を預かってるんです。うちのメンバーを危険に晒す訳には行きません」
「それはつまり貴公の方がセドリックよりもクランをまとめる事が出来ると言いたいのか?」
「私は貴族の方には一応敬意を表しはしますが、貴方たちの言いなりになるわけではありません。騎士とかならいざ知らず、冒険者は実力主義です。いくら身分が上だろうと実力が劣る者に命を預けることは出来ません。それに今回の依頼はBランクです。Cランク貴方方は何故この依頼を推薦されたか、理由はわかりますか?」
「我々が優秀だからに決まっているだろう!我々なら簡単に依頼をこなせると」
どこから来るんだその自信は……
「経験を積ませるためですよ。だからAランクの“闇鍋”も参加してるんです。なるべく死傷者を出さないようにするためです。その貴方方に指揮を任せられるはずがないという話です」
「神聖術師のくせに偉そうに」
「そのセリフは神聖術師に一度も助けられた事ない人が言うセリフですよ」
“地獄の番犬”みたいにね。
「黙れ!貴族の血を引く我々が、汚れた種族を連れたパーティに……」
「汚れた種族?」
僕は冷たい声で遮った。
「貴族の方々が只人族以外を快く思っていないのは知っています。しかし汚れた種族とはどういう意味ですか!」
「こ、言葉の通りだ。他の種族など汚れている、洞窟や森の中に住んでる奴らだぞ?それに魔人族には魔王となった者もいる!」
貴族が只人族至上主義とは聞いていたが、ここまで酷いとは思わなかった。
「彼女自身は魔王でも犯罪者でもありません……これ以上僕のパーティメンバーを侮辱するのなら容赦しません」
言葉こそ丁寧だったが怒気をはらんでいた。僕の怒りに気付いたのか3人は言葉を失う。その時、
「いないと思ったらこんな所で何をしている?」
セドリック様が探しに来たようだ。
「いや、これは……」
3人がしどろもどろになる。
ははぁ〜ん、さてはこの件セドリック様は関与してないな?おかしいと思った。
これまで見てきたセドリック様は少なくとも、平民だから異種族だからと不遜な対応をする方ではなかった。ギルドマスターや冒険者にも敬意を払っているのを感じとれた。
やはりこの3人が独断でしたことか。
「コネリー様たちが僕の指揮下に入るのが不満のようで、セドリック様にリーダーを貴方に代わって欲しいと提案されまして……」
三人は慌てて取り繕おうとするが、僕は包み隠さず伝えた。
「貴様ら……この期に及んでまだその様な事を……」
セドリック様のこめかみに青筋が立つ。
「アルフ殿申し訳ない。お手数だが、貴公の力をこのわからずや共に見せてやってはくれまいか?」
「いいんですか?」
「構わない。アルフ殿の能力に不満がある様だからな。存分に見せてやってくれ」
といっても神聖術師の僕ではお灸を据える魔法なんて……もうあれでいいか。
「グレーターバリア」
3人の周囲に結界を張る。
「アルフ殿は元大司教だ。次期教皇とまで言われていたな。その結界を敗ることができたら戻ってきていいぞ」
「安心して下さい。詠唱破棄した結界ですから強度はそこまで強くありません。ドラゴンと同程度の攻撃力があれば簡単に壊れますよ?」
その言葉を聞いて3人の顔は青くなる。
「セ、セドリック!アルフ殿!」
「お待ちになって!」
「我々が悪かった!」
3人を無視してセドリック様とキャンプ地に戻る。他の面々には何も伝えなかったけど、ある程度の事は察したようだ。むしろ無礼な人たちがいなくなって清々した様子だ。
結局3人は朝まで経っても戻って来ず、セドリック様と迎えに行くと憔悴してへたり込んでいた。周りには魔獣の足跡らしき物があった。結界越しとはいえ生きた心地がしなかっただろう。
セドリック様は冷たく言い放った。
「これで身分が盾になると思うな。冒険者の世界は違う」
三人は黙ってうなだれた。
十分反省したようだし、お灸はこの辺にしてゆっくりしてもらおう。今夜は決戦だ。




