21話 マギの弟子
話し合いの後、アルフさんは盗賊団壊滅の依頼受けるとギルドに報告する。
そしてその日の夜、私はエルノールさんの家を訪ねた。
「あら、トモエちゃんじゃない。いらっしゃい」
奥さんのララノアさんが出迎えてくれた。アルフさん以外は顔見知りだ。
ブロンドの髪を腰まで伸ばしている。背も高くスレンダーな美人だ。ますますアルフさんには会わせられないな……
「お邪魔します。エルノールさん居ますか?」
「いるわよ。トモエちゃんもうご飯食べた?よかったら食べていって」
「いいんですか?いただきます!」
ララノアさんの手料理、楽しみだな。
ダイニングに案内される。エルノールさんがテーブルついていた。
「トモエじゃないか。こんな時間にどうしたんだ?」
「実は……」
私は食事を楽しみつつ、エルノールさんのお宅にお邪魔した目的を説明する。
「魔法を習いたい?」
「うん、私どうしても魔法を使ってみたくて!魔力増強訓練を始めたばかりだけど……お願いします!私に魔法を教えて下さい!」
エルノールさんは精霊魔術師、魔法のエキスパートだ。子供の頃から憧れていた魔法をどうしても習いたい。
小さい頃、魔法少女アニメを見て憧れたのが最初だった。「こんな風に魔法が使えたらいいのに」って何度も思った。まさか本当に魔法が存在する世界に来ることになるなんて思いもしなかったけど。
「魔法っていっても私が教えられるのは精霊魔術だけだぞ?」
「魔法と魔術って違うんですか?」
「そこからか…まぁいい、基本から言おう。魔術とは魔法の1つだ。魔法は精霊魔術、神聖術、呪霊術の3つに分類される。精霊魔術……魔術のことだが、このプレステラに存在する精霊の力を借りる魔法」
それがエルノールさんのことだね。
「神聖術は光の神イーリス様を信仰することでその力を借りる魔法……」
これはアルフさんのことだ。そういえばイーリス様もそんなこと言ってたな。
「そして呪霊術は闇の神フェリス様を信仰することでその力を借りる魔法のことだ。要するにどの力を借りるかで使える魔法も異なるということだ」
なるほどね。アルフさんはイーリス様を信仰しているから神聖術を使えるというわけか。他の神様でも使える魔法は変わってくると。
「人は誰しも魔力と呼ばれるものを持っているが、魔法を使うにはかなりの魔力を消費する。そのため魔力の総量の多い者にしか魔法は使えない。残念ながらトモエ、君は魔法を使えるほどの魔力を持っていないんだ」
私は幼少より空想の世界が好きだった。ファンタジーに憧れ、その手の物語を読み漁った。一度でいいから魔法を使ってみたかったが、成長するにつれそれは実在しないという現実を突きつけられる。
しかしこのプリステラでは魔法は実在する身近なものだ。異世界召喚され、子供の頃から憧れていた魔法を使いたいという夢を再び思い出した。
召喚されてすぐに魔法適正はないって言われたけど諦めきれなかった。最初は言葉を覚えたりチート能力のコントロールで魔法に関わる余裕はなかったけど、今なら余裕がある。魔力が少しでもあるのなら魔法を使ってみたい!
「…………しかし、魔力総量の少ない者でも決して魔法を使えないわけではないぞ?」
「え?本当?」
希望の光が見えてきた!やっぱり諦めなくて良かった。
「例えば、魔法の道具を使うとか。君がこの世界に来た時に身につけていた物とか」
私が持っていた物。竹刀にカバン、筆記用具に画材道具、スマホ、そしてセーラー服。確かに召喚した際、特殊能力がある物に作り変えられた。セーラー服は防刃性の高い素材に、カバンはマジックバックに、筆記用具や画材道具は消費しない物に、竹刀は魔力をチャージすることで一度だけ必殺技を使え、スマホには鑑定機能が付いている。でも…
「そういうのじゃない、竹刀はともかく他の道具は魔法っぽさが足りない!その竹刀もアルフさんやエルノールさんに魔力をチャージしてもらわないといけないし……」
「しかしなぁ、トモエの魔力じゃ実戦で使える魔法なんて……」
「それって実戦で通用しない程度の魔法なら私くらいの魔力でも使えるってこと?」
「そうだが、君はもっと派手なのが使いたいんじゃないか?爆発したり……」
「そうだけど、贅沢は言ってられない!私でも使える魔法があるなら教えてください!」
「わかった。君がそれでいいなら教えよう」
こうして私は時間がある時に魔法を習う事になった。
〜〜〜〜〜
トモエさんとエルノールさんの様子がおかしい。2人きりで話す事が増えている気がする。仲いいのはいいことなんだけど、今まで僕の後を付いてくるだけだったのに。
このモヤモヤした気持ちはなんだ?
「リーダー、トモエのことが気になるのかにゃ?」
シャルルさんに指摘されて、自分でも驚いた。確かに最近、トモエさんの動向が気になってしまう。
でもなんで?別に特別な感情があるわけじゃ……ないよね?
「え?なな、何のことですか?」
「ここ最近トモエの事を目で追ってるにゃ」
「いえ、なんかエルノールとずいぶん仲がいいんだなと思って」
「言われてみたらそうだにゃ。そういえば夜も出かける事が多いし、もしかしたらエルノールに会いに行ってるのかも……」
「許せない……」
「にゃっ?」
今まで力をコントロール出来ず、僕が大怪我するのを覚悟でお世話をしてきたというのに。
他のメンバーはその間トモエさんの事を腫れ物のように扱っていたくせに、コントロール出来るようになったら僕から奪っていくなんて……しかもエルノールさんは妻帯者だろう。
「美人な奥さんと毎日色んなことを出来るのに、その上トモエさんにまで手を出すのか?許せない!呪ってやるぞ!」
「リーダー……とても聖職者とは思えない発言にゃ。気になるなら聞いてみたらいいにゃ」
また心の声をつぶやいてしまった。
「べ、別に気になってなんかないですよ!」
「そんなに必死に否定しなくてもいいにゃ。素直じゃないにゃ」
シャルルさんが呆れている。
「ギスギスするより仲が良い方がいいにゃ。それに2人ともリーダーが思ってるような関係じゃないと思う」
「そんなのわかりませんよ。男と女なんですから」
まったく、この猫娘はお金とご飯しか興味ないんだから……男女の関係はそんな単純じゃないんだよ?
「エルノールさんだって2人きりになれば手を出すに決まってます。あんなおっぱいも大きくて可愛い子に手を出さない方がおかしいんですよ」
「…………みんなリーダーみたいだったら、もっと性犯罪が横行しているにゃ」
この猫娘……僕のことをなんだと思っていやがる。
〜〜〜〜〜
結構日まであと3日、僕はエルノールさんとトモエさんの3人で王都近くの森に来ていた。先日エルノールさんが焼け野原にしかけた所だ。
ここで魔力向上訓練を行うため座禅を組み、瞑想をする。
「でも本当にこんなので魔力が上がるの?」
「ただ座るだけでは魔力は上がりませんよ。この訓練で大事なのは身体中に魔力をめぐらせる事」
「そんな事言ったってよく分かんないよ」
「トモエの“怪力”の能力、あれには魔力が感じられる。能力を使うイメージをしてみてらどうだ?」
と、エルノールさんがアドバイスをする。
出会った頃は能力を全くコントロールできていなかった。元の世界では魔力そのものがなく、その代わり科学と呼ばれるものが発達しており生活には困らないという。
今まで存在すらしなかったものを急に操れといわれても無理な話だ。しかし今は“怪力”の能力を操る事ができている。
「わかった、やってみる」
トモエさんのの身体に魔力が巡っているのがわかる。
「その調子です。そのまま身体を巡っている魔力を多くしていくイメージです」
「うん」
しかし、トモエさんの総魔力量は普通の人(魔法を使わない人)と変わらない。その少ない魔力でドラゴンに対抗できるくらいの怪力を得るなんて……これがトモエさんのいうチートというやつか。
こうして時間は過ぎていった。
〜〜〜〜〜
日が暮れ始めたので今日の訓練をやめて、宿に戻る事に。
「あ、あの……トモエさん?今夜なんですけど一緒にご飯食べに行きませんか?」
「えっ?あーごめんなさい、今日っていうかしばらく夜は用事があって……」
「よ、用事ってもしかしてエルノールさんが関わってます?」
「なんだ知ってたんだ。そうなの、今エルノールさんに付き合ってもらってるの」
「つつつ付き合う?エルノールさんには奥さんがいるんですよ?」
「知ってるよ。ちゃんと奥さんの許可もらってるし……」
奥さん許可してくれたの?いや、でもそれっておかしくない?普通の奥さんなら嫉妬するでしょう?どれだけ寛容なの?
「アルフ……お前何か勘違いしてないか?」
はて、勘違い?エルノールさんとトモエさんが不倫しているのが勘違い?もしかして……
「奥さんと3人で及んでいるってことですか?」
「???」
トモエさんが首を傾げている。
「何を言ってるんだお前は?」
2人は事のあらましを説明する。
「なんだもう、それならそうと早く言って下さいよ。てっきり2人でくんずほぐれずな事をしてるのかと思ったじゃないですか!」
「アルフさんが勝手に勘違いしたんでしょ!」
トモエさんは顔を真っ赤にして言い返す。
「でもそれなら言ってくれればよかったのに。まぁ他のメンバーは精霊魔術は使えませんから力になれるかは微妙ですが……」
「だって、今はみんなで強くなろうって努力してる時なのに、私だけ趣味で魔法を覚えようとするのは気が引けて……」
「そんなことはないですよ。どんな努力だって無駄なことはありません。ただ優先順位は必要ですけどね」
「だから言っただろう。別に隠す必要はないと」
「うん!そうだったね」
「トモエさん、練習の成果を見せてください」
「う……いいけど、まだ成功した事なくて……」
「構いませんよ」
「じ、じゃあ……」
トモエさんは手を出すと呪文を唱える。
「おほんっ、いくよ!火の精霊よ、小さき種火をここに灯せ。フレイム!」
トモエさんが呪文を唱えると手から煙が上がる。
「だめだ……また失敗」
がっくりと肩を落とす。まだまだ始めたばかりだもんね。
「最初はそんなものだ。私は一回でできたが……」
エルノールさん、最後の言葉はいらない。
トモエさんがさらに落ち込んでしまうじゃないか。
「そういえば精霊魔術ってどうすれば使えるんですか?神聖術は女神様を信仰して認められれば、実力に見合った魔法を使えるようになりますが……」
「まず精霊と契約する必要があるな」
契約か……どうするんだろ?
「契約といっても難しいことじゃない。さっきまでやってた魔力向上訓練があるだろ?ああいう風に集中していると精霊の声が聞こえるようになる」
試しにやってみる。ほうほうなるほど、耳を澄ますと確かに何か囁く声が聞こえるような気がする。
「魔法を使う要領で魔力を込めながら語りかけてみる。すると近付いてきて返事をしてくれるようになる」
「精霊様、我が声に耳を傾け下さい」
『★●〻∞△仝○』
近くで何か聞こえる気がする。何を言っているか聞き取れないけど……
「魔力を与えてみて精霊が気に入れば契約成立だ。その精霊に合った属性の魔法を行使することができる」
僕は声の方に魔力を込める。すると僕の周囲をぐるぐる回る気配がする。これは気に入って貰えたのか?これは火の精霊かな?
「火の精霊よ、小さき種火をここに灯せ。フレイム!……あっ、できた」
僕の手から火が灯る。おぉ、これが精霊魔術か……
「な、なんで……なんでアルフさんが精霊魔術を覚えちゃうのよぉっ!」
トモエさんが悔しそうに言う。確かに僕が一発で成功してしまったのは申し訳ない。
「すみません……運が良かっただけです」
「絶対運じゃないでしょ!」
「ま、まぁ前例がないわけじゃないが……」
エルノールさんの言う通りだ。神聖術師でありながら精霊魔術や呪霊術を使える人は存在する。ごく稀だけどね。
「大丈夫なのか?その、浮気なんかして神聖術に影響はないのか?」
どの術師でも他の分野の魔法を使うことは浮気と表現されている。僕が調べた文献では浮気をしても魔法の効果が下がるといったものは見つからなかった。正直神聖術以外の興味はなかったがこんな形で魔術を使えるようになるとは……
文献通りだといいんだけど……
「でもアルフさんが魔術を使えるようになったら……エルノールさんはどうなるの?」
トモエさんはエルノールさんをチラチラと見る。
「む?」
「どうもなりませんよ。例え精霊魔術を使えたとしても僕の専門は神聖術ですし、この通り大した魔法は使えません。エルノールさんはこれまで通り、精霊魔術師として活躍してもらいます」
「よかった……」
トモエさんは安心する。
「しかし、もったいないな。アルフの魔力量なら精霊魔術を極める事もできるだろうに」
本来魔法とはどの分野の術でも、人生をかけて極めるものだ。精霊魔術を齧った所で肝心の神聖術が中途半端になったのでは意味がない。
「僕は“闇鍋”の神聖術師ですから!」
「……そういえばエルノールさんが前に言ってたけど、火属性の魔法って温度を調節する事で衣服のみを焼く事ができるんだよ?」
「トモエ?なにを言って?」
「でもいくら神聖術師でも、少しは僕も攻撃手段を持った方がいいと思うんですよね。だから僕にも精霊魔術を教えて下さい!」
「アルフ……お前……」
服だけ燃やす魔法?そんな素晴らしい魔法があるなぜひ覚えないと。
「どうしてあんなデマを言ったんだ?」
「えへへ、だってアルフさんと一緒に魔術を覚えたかったから」
内容は聞き取れないが、2人がまたコソコソ話している。そんなことより、どうやって温度調節するんだ?研究せねば!
こうして僕とトモエさんは精霊魔術師の弟子となった。




