19話 サーペント領
約1ヶ月前、俺たち“一角獣”はハライド公爵に呼ばれサーペント領に来ていた。
また子守りの依頼だろう。
「はぁ、せっかく先輩と新婚旅行だったのに……また子守りの依頼ですか」
と馬車の中で“闇鍋”の遠征についていこうとしたらステラがぼやく。
こいつの頭の中ではアルフとの関係はどうなってるんだ?
「まあそう言うな。それにこれはお前のためでもあるんだからな」
「わかってますよ」
“一角獣”はSランクパーティでメンバーも高ランクだが、このステラだけは違う。ステラは俺たちがSランクになり王都に拠点を移した時に加入した新メンバーだ。
もともと王都の教会に所属していた司祭で、高レベルの神聖術師でもある。
アルフのせいで霞んでしまうが。
まだ冒険者になって1年ほどしか経っておらず個人ランクもC……そのため、高ランクの依頼ばかりだと身体が持たないし、経験を積ませる意味でもこういう依頼を受けるようにしている。
今回の依頼はハライド公爵家5男のセドリックが作ったパーティの護衛だ。
護衛をする側の冒険者に護衛をするってのもおかしな話だが、相手は貴族の子供で、まだ学生でもある。まぁ貴族相手ではよくある話だ。
「でもあの人達守ってもらう側なのにいつも偉そうなんですよね。まあリーダーには一応敬意を表してるようですけど……全く、何度私の結界で助けられたと思っているのだか」
「同年代なんだから仲良くしろよ。それに彼らは冒険者としてはお前の先輩になるんだからな」
彼らは学園入学後に冒険者登録をした。それから授業を受けながら依頼をこなし5年目にしてパーティランクはDだ。
「5年かけてDランクって、正直どうなんでしょうね」
「言っとくがお前やアルフ昇格の早さが異常なだけだからな。普通はこんなもんだ。それに彼らは学業と両立してるわけだし」
お坊ちゃまたちにはお坊ちゃまたちなりの事情がある。
「それに、仲良くなったら嫁にしてくれるかもしれないぞ?」
あ、パルの馬鹿……
「はぁ?ヨメェ?なんで私があんなプライドだけのゴミ虫共のお嫁さんにならないといけないんですか?まだ呪具に操られてるんですか?寝言は寝て言ってください!」
ステラはよく家に生息し、爆発的な繁殖力を誇る黒い虫を見つけた時の様な、または苦虫を噛み潰したよう様な顔をしている。
お前、絶対依頼中にそんな顔するなよ。
「ゴ、ゴミ虫はさすがに言い過ぎだろう…」
「だって本当のことですもん。先輩以外の男性なんてゴミ以下です」
これだからアルフ信者は困る。
「わ、悪い…軽い冗談のつもりだったんだが、センスが悪かったな……ああ、そうだ!そろそろ御者を変わろうかなぁ」
気まずくなったのか逃げ出した。
「エレイン、変わろう」
御者をしていたエレインに話しかける。
「ん〜?さっき変わったばっかだからまだ後でもいいぜ?」
「いや、今がいい。今変わってくれ頼む」
「お、おう……それなら」
無事に代わってもらえたようだ。
「まったく……先輩のお嫁さんになるのならともかく、何が悲しくて貴族風情なんかと……」
「あんな変態の何がいいの?」
今度はアルフにいい思い出のないクレアがつぶやく。
「ビッチさんには分からなくていいです」
ステラが加入してすぐ、アルフがクビになった経緯を伝えた。しかしステラはアルフの事を物凄く崇拝しており、覗きや痴漢行為をしても評価が下がることはなく、逆にクレアとリーシャの方がアルフの事を誘惑したビッチ扱い。
「ちょっと、ビッチってわたしのこと!?」
「先輩の事誘惑したくせに」
今度はクレアとバチバチだ。狂犬かこいつは……
「ステラ……いい加減にしろ!クレアとリーシャがセクハラされたのはアルフも認める事実だし、被害に遭ったのはこの2人のせいじゃないだろ」
「む……」
「それに誘惑したっていうけどな、あいつ女神様にも興奮してるって聞いてるぜ?お前は神聖なる女神様もアルフの事を誘惑してるって思うのか?」
「ぐふぅっ」
ガクガクガク
おっ、これは効いてるな。足が産まれたての子鹿のようだ。さすがのステラも自分が信仰する相手をビッチ呼ばわりは出来ないようだ。
「そ、それは…女神様は別です…」
「別じゃないだろ。アルフの性癖に女神様も一般女性も関係ないんだよ。要するに奴は見境なしの変態だ」
「うぐぐ…」
ようやく黙った。これでしばらくは平和になるだろう。
〜〜〜〜〜
サーペント領に到着、屋敷でハライド公爵に謁見していた。
「楽にしてくれ、私と君の仲だ」
「ありがとうございます。これが王都北西にあるダンジョンで見つけた魔具です」
俺はダンジョンで見つけた腕輪型の魔具を手渡す。パルが呪われる前に手に入れていた物だ。今回の収穫はこれだけ。性能は魔力を込めると魔法を発動させることができるというありふれた物だが、魔力を込めるだけで複数属性の初級魔法を即座に発動できるという珍しい機能を持っている。魔力量の少ない者でも扱えるのが利点だ。冒険者にとってはあまり価値がないが、貴族や文官にとっては重宝するだろう。
ハライド公爵は魔法道具コレクターでもあり、冒険者に依頼してダンジョンで見つかる魔法道具を入手している。
「ふむ……これは確かに興味深い。いつも世話になる」
公爵は目を細めて腕輪を眺めている。
「それにしても今回は,大変だったみたいだな。まさかあの“守護者”が呪われるとは……呪具もいくつかは持っているが、これからは集めるのは控えた方が良さそうだ」
「その方がいいでしょう……今回も“性職者”がいなければ死傷者が出ていたところです」
「“性職者”……アルフ・ガーレンか。彼も王都に来ているんだったな」
「アイツを知っているんですか?」
「ああ、彼が教会に所属していた時に何度かね。騎士団も彼の神聖術に随分助けられたものだ。しかし、前に会った時は“性職者”なんて二つ名をつけられるような者ではなかったんだが……」
冒険者になってからのアルフを知らないのか?そういえば教会の奴らもやたらとあいつの事を崇拝してたな。ステラを筆頭に……薬や洗脳とかしてないだろうな?
「まあ、あいつの本性を知らなければ聖人君子に見えますからね」
「本性?」
「説明すると長くなります……」
「まぁ彼にも頼みたいことがあったからな。いずれ声をかけるとしよう」
「“性職者”に?うちのステラではダメなので?」
「彼女か……優秀な神聖術師ではあると思うんだが、貴族との対応を見るとあまり政には向いてなさそうだからな」
うん、俺もそう思う。あんたの息子のことゴミ虫って言ってたし……
「ステラは…率直すぎるところがありまして」
「率直なのは悪いことではないが、外交となると別だからな」
公爵も苦笑いしている。息子への態度を見ていたのだろうか。
「それに彼は神聖術だけでなく、大司教まで登り詰めた手腕と実績がある」
確かに、教会の人間も聖人君子じゃないからな。その中で上まで行くっていうのも実力あってのことだろう。
「しかし、君がSランクになってくれてよかったよ……“地獄の番犬”や“不死鳥”にもコンタクトを取ってみたんだが、取りつく島がなくてね」
だろうな。あのジジイは強い奴にしか興味ないし、貴族と付き合う気などさらさらないだろう。
50年くらい前か、貴族相手に失礼な態度を取り、処刑されそうになったが、捕まえに来た王宮騎士団をことごとく返り討ち、一個師団を壊滅させたことがある。
当時の貴族連中は冒険者を下賎な輩と横柄な態度や無理難題を押し付けたりしていたが、それからはうるさく言わなくなったそうだ。
“不死鳥”の親父もジジイと似たようなもんだ。アイツらは社交性を犠牲にして強さを得た様なもんだからな。
「ではそろそろ……息子の事を頼んだ」
「おまかせを」
〜〜〜〜〜
公爵と別れ、客間にいるメンバーと合流する。
サーペント領にある鉱窟でハイオークが多数出没するようになった。Cランクの依頼だ。
そしてこの依頼を受けたのが公爵の息子のセドリック・ハライドが率いる現在Dランクパーティの“高潔な血”だ。
俺達の役割は万が一が起きない様に危なくなった時に手を貸す事。
ノックがあり、部屋に入ってくる。件の“高潔な血”の面々だ。
「ギルベルト殿、よく来てくれた。今回もよろしく頼む」
「ええ、それでは今回も“一角獣”の神聖術師をつけさせてもらいます。セドリック様なら大丈夫とは思いますが、万が一の処置ですのでどうかご容赦を」
「構わない……ところで父上は俺のことを何か言っていたか?」
やはり父親の評価が気になるのか。気持ちは分からんでもない。
「息子のことをよろしくと」
「……そうか。では出発しよう!」
俺達は目的の場所へ向かう。




